号泣
彼女の泣き声は、俺のところまで届いた。
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まずトリスさんのところで、電話を借りて、って海外に行ったことすらないのに、国際電話の掛け方知らないよ。
家はぽつぽつ立っているのだが、まずその家屋が日本ぽくない。石造りの建物の上に藁が載っている感じ。石造りの道もアスファルトが敷かれていない。やっぱり日本じゃないのか?
で、ふとあることに気づいた。
で、電線がない。それに気づいた瞬間、つけっぱなしだった携帯電話の電源を切った。電気がないの?
海外の田舎だから、電線がないだけで、自家発電とか……首都に行けば大使館とかあるはずだし、……
やばいっ、涙出てきた。
「おい、どうした」
意外にも、先に私の異変に気づいたのは、先を歩いていたマルスのほうだった。
こいつに涙なんか見せたくないのに。
「とりあえず、家に……落ち着いてから、話を聞くよ」
トリスさんが背中を優しく叩いてくれた。
◆
トリスさんたちの家に着いた私たちはおやつを食べながら、自己紹介することになった。
出来立てのクッキーと冷えたミルクティーを出してくれたのは、トリスさんの奥さんでロザリーさん。
夫婦で、教師をやっているんだそうだ。午後の授業を潰して、おやつの準備をしてくれた。
マルスはおやつも食べずに、どっか行ってしまった。
マルスの妹のローリエちゃんはトリスさんの膝の上に乗っかり、きらきらした目でこっちを見ている。
十歳くらいのお嬢さんで、お父さん譲りの金髪をツインテールにしていて、とってもかわいらしい。
「お姉ちゃんお名前は?」「お姉ちゃんいくつ?」
と物怖じせずかわいらしい声で問いかけられて、一つ一つ答えていくが、「お姉ちゃんどこから来たの?」という質問には、答えに詰まってしまった。
「ここ……日本、じゃないんですか?」
声を詰まらせて、なんとか夫妻に問う。涙がこぼれないように、目をしばたたかせる。
「ごめんねー。こんなド田舎だとお客さん珍しくて。ローリエ、お兄ちゃんのところに行ってなさい」
だが、泣いていることに気づかれたようで、お母さんがローリエちゃんの席を外させてくれた。
私は、ここがどこか、日本からどれくらい離れているのか、首都は、大使館はと次々質問した。
ずっと黙って聞いていたトリスさんは、ひとつひとつ質問に答えてくれた。
「ここに『デンワ』はないし、ここは『ニホン』でも『サクラガワ』でもない。ここはレペンス王国。『タイシカン』というものは知らないが、王都なら、ここから三時間ほどの距離だ。今日は泊まっていきなさい」
まだ、ちょっと日が傾いている程度なのに。本当は今すぐにでも行ける所まで行きたいのだが……
「もうすぐ日が暮れる。『ニホン』も『サクラガワ』も知らないが、明後日には、王都に行く荷馬車が出るから、それに乗って、王都に行くといい」
そう言えば、泊まるお金も持っていない。
バスや自動車じゃなくて、馬車。彼らの言動、一つ一つに違和感を覚える。
「その、どこで日本語を覚えたんですか?」
夫妻や、マルスが日本語を完璧に話せるのはまあ、教師一家だから、猛勉強したとかならわかるけれど、ローリエちゃんが日本語を完璧にしゃべれるのは……一家で日本に居住経験があるとか? でも、『日本』を知らないって言ってたのに……。
私の質問に夫婦はそろって、首をかしげた。
「『ニホン語』? 私らがしゃべっているのはレペンス語だけれど?」
奥さんの答えを聞いて、涙腺が決壊した。