5.
女隊長は静かにクコリを見ていた。
「おれは」
「クコリ、今はいい。君のやることは、君のやり方は、多分ほかの誰のやり方よりもある意味では賢くうまい生き方だろう。
でもいつか、他人が全て困窮するようになれば、そうなっても君が自分をそうやって生かそうとするならば、きっと君は今のようには生きていかれなくなる」
そして、多分、このままではそうなってしまう日も遠くはないだろう。
女隊長はそう言って、見透かすような目でクコリを見ていた。
「‥‥それは」
どういうことだ?
クコリは酷く混乱していた。やはり女隊長は女隊長で、酒を飲み交わしたりしたのなんてただの気まぐれで、悪事を逃さないということなのか?けれどそのわりに、クコリを見つめる視線に厳しいものはない。ただ静かで、透明だ。
「‥‥柄でもないんですけどね」
不意に女隊長は目を伏せ、自嘲するように笑った。クコリは動けなかった。
「ただ、私は知ってしまっているので」
「‥‥何、を?」
「‥‥この戦争の、行く末、ですかね」
曖昧にそう言って、女隊長はまた手酌で酒を注いだ。透明なその液体をあおると、音を立ててグラスを床に置いた。そしてまた、伏せていた視線をクコリに注いだ。
「ねぇクコリ。君は私のことをどれだけ知っているんですか?」
話が続いているのか続いていないのか、混乱した頭では何が何だか分からず、けれどクコリは尋ねられたことにぽつぽつと答えた。
民間から登用されたこと。おかしいくらいに戦争に勝ち続けているらしいこと。それも、与えられた少数の兵で大群を相手にすることを得意としているらしいこと。国王が隣国への侵略を決めた背景には、女隊長の存在があるとさえ言われていること。1年ほど前の大勝の功を賞されて、貴族通りに屋敷を与えられたこと。それでいて、女隊長は驕らない。体の弱い姉妹がいるらしく、彼女らを養う以上の報酬は断ってさえいるらしいこと。
静かな瞳に気圧され、つかえながら答えるクコリの言葉を聞きながら、女隊長はどこか痛みを堪えるような顔をしていた。きっとこの女隊長は誰よりも痛みに強くて、だから彼女が堪えるような痛みは一体どれだけ甚大なんだろうと思った。
「‥‥おれは、あんまり他人に興味がないけど、聞いたことがあるくらいには、あんたは有名だよ」
本当は自分にも興味なんてない。ただ生きていただけだった。聞くともなしに噂話を聞いて、でもそれらは全て耳の間を通り抜けていただけだった。意味なんて考えたこともなかった。まして気持ちとか、そんなもの想像もしたことはなかった。
(‥‥おれは何で、過去形でこんなことを思っているんだろう)
それは慣れない酒を飲んだせいなのか、それとも混乱の極致だからなのか。
けれどクコリの、多分人生初めての思索は、吐き捨てた女隊長の言葉によって遮られた。
「‥‥は。本当に、馬鹿らしい」




