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クコリの夜  作者:
4/21

3.

 酒を飲んだのは初めてだったけれど、こういうものなら悪くない、と思った。


「初めて?それにしてはいい呑みっぷりだと思うのだけれど」


 女隊長はそう言って、それじゃぁ心配かもしれませんから、と、小さな丸薬の入った小瓶をクコリに寄越した。


「‥‥これは?」


「なんにでも効く魔法みたいな薬です。なんてね。

 ただの栄養剤ですよ。胃にも効くとか言ってましたし、多分、二日酔いにも効くんじゃないかなー、と」


「‥‥確かじゃないのかよ」


「効くと思えば効きますよ。‥‥私もそれで生き延びてきたんだし、ね」


 また不思議なことを言った。


「あんた変な人だな」


 何度も、感慨を込めてクコリは言った。女隊長は笑った。


「君も十分に変ですよ。変な私の変な誘いに乗ってきてしまうのだしね」


「‥‥おれだって変だと思ってるよ。でもおれはいつもはこうじゃないからな。あんたはどうせいつもそうなんだろ」


「言われちゃいましたねぇ」


 なぜだか悪くない気分だった。なぜだかは分からない。初めて飲んだ酒のせいで、ふわふわ浮き立つような心地なのも確かだけれど、それだけじゃないと思った。クコリは笑った。物心ついてから、声を立てて笑ったことなんてあっただろうかと、思い返してみてまた笑えた。多分、初めてのことだった。


「君は‥‥あぁ、そういえば名前も名乗っていませんでしたね。私は」


「いらないよ、女隊長。それで十分だ」


「そう?じゃぁ君のことも泥棒さんと呼んでいいんでしょうかね?」


 あぁ、名乗ることでクコリの名前を知りたかったのかと、気付いた。クコリは笑って、


「却下」

と言った。女隊長は情けないような顔をして、

「じゃぁなんて呼んだら却下されないでしょうかね」

と言った。


 クコリは少し考えて、それから名乗った。


「クコリ。そう呼べばいい」


「クコリ、ですか。変わった名前ですね。いい名です」


 吟味するように言うので、クコリは少し居心地悪くなって、言わなくてもいいことまで言った。


「別にいい名前じゃないよ。犬と狐と狸。自分でつけた」


 言ってからしまったと思ったけれど、女隊長は別に哀れんだりしなかった。


「いいじゃないですか。自分の名を自分でつける。贅沢なことだと思いますよ?それに音が気に入りました。クコリ。

 クコリ、君は、いつもあんなことを?」


 あんなこと。言われて、頭が冷えた。


 あんなこと。盗むこと。


 けれど、冷えた頭で見返した女隊長は、別にとがめるようではなかった。クコリはコップの酒で唇を湿らせた。

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