19.
「クコリ」
姉妹の会話をぼんやり聞いているクコリには、尻尾があれば多分緩やかに振られていただろう雰囲気があった。そこにいることを許してもらえるだけで幸せだ、と言うような。
「私は逃げようと思います。シザリも、逃げればいいと思いますが‥‥クコリ、君はどうしますか?」
「‥‥そりゃぁ、逃げるけどさ、残っても嫌な予感しかしないしさ」
「おれ?は、別に、生きていければいいけど」
女隊長は顔も存在も知れ渡っている。それによく似たシザリも、素性を知られずにいることは難しいだろう。
だが、クコリは、これまでのところ誰にも存在を知られていない。
「そうですね。今まで通り、街道の妖精でもいいと思いますけど」
妖精?とシザリが首を傾げていたが、完全に無視されていた。
「もしよければ、またひとつお願いごとを聞いてもらえませんか?」
「いいよ」
内容も聞かずに即答したクコリに、苦笑して見せ、女隊長は懐から一枚の封筒を出した。きちんと封がされていたそれを、まったく何の気負いも見せず、クコリは受け取った。
表を返す。
「‥‥これは?」
「恋文ですよ」
恋文?とシザリが首を傾げていたが、そう、と頷いたクコリの為にまた完全に無視されていた。
「宛名は?」
「恥ずかしいから書きません。
これを、あっちの国の総大将の部屋に置きに行ってほしいんです」
「なんだ、まだ続いていたの」
シザリが言うのに、恥ずかしいと言いながらまったく隠す様子も見せず、女隊長は頷いた。
「だって私には彼しか考えられませんから。
そんなわけでお願いしたいんですが、いいですか?」
「分かった」
詳細はまるで訊かなかった。もうそれが当たり前のことのように、どことなく嬉しそうにクコリは頷いた。
「ありがとう。よろしく頼みます。
丁度いいから私もそちらに逃げることにしますし、もしそのあと戻るのなら、すれ違うかもしれませんね」
それには首を傾げて見せた。
「多分戻らないよ」
生きる場所はどこでもいいけれど、余裕があるところがいいから。
そう告げるクコリには、確かに、まるで執着というものがなさそうに見えた。
多分もうあとエピローグです。
何事も起らなかった‥‥




