第一話 と つ ぜ ん の 変 容
はじめまして、見ていただきありがとうございます。
この作品には私の、これでもかっというくらい好きなモノが込められた作品にしました。
個人的に一番書いてて楽しい作品になったと思います。
読者様がどのような反応を見せていただけるか楽しみです。
それでは、お楽しみいただければ幸いです。
暗い―――
深い、闇の中―――
唐突に色彩溢れるクリアなビジョンが映し出される
―――僕は忘れていた、忘れていたんだ
「ただいまー」
学校から帰宅してリビングに行くと、机の上にラップで巻かれたご飯とおかずが置かれていた。静まり返った家の中は僕一人しか居ないようだ。
ご飯の上に母さんの伝言が残されており、【ご飯温めてください。宇宙遊泳教室へ行ってきます】と電子ペーパーに文字が浮かび上がる。
そういえば、父さんと母さん、宇宙旅行へ行くって行ってたな……
僕は軽くため息をつき、自分の部屋へと階段を駆け上がると、
「テレビ、流星群」
興味のあるキーワードを口にする。すると、レーザースクリーンが立ち上がり画面が映し出された。
『午前2時頃、しし座流星群が近づき国内各地で美しい流星が見られるでしょう。尚、』
「もういい。消して」
レーザーテレビが消え、僕は押入れから去年買ってもらった望遠鏡を取り出し、ベランダに設置する事にした。中古の望遠鏡だが、星との自動距離計算や晴れか曇りか天気もわかる。中古だからと言っても、星を観測するには十分な機能だ。
時刻は午後8時。観測時間にはまだ早い。ご飯を食べてから軽い夜食の用意をしよう。
一階へと階段を降りようとした時、ブレスレットフォンが震える。小さな表示画面に名前が映し出された。
南川か。なんの用だろう?
ブレスレットフォンの通話ボタンを押し、イヤーコードを耳に取り付ける。
「もしもし? どうしたの?」
『おいおい、優斗! 早くブレフォンに出ろよ! 巨大隕石が来るってのに!』
「うん? 南川も流星群見たいの? じゃあさ、千歳川に行って一緒に見ようよ」
『はぁ? バカかお前は! 地球の危機なんだぞ!? 隕石衝突確率七十%だ! 世界中大騒ぎで暴動も起こって―――』
―――ああ、目覚まし時計切らないと。
ジリリリリリと、やかましく演奏をし続ける時計を黙らした。
……なんて夢だ。なにか、とんでも未来を見た気がする。
眠たい目をこすり、現実を確認すると僕はひとつあくびをした。
……しかし、南川の慌てっぷりには笑えたな。隕石衝突だってさ。あるわけないし。
そう言えば……近々、みずがめ座流星群が地球に接近する。望遠鏡の手入れしないとね。
カーテンを開け、眠気を覚ますようにグーッと背伸びをした。
「ゆうくん、おはよー」
隣の家の幼なじみが、窓から笑顔で手を振っている。
佐竹由美―――同じ中学に通っていて、昔からよく一緒に遊んだ女の子。特別可愛いってほどでもないけど、人当たりが良くてやさしい子だ。
「おはよ佐竹。あれ? 今日は部活の朝練じゃないの?」
……佐竹は少し困った顔をし、この世の終わりみたいにうつ向いた。
急に暗澹する幼なじみに、僕は不安を覚える。
ちなみに小学生高学年までは由美ちゃんと呼んでいたのだけど、中学に入ってからは周囲に誤解される事を恐れ、苗字で呼んでいる。佐竹は全然気にしてないみたいだけど。
「やっぱり、覚えてないか…実はね……転校したの……」
「えっ? なに? どういう事?」
クラスで人気の彼女が、転校する理由なんてないはずだ。おじさんの都合かな?
「―――わたし、公務員じゃなくて、ケーキ屋さんになりたいから―――」
彼女が発した言葉に、僕はしばらく思考が止まる。
?……何を言ってるのかわからない。言ってる意味が……なんの冗談だろう。
「あ……もうこんな時間、わたし福徳中学だから少し遠いんだよね。遅刻しちゃうからもう、行かなきゃ。ゆうくん、またね」
佐竹は小さく手を振り、行ってしまった。
僕は疑心暗鬼にとらわれ、佐竹の言葉の意味を考える。
……どういう事だ?公務員?僕たちはまだ中学生だし、公務員なんてなれるわけがないじゃないか。佐竹が冗談を言うにしても、こんな変な事をを言う子じゃない。意味わかんないよ。
髪ををくしゃくしゃとかき上げ、学校へ行く支度をすることにした。
制服に着替えてリビングに行くと、母さんが台所で食器を洗っている。
「ゆう君、朝ご飯できてるから食べなさいね」
「うん。父さんは?」
「会議があるって朝から出かけたのよ」
佐竹の公務っていう言葉が気になる……母さんに聞いてみようかな。
「……あのね、母さん、」
「フフフ、それにしても母さん、鼻が高いわぁ~ゆう君が世界を救うんだもの。ご近所さんの中でも噂なのよ?できのいい息子で母さん幸せよー」
喜びに浸る母さんを尻目に、言葉を遮られた僕は不機嫌になる。
何かのサプライズのフリだろうか。母さんが意味不明の事を言ったみたいだけど、多分、SF映画でも見たのだろう。話にならない。早くご飯を食べて、さっさと学校へ行こう。
「それじゃ母さん、行ってくるよ」
「忘れ物ない? 学校まで敵に会わないよう気をつけるのよ?武器、持っていく?」
「武器なんて持っていかないよ! 行ってくる!」
半ば強引に家を飛び出し、早歩きで道を行く。
……今朝から腑に落ちない事だらけだ。世界を救うだって? ……何が敵だ。いるわけないじゃないか。そうだ、何かのテレビ番組の企画だろ。騙されないぞ!
