王の憂い
―― 呪われよ。呪われよ ――
―― ……百の炎の玉が王都を焼き尽くすであろう。 ――
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国王は血走った目で一枚の絵に剣を突き刺した。
「なんとしても、死霊王子を見つけ出せ!」
国王がウエストレペンス地方の城の探索を命じて探し出させた肖像画。
今は無数の切り傷で顔が判別できない肖像画には元は金髪碧眼の穏やかそうな青年が描かれていた。
肖像画の青年の名はシャムロック・ラハード。
200年前、ウエストレペンス地方が一つの国として独立していた頃の……ウエストレペンス王国最後の王子である。
王位を継がずに死亡した王子には、謎めいた伝説が語り継がれていた。
――またか。
左大臣は心の中でため息を付くと国王に進言した。
「ですが、そのようなものはこの世にはいな……」
「疑わしいものは引っ立て、首を刎ねよ!」
国王が王子を見たと騒ぎ出したのは、二十数年前。その日、民間から集められた花嫁候補達が城内から脱走するという不可解な事件が起こったが、王の言う死霊王子を見たものは誰一人としていなかった。
王は、その夜から毎晩毎晩、いもしない王子の夢に怯え続けた。妾妃を側に置いている時だけ、亡霊の影に怯えることなく眠れたが、今では、それさえも効果はなくなっている。
――さて、今回はどうやって、説き伏せるか。
幾度か、似たような命令が出されたことがあるが、皇太子の反対が激しく、勅令として世に出された回数は三度。今現在、死霊王子として、処刑されたものはいない。
――今までは捕らえよと言っていたが、今回は首を刎ねよ、か。
左大臣が思案している間に右大臣が、王に尋ねる。
「一つ覗いますが、貴族に死霊王子の嫌疑がかけられた場合には、どういたしますか?」
「平民、貴族問わず、刎ねるのだ!」
右大臣は頭を下げ、「御意」と短く答え、謁見の間を出て行った。
諌めるどころか煽るような右大臣の発言に、あっけに取られて、左大臣は見逃してしまった。
立ち去った右大臣の口元に笑みが浮かんでいたのを……