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第十六話 キ イ の 護 衛

「おはよー……って、くっさっ!」

「おお、優斗よ。よう来たのう!」

 司令室の室内にツンとしたシンナーの臭いが充満し、マスクをしたクロが缶スプレーを持って挙手する。

僕はあまりの酷い臭いに鼻をつまみ、顔をしかめた。

「……窓、開けるよ?」

「駄目じゃ駄目じゃ! 埃が付くじゃろうが! サフ吹いたばかりじゃけ、我慢せえや!」

「……クロ司令! 私はもう! 我慢、出来ません!!」

 勢い良く、ガタンッと椅子を倒し、オペ子が言い放つ。

「いい加減、司令室でプラモデルを作るのはやめて下さい!!黒子の面には防音機能はありますが、防臭機能はないんです! 臭い! 臭い! 臭いんです!!」

「オペ子、塗装ブース使っとるじゃろうが。そんなに臭いはせんぞ? ワシは気にならん程度じゃがの?」

「司令が気にならなくても、私は気になるんです!作るたびに、消臭剤を振りまかないといけないこっちの身にもなって下さい!!」

「……モデラーは、いつの時代も一般人に理解されん。バンダイに作らせた144分の1スケール、イカロスが泣いとるわ。この芸術品を理解出来んとは、嘆かわしいことよ…」

 悲観に満ちたクロは、肩を落としてうなだれた。

「……優斗さん!窓を全開オープンしましょう!」

「うん! 了解だよ、オペ子!」

「ちょっ! 待ってくれえや! 今日は風が強いけえ、ダメじゃって!!」

 僕とオペ子は容赦なく、窓を開けていく。

途中、オペ子が無言でオモチャを掴むと、司令室のドアを開け、投げ捨てた。

「な、な、何しよるんなー!!」

 クロが廊下へとオモチャを取りに行くと、オペ子はドアを閉め、カチャリと鍵を掛けた。

……クロを閉め出しちゃった。オペ子、本気で怒ってるよ……。

 司令室は窓全開になり、新鮮な空気が入ってくる。

「ふー、なんとか無事なようじゃのう。さすがバンダイ製じゃ!……まったく、オペ子のくせに、ワシを怒らせおって!ぬ?開かんぞ!」

 ドアノブをガチャガチャを鳴らし、ドンドン!ドンドン!とドアを傍若無人に叩く。

「こおりゃあー! オペ子っ! はよ開けえや! 慈悲深きワシが、今なら許しちゃるけえ!!」

 ……オペ子と僕は消臭剤を振りまくと、一息ついた。

「オペ子、今日もミドリを頼むね。あと……クロの事いいの?」

「司令は少し痛い目に会ったほうがいいんです。昼まで廊下で遊んでいて貰いましょう。それでは、ミドリを技術開発へ回しますね」

 オペ子は椅子を立て直すと、通常業務に戻った。

僕もソファに深々と座り、息をつく。

「でさ、オペ子。クロのプラモデルどうする?」

「そうですね、ダンボールにでも入れておきましょう。さすがに捨てたらショックで死んじゃうかもしれません」

 ……現実味のある言葉だ。それにしても……外がうるさい。

『まったく……眠れる獅子を呼び起こしたようじゃのう!』

『な、なんじゃと! アレを使うというのか!?』

『……アレだけは使いたくなかったのう』

『ぬ……背に腹は変えられん』

『やるのか! アレを!?』

『まさか……アレを使う日が来ようとは……』

『ヘイ! ジョン! アレの使用許可が出たらしいけえ!』

『な、なんだってー!?』

『くっ、まさか……現実になろうとは……もう…止められんのか!?』

 ……クロの独り言が、ドアの外から聞こえる……アレってなんだ?

