3.
酒を飲んだのは初めてだったけれど、こういうものなら悪くない、と思った。
「初めて?それにしてはいい呑みっぷりだと思うのだけれど」
女隊長はそう言って、それじゃぁ心配かもしれませんから、と、小さな丸薬の入った小瓶をクコリに寄越した。
「‥‥これは?」
「なんにでも効く魔法みたいな薬です。なんてね。
ただの栄養剤ですよ。胃にも効くとか言ってましたし、多分、二日酔いにも効くんじゃないかなー、と」
「‥‥確かじゃないのかよ」
「効くと思えば効きますよ。‥‥私もそれで生き延びてきたんだし、ね」
また不思議なことを言った。
「あんた変な人だな」
何度も、感慨を込めてクコリは言った。女隊長は笑った。
「君も十分に変ですよ。変な私の変な誘いに乗ってきてしまうのだしね」
「‥‥おれだって変だと思ってるよ。でもおれはいつもはこうじゃないからな。あんたはどうせいつもそうなんだろ」
「言われちゃいましたねぇ」
なぜだか悪くない気分だった。なぜだかは分からない。初めて飲んだ酒のせいで、ふわふわ浮き立つような心地なのも確かだけれど、それだけじゃないと思った。クコリは笑った。物心ついてから、声を立てて笑ったことなんてあっただろうかと、思い返してみてまた笑えた。多分、初めてのことだった。
「君は‥‥あぁ、そういえば名前も名乗っていませんでしたね。私は」
「いらないよ、女隊長。それで十分だ」
「そう?じゃぁ君のことも泥棒さんと呼んでいいんでしょうかね?」
あぁ、名乗ることでクコリの名前を知りたかったのかと、気付いた。クコリは笑って、
「却下」
と言った。女隊長は情けないような顔をして、
「じゃぁなんて呼んだら却下されないでしょうかね」
と言った。
クコリは少し考えて、それから名乗った。
「クコリ。そう呼べばいい」
「クコリ、ですか。変わった名前ですね。いい名です」
吟味するように言うので、クコリは少し居心地悪くなって、言わなくてもいいことまで言った。
「別にいい名前じゃないよ。犬と狐と狸。自分でつけた」
言ってからしまったと思ったけれど、女隊長は別に哀れんだりしなかった。
「いいじゃないですか。自分の名を自分でつける。贅沢なことだと思いますよ?それに音が気に入りました。クコリ。
クコリ、君は、いつもあんなことを?」
あんなこと。言われて、頭が冷えた。
あんなこと。盗むこと。
けれど、冷えた頭で見返した女隊長は、別にとがめるようではなかった。クコリはコップの酒で唇を湿らせた。




