4.
「あんなこと」
「これまでもいろいろな部隊で、時々ちょっとだけ食料が足りないことがあったそうですが。微々たる物なので、どうせ出荷元がごまかしたんだと思われていたとか。あと、商人さんたちの間でも、時々『だまされる』人がいるとか噂がありました」
「‥‥うん‥‥」
クコリは素直に頷いていた。
嘘をついてもよかった。魔が差しただけなのだと、今夜が初めてなのだと、言っても許されるような気はしたのだけれど、クコリは頷いた。女隊長は責めなかった。責めないだろうとは思っていたし、責められてもいいと思えた。
「どこからくる部隊だろうが、どこから来る商隊だろうが、どこへ行こうがなんだろうが、時々荷物が減っている。それも食料ばっかりほんの少しだけ。
知っていますか、クコリ。君は、というより君の仕事は、実は結構知られているのですよ」
「‥‥そうなのか?」
知らなかった。クコリは、自分はうまくやっていると思っていた。知られているとは思ってもみなかったし、それにしては今に至るまで、網らしきものが張られていた覚えもない。
女隊長は、面白そうに可笑しそうに、
「街道の妖精だって噂ですよ」
と言って笑った。
「‥‥は?」
「街道の妖精ですって。だから。
人に危害を加えるわけでもないし、大事な荷が――そりゃぁ商人さんにとってみたら食料だって大事な荷に変わりはないんですけどね――奪われるわけでもない。むしろ、悪名高き盗賊団に狙われなくなる、なんて噂も立ったりなんかしてねぇ」
「‥‥なんだよそれ」
糾弾されるのかと、欠片でも思った自分が馬鹿だった。そう思って、コップに酒を注ぎ足そうとして、思いもよらず強い視線に出会って驚いた。心が竦んだ。
「‥‥知っていますか、クコリ。盗みはいけないことなんですよ」
責めるでもなく、むしろ哀れむように、女隊長は静かに言った。
「知っていますか。他人のものを奪うことは、いけないことなんです。少しだけだからいいとか、自分が食べる分だけとか、言い訳にもならないということを知っていましたか」
クコリは出会って初めて、この女隊長を怖いと思った。怖いと、震えそうになる体を叱咤して、震える心で見返した。
「おれは」
「他人の物に手をつけるということは、その他人を損なうことだと、知っていましたか」
「おれはそれでも生きたかったから‥‥!」
仕方なく、とは言わなかった。多分、ほかにもやり方はあったはずなのだ。クコリは健康だったし、体も弱くはないし、足も速いし手先だって器用だ。それに鼻もきく。ただ、クコリはほかにやり方を知らなくて、いつかそれが当たり前になったから罪悪感も覚えず盗み続けた。というよりも、それが罪悪なのだとは思いもしなかった、というのが正しいかもしれない。当たり前のように食料を盗んで盗んで食べて生きた。
女隊長は静かにクコリを見ていた。