「優斗さん、ドアの強化シャッター閉めますね」

 ガシャンと大きな音と共に、クロの独り言は聞こえなくなった。

「オペ子、シャッターなんて、いつ付けたの?」

「この間のヒヨコ戦のあとに、司令室周辺の窓やドアに付けました。窓のシャッターは降ろしても外が見える仕様になってます。またあの攻撃が来たら大変ですからね」

「それはすごいね……」

 僕は棚へと行くと漫画を取り出し、パラパラとめくる。

……そうだ。明日、みずがめ座流星群が極大する。観測は裏山がいいだろう。ミドリは当然として、由美ちゃんも誘ってみようかな……。

「……クロ司令?なにやってるんですカ?」

「う、うむ……懺悔のポーズじゃ」

 クロは廊下で土下座のポーズをし、微動たり動かない。

 クロに出くわしたモモは、不思議そうに顔を傾げると、シャッターが上がる音がした。

「……お腹すいた」

「アオちゃん、今日は頑張ったもんネ」

 モモとアオはドアを開けて中に入ると、目の前にオペ子が立っている。

「オペ子ちゃん、どうしたの?」

「ええ、少し……」

 と言い、二人が入った瞬間にドアを閉め、鍵を掛けた。

『ちょー!! ワシが悪かったけえ!許してくれえやー!!』

 ドンドン!ドンドン!とドアを激しく叩き、クロの悲痛な声がこだまする。

「オペ子、もう許してあげようよ」

「そうですね……優斗さんが言われるのでしたら……」

 オペ子はカチャリと鍵を開けると、コロンとクロが転がり込んで来た。

「ワシが……ワシが悪かったけえ…ごめんの……」

 ……本当に懲りたようだ。しかし……クロの土下座って軽いな。

「……そうじゃ! いい対策を考えたけえ! ワシがプラモを作る場所を確保する!それなら文句あるまい! どうかの? オペ子さん!」

「臭くなければ、どうだっていいですよ! 今度からやめて下さいね」

「分かった! 条件を飲もう! 至急、司令部にワシの部屋を増築せよ! 税金を湯水のように使用しても構わん! 素晴らしきプラモを建造する、快適な部屋をの!」

「わかりました。手配はしておきますが、臭かったらオモチャ、全部捨てますから」

 オペ子の声のトーンが下がった。顔は見えないが言葉に強い意思を感じる。

話が止まると同時にモモが、

「そうそう~クロ司令。変形合体イカロス、完成しましたヨ!」

「な、なんと……? ほんまか!?」

「ハイ~変形モードは飛行型二台に分離。合体モードでイカロスになりまス。コードネームは各機体ごとにα・β・γで考えてまス」

「ぬ……名前は、イカロスZZにしようかと思っとたんじゃが。まあええ、名前はモモに任せたけえ!いや、めでたいのう!めでたいのう!」

 余程嬉しかったのか、モモとクロは手をつないで踊っている。