ピタっと足を止め、辺りを見回しカメラを探す。
―――ない。上空にはヘリが飛んでいる。あれか……?そんなわけないか。
深いため息をつき、足を一歩踏み出す。
その瞬間―――
パラパラと空から〝何か〟が降ってきた。
耳ををつんざく大音声が辺りに響き渡り、パンっとう連続した音が鼓膜に打ち付けられる。
「わああああぁあああぁぁああ!」
頭を抱えながら叫び、地面へとしゃがみ込む。
連続で轟音が響き渡りしばらくして辺りは静まり返った。
鼻をつくような火薬のにおいにむせ返る。
……はは、なんだよこれ。なんなんだ。
混乱した頭を正常に戻すため、深く深呼吸をし、気持ちを落ち着かせ辺りを見回す。
地面に飛び散った残骸を拾い、その何かが判明した。
―――多分、花火だ……悪質な嫌がらせだ。ふざけるなよ!
「おい !誰だ! こんな事して! ただじゃすまないぞ!」
こんな酷い事をされる覚えはない。怒りが頂点に達し、優斗の大声が辺りに響き渡る。
「ふは、ふはははははは、あーはっははは!!」
電信柱の上から聞こえる笑い声。空を見上げると、
変なマスクをかぶった怪人が、黄色いマントをたなびかせ電柱の上に立っていた。
声は女性で間違いないが、その風貌は変質者そのものである。
うわ……こいつ、やばいぞ!逃げなきゃ!
優斗自身の直感が逃げろと叫び、怪人とは脱兎し逃げた。
「行かせん!」
フワッと黄色いマントが開き、怪人は飛ぶ―――
優斗は振り返ると、怪人が空を飛びながら追いかけて来ている。
「あ!まずい!」
ガクッと前のめりに倒れた瞬間、襟首を捕まれ、身体の自由がきかなくなる。さらにぐいっと力強く背中越しに腕を掴まれ、首元にチクリとした痛みを感じた。鋭利な物で首筋を狙われている感覚が恐怖を煽り、優斗に戦慄が走る―――
「キサマ、片山優斗だな?」
「……そう、だけど…おまえは……だ…れだ……」
自然と声が震え、汗が体中から拭き出てくる。ホント、どうかしてる。現実なのかな?
「ワタシか? ワタシは片山優斗を抹殺する者だ」
……なに? 抹殺?僕は…殺されるのか……こいつに。
理不尽だ……冗談だろ。首筋に当たっている、鋭利のような物に視線を向ける。
それは―――包丁でもなく、ナイフでもない、短剣でもなかった。
―――シャーペンじゃないか! なんだこれ? いや……駄目だ。シャーペンでも殺傷能力は十分にある。どうする?ここは話し合いか?……通じればいいけど。
「ククク、ジワリジワリと殺してくれるわ」
変質者はシャーペンをカチカチと鳴らし、出てくる芯が首へと突き刺さる。
……こいつアホだ!こんなヤツにかまってられるか!
「やぁ!」
僕はフリーになっている左腕の肘を、思い切り仮面に打ちつけた。
バカンッと大きな音が鳴り、仮面が割れ、変質者の素顔がさらけ出される。
……以外にも仮面の下の素顔は、あどけない顔立ちの少女だった。
「……キサマ……見たな」
「う…うん……見たけど……」
「今日はここまでにしておいてやる。次に会った時は必ず殺してやるからな。ふははははははははは!」
顔を手で隠しながら、マントをなびかさせ、怪人は曲がり角へと走り去ってしまった。
本当に怖かった……どうなっているんだよ。とりあえず警察に通報しよう。また襲われたら怖いし。どうでもいいけど、髪の色が金髪だった……海外の人なのかな?
手の震えが収まらないまま、携帯電話を取り出し、警察へ電話をかけた。
『―――おかけになった番号は現在使われてないか電波の届かない―――』
「はあ?……なんで!……繋がらないってどういう事!?」
……何度もかけ直すが……11回目で力尽きた。
優斗は落胆を隠せずに、携帯を持ったまま呆然と立ちすくむ……