アオは、ソファで寝そべって漫画を読んでたが、うるさいのが嫌なのだろう。しかめっ面をしていた。

「司令、もう一つ良いお知らせが……実はですネ!」

「な、な、なあ―――!! ワシの……ワシのプラモがぁあああああぁ!! ない! ない! ない! どういう事じゃ?神隠しか!な、なんたる……」

「クロ、プラモデルはダンボールの中にあるよ」

 僕が言うと、クロは即ダンボールをあさり始め、プラモデルの無事を確認したらしい。

「なんじゃ優斗! ワシに対する嫌がらせか! この糞ガキめ!!」

「―――司令。それ以上言うと、本気でオモチャを窓から投げ捨てますよ?」

「グハハハ!オペ子さん! ワシはなんも言うとらんよ? さて、トイレにでもお祈りに行こうかの?」

 汗を流しながらクロは、部屋をウロウロしている。

「……あの~良いお知らせが……」

「クロ司令! 吉報です! ミドリの強化パーツが届きました!」

「な…に……? うおおおおおおぉ! よっしゃー! 今日はいい事ばかりではないが、素晴らしいのう! これで戦力強化は間違いないわ!」

「技術開発からミドリを一週間ほど、外出禁止にしたいそうです。いかが致しますか?」

「ぬ……一週間か…よかろう。ミドリを一週間、使用を凍結とする!」

「ちょっと待ってよ! 異議あるよ! ミドリに一週間も会えなくなるなんて僕、嫌だよ!」

 僕はその時思った事を、そのままクロにダイレクトに伝えた。

「諦めえ。これはDM軍の戦力強化に繋がるプロジェクトじゃけ。……そうか優斗、おまえは命を狙われていたんじゃったのう。ワシに良い考えがあるけえ安心せえ」

「僕、殺されてもいいから、ミドリがいい!」

「駄目じゃ駄目じゃ!おまえは殺させはせん!まったく子供じゃのう。よいか?ワシらには目的があるけえの。謎の敵を倒し、学校を死守せねばならん。一週間、たったの一週間じゃけえ!我慢せえや」

 ―――ミドリと一緒にみずがめ座流星群を見ようと思ってたのに……あんまりだ。一週間……僕にとってはとても長いよ……。

落胆する僕を見かねてか、オペ子がそっと僕の肩に手を置く。

「優斗さん、残念ですが、司令は間違ったことを言ってません。私たちには少しでも戦力が必要なのです。手段を選ぶ余裕なんてないのです。辛いでしょうけど……わかって頂けないでしょうか?」

 その優しい声に、やるせない気持ちが薄らいでいく。

「……うん…わかった。一週間……待つよ」

「よっしゃ! 決まったのう! オペ子さん、キイを呼べ!」

「了解しました」

 しばらくすると、玉座の暗闇からキイが現れ、クロの前へ行くと片膝を付いた。

「クロ様、参上致しました。ご命令を……」

「うむ! クロワッテスの名において命じる! これより一週間、片山優斗を護衛せよ!」

 ―――今……なんて言った? なんだって!?

「……了解致しました。今日から一週間、片山優斗を全力で護衛します」

「ちょっと! 僕の護衛はいらないよ! 大丈夫だから!」

「ワタシでは不服か?」

 両手に拳銃を持ち、キイは僕を威嚇をする。

「あ…いえ……お願いします……」

「ふんっ。その謙虚さが大事だ。一週間、殺し屋から守ってやる。24時間張り付いてやるから覚えておくがいい。ククク」

 ……大変な事になった。キイは24時間と言ったけど、学校以外の時間帯を護衛してもらう事となった。最悪すぎて言葉が出ない……。

「あの~……お話しが……」

「よし!今日は終わりじゃ!帰るけえの!」

 モモの言葉は、クロの下校宣言でかき消された―――

―――下校途中。

気まずい……。キイと二人で、いつもの帰り道を歩く。会話もなくひたすら歩く。

「おぉーい! 優斗ー!」

 走ってきた黒子の人物……南川だ。

「ぐあああぁあ! 痛い! 痛い! 助けてー!!」

 南川はキイに押さえ込まれ、地面で喘いでいる。

「キイ、やめて!僕の友達だよ。この間、海で会ったでしょ?」

「ふん! 紛らわしいヤツめ……!」

 キイは南川を離すと、両腕を腰につけ冷徹な目を南川に向ける。

南川は地面で呻きながら、必死に痛みに堪えている。

「キイ先生~いきなりはないですよぉ……生徒の顔くらい覚えてくださいよぉ~」

「ワタシの攻撃くらい避けてみろ!それでも黒子軍かっ!」

 僕は虫の息の南川を、手を差し伸べ地面から起こした。

「……大丈夫?」

「ああ、大丈夫じゃねぇな……死ぬ前に、特盛牛丼が食いてぇなあ……」

 ……おごれって事なのかな?まあ、大丈夫そうだし、無視していいよね。

「バカ二人……!?」

「なんだと! 避けた……だと!?」

 ザザーッと、藤宮は素早い動きで後ずさる。

「あっぶなー……キイ先生じゃないですか」

「なんということだ!作戦部所属、二年五組、藤宮優子だな?」

「そうですけど…先生、何してるんですか?こんな所で」

 キイは真剣な眼差しで藤宮を見つめると、

「……藤宮優子、唐突だが陸戦特殊部隊に入って欲しい。キミのような人材が欲しいのだ。給料も倍にしよう。すぐにとは言わない。考慮して欲しい」

「ええっと……考えておきます」

 藤宮はキョロキョロと周りを見渡し、異変を察知したようだ。

「……あたしのミドリたんは? ちょっと片山! 説明しなさいよ!」

 僕は肩を捕まれ、ガクガク揺さぶられる。説明するのは困難な状態だ。

「ちょっと…落ち着いて! ……ミドリは修理中だよ!」

「修理……中?」

「うん、修理中。一週間ほど不在だよ。ええと、その代わりキイが護衛なんだ」

 正直、藤宮の対応は疲れる……なに考えてるのかわからないし。

「……ふうん」

 藤宮は僕との距離を縮め、何か言いたそうに髪の毛をいじる。

無論、黒子なので表情はわからない。なぜか張り詰めた空気が漂う。

「な…なに?」

「……別に…帰る」

 そう告げると、カバンを片手で背中に抱え、藤宮は行ってしまった。

……一体なんだったんだ。今の会話で、藤宮を不機嫌にさせる要素があったとは思えない。それに怒らせる事を言った覚えもないし……。

思い悩んでいると、南川が助言してきた。

「優斗、女心がわかってねぇな! ミドリがいなくて寂しいんだよ! あれだけ、たんたん言ってれば、超寂しいんですけどってなるだろ?ミドリが復活すれば元通りよ!」

 そうだ……そうかもしれない……。

「んじゃ、俺も帰るわ! キイ先生、お疲れさまっス!」

「うむ、日々精進するがいい」

 南川と別れ、キイとまた二人になり、気まずい雰囲気になる。

「片山優斗、藤宮優子を陸戦特殊部隊に誘え!キサマになら出来るだろう!」

「キイ!銃をちらつかせるのはやめてよ!」

「そうだな。現在、ワタシの任務は護衛だ。殺しはやめてやろう」

 ……認識してなかったの!?勘弁してよ!

「その代わりにだな……」

 ―――キイの藤宮を勧誘せよと、耳が痛いほど聞かされ帰宅した。

「ただいまー」

「ゆうくん、おかえり~……? お客様?」

 由美ちゃんが目を丸くして、不思議そうにキイを見ている。

「佐竹由美だな? キサマの家を借りている者だ。ワタシの事はキイと呼べ」

「なんで上から目線なんだよ。由美ちゃん、キイが一週間ほど泊まるから宜しくね」

「そ、そう……ミドリちゃんはどうしたの?」

「あ、うん。今修理中なんだ。その代わりキイに護衛してもらう事になったから」

「今、料理してるから……出来たら…呼ぶね」

 そっけない態度の由美ちゃんはリビングへと消えた。

……なんだ? ……僕なにかしたっけ?

「キイ……僕、着替えてくるからソファにでも座っててよ」

「ワタシも付きあおう。護衛だからな。断ったら……わかるな?」

 ……まあいいか、着替えを見られるくらいなんでもないし。

「早くいけ。妙な真似したら殺すぞ」

 背中に銃を突きつけられながら、階段を上がっていく。

着替えに行くだけなのに……全然理解してないじゃないか!

ドアを開けた所で、僕は部屋で寝転んでいる彼女の行動に仰天した!

「優斗……えびせ……」

 一瞬の出来事だった。アオはベッドの上に飛び乗ると、ナイフを構えている。

僕が知っている……普段じっとりとした目をとしたアオの顔じゃない。鋭く威圧感のある形相だ。ここ最近アオが僕の家に来て、よくのんびりしている。佐竹家ではクロがうるさくて、ゆっくり出来ないそうだ。

緊迫感漂う部屋で、キイとアオが睨み合いを続けている。

「ククク……最近、夜まで帰らなかったのはそういう事か」

「……優斗を放せ」

「現在、片山優斗の護衛中だ。殺す理由はない。知らなかったか?この作戦にワタシが任命された事を」

 ちらりとアオは僕を見て、

「……本当か…優斗」

「うん、一応そうなってるよ。たぶん、大丈夫」

「……なにかあれば、キイ、おまえを真っ先に殺す」

 アオは窓から飛び降り立ち去った。

「フン、戯言を」

 冷徹に言い放つと、キイは珍しそうに部屋の中を徘徊し始めた。

はあ、びっくりした……アオがあんなにアクティブに動くなんて。守ってくれるならアオの方がいいなあ……。

服を着替え終わると、一階から由美ちゃんの呼び声がする。

「キイ、ごはん食べようよ。僕、ちょっと用があるから先に行ってて」

「……逃げる気か?」

「逃げないから! 先に食べてていいよ」

「いいだろう。だが、余計な事は考えないことだ」

 ……トントンとキイは階段を下りていく。

僕は紙を取り出すと文字を書き、小さく折りたたみポケットに入れた。

そしらぬ顔をしてリビングに行くと、食卓に料理が並べられキイが座っている。

「遅いぞ! 片山優斗! 軍では懲罰ものだぞ!」

 ガタッと席を立つキイを見て、僕はため息をつくと、

「ごめん。さあ、ごはん食べようよ」

 ……という事で、僕とキイ、由美ちゃんとの食事が始まった。

「こ、これは……!ハラショー!なんという美味しさだ!これはなんと言う食べ物だ!?」

「キイ……オムライスだよ」

「シェフを呼べ! ぜひ称賛を送りたい!」

 ……普段、どんな物食べてるんだ。

「あの~わたしです」

 小さく由美ちゃんは手を挙げる。

「佐竹由美!キサマは最高のシェフだ!この料理は素晴らしい!この料理に出会えて感謝する!」

「は……はあ、ありがとうございます……」

 由美ちゃんの困り顔をよそに、満悦顔のキイはがっしりと握手した。

しばらくしてキイは料理に満足したのか、リビングを珍しそうに歩き回る。

そして、由美ちゃんがポツリとつぶやいた。

「……ィさん、可愛いよね」

 え……?TVかな?でも画面にはおじさんが映ってるし……。食事中、僕と由美ちゃんとの会話はなかった。何故不機嫌なのかもわからない。

「ゆうくん、お風呂沸いてるから先に入ったら?」

 目線を合わせない由美ちゃんに僕は困惑する。いままでこんな事はなかった。

「あ、そういえば母さんは?」

「……知らない」

 ……なんだろ。由美ちゃん、すごくつめたい。ここは退散したほうがいいな。

「じゃ、お風呂入って来るね」

「風呂……だと?よし、一緒に入ってやる」

「入らなくていいから! キイは部屋に行っててよ!」

「ダメだな……ワタシの任務はキサマの護衛だ。風呂ほど人間が無防備になる所はない。この身を焦がし使命を果たす!」

「やめてってば! 一緒には無理だよ! お願いだから!」

 ……キイはしばらく黙り込み腰に手を置くと、

「一緒に入るのは見逃してやる。これを持て。よし、これもだ。そう、これもだな」

 キイは服の中から大量の拳銃や手りゅう弾、コンバットナイフなどを机の上に並べた。

これだけの武器をどこに隠してるんだ……。

「……わかったよ。全部持てないから、コレとコレを持って行くよ」

 適当に軽そうな物を選び、キイと一緒にお風呂に行く途中、

「キイ、先に行ってて。リビングに忘れ物!」

「おい!片山優斗!」

 無視して素早くリビングに行くと、由美ちゃんが食器を片づけていた。

「……由美ちゃん!」

 僕はサッと由美ちゃんの手を取り、小さな手紙を渡すと廊下へと戻った。

「キイ、おまたせ」

「だから、懲罰ものだと言っている! 何をしていた!」

 僕が「悪かったよ……」と申し訳なさそうに言うと、キイは諦めてくれた。

【明日の夜に みずがめ座流星群が来るんだ 裏山に二人で一緒に見に行かない? キイには内緒にしてね 詳しくはメールするよ】

 以上が手紙の内容。でも、由美ちゃんOK出してくれるか心配だ……。

「キイ、ぜーったい! 外で待っててね!入って来たら絶対、駄目だから!」

「時と場合によるな。なにかあった場合、強行突破させてもらう」

「なにもないよ! ……じゃあね」

 僕は湯船に浸かり、丁度いい湯加減に安堵する。

疲れた……こんなの…一週間も身が持たないよ……。

しばらくすると、カラカラカラとゆっくりと窓が開く。

「……!?」

「優斗……大丈夫か……」

「アオ! ……ぁ」

 キイに聞かれないように、とっさに手で口を塞ぐと小声で話した。

「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

「そうか……優斗は……私が守る」

「うん、ありがとう。でも、程々でいいからね」

「……わかった……また」

 そう言うとアオはスッと消えた……。

お風呂から出ると、キイは壁に背を持たれながら静かに佇んでいた。

「武器は……役に立ったか?」

「普通、使わないから……キイもお風呂入ったら?」

「ワタシは片山優斗の安全を万全にして入る。そういえば……中で微かに声が聞こえたような気がするが?」

「……独り言だよ」

 リビングに顔を出すと、由美ちゃんが鼻歌をうたいながら、食器を洗っていた。

「ゆうくん、牛乳? それとも麦茶?」

「あ……牛乳貰おうかな?」

 くいっと牛乳を飲み干すと、由美ちゃんが小声で、

「……明日楽しみにしてるから」

 と、由美ちゃんは嬉しそうに答えた。

 部屋に戻ると、僕は机に向かい勉強を始めた。

「片山優斗、勉強などしても意味がないぞ?するなら軍の教科書を推奨する」

「軍のは要らないよ……やっぱ勉強はしないとさ。学校じゃさせてもらえないだろ?」

「フン、無意味な事を」

 キイはごそごそ部屋でなにかしているようだが、無視して勉強に集中する事にした。

「ワタシは風呂に入ってくる。いいか、ワタシが戻ってくるまでは、その場から絶対に動かない事だ。怪我……いや、死ぬかもしれんからな」

「一体、何をしたんだよ!」

「ふはははは、なに、トラップを部屋中に仕掛けただけだ。それではな」

「キイ!なんてことするんだ!」

 僕の訴えを無視してキイは部屋を出た。

部屋の中をよく見ると、あちこちにピアノ線が張り巡らされいる。

携帯でアオに助けを求める事も出来るけど、キイがお風呂から上がってくるまでだから、たいした時間じゃない。大人しく勉強をする事にしよう。

お風呂からキイが帰って来ると、無事トラップが解除され、圧迫感から開放される。

二人で帰ってきた父さんと母さんに、キイを紹介して就寝時間となった。

「キイ、空き部屋がないから僕の部屋で寝ていいよ。僕はリビングで寝るから」

「キサマ……何を言っているんだ。寝る時も護衛するに決まっているだろう」

 ……キイは本当に融通が利かないな。どうしろって言うんだ。

「片山優斗、ミドリと寝る時はどうしていた?」

「え?一緒に寝て……」

 はっと気が付くときには遅かった。

「さあ、早く来い!一緒に寝るぞ!」

 キイは布団に入り、銃を覗かせながら僕を誘う。

「やめてってば!……僕は隣の廊下で寝るよ。これだったら護衛も出来るでしょ?」

「フン……まあ、いいだろう。妥協してやる」

 僕は廊下に布団を敷き、目覚まし時計を頭の側に置くと、眠りに落ちた。

……ギシ……ギシ……ギシ……ん?なにか音が……うあ!?

あやうく大声を出しそうになった!気持ちを落ち着かせ声を抑える。

寝袋に入ったキイが天井に、ミノムシのように釣り下がっていた。

午前3時ちょっとか……もう好きにしてよ……。

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