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クコリの夜  作者:
20/21

19.

「クコリ」


 姉妹の会話をぼんやり聞いているクコリには、尻尾があれば多分緩やかに振られていただろう雰囲気があった。そこにいることを許してもらえるだけで幸せだ、と言うような。


「私は逃げようと思います。シザリも、逃げればいいと思いますが‥‥クコリ、君はどうしますか?」


「‥‥そりゃぁ、逃げるけどさ、残っても嫌な予感しかしないしさ」


「おれ?は、別に、生きていければいいけど」


 女隊長は顔も存在も知れ渡っている。それによく似たシザリも、素性を知られずにいることは難しいだろう。


 だが、クコリは、これまでのところ誰にも存在を知られていない。


「そうですね。今まで通り、街道の妖精でもいいと思いますけど」


 妖精?とシザリが首を傾げていたが、完全に無視されていた。


「もしよければ、またひとつお願いごとを聞いてもらえませんか?」


「いいよ」


 内容も聞かずに即答したクコリに、苦笑して見せ、女隊長は懐から一枚の封筒を出した。きちんと封がされていたそれを、まったく何の気負いも見せず、クコリは受け取った。


 表を返す。


「‥‥これは?」


「恋文ですよ」


 恋文?とシザリが首を傾げていたが、そう、と頷いたクコリの為にまた完全に無視されていた。


「宛名は?」


「恥ずかしいから書きません。

 これを、あっちの国の総大将の部屋に置きに行ってほしいんです」


「なんだ、まだ続いていたの」


 シザリが言うのに、恥ずかしいと言いながらまったく隠す様子も見せず、女隊長は頷いた。


「だって私には彼しか考えられませんから。

 そんなわけでお願いしたいんですが、いいですか?」


「分かった」


 詳細はまるで訊かなかった。もうそれが当たり前のことのように、どことなく嬉しそうにクコリは頷いた。


「ありがとう。よろしく頼みます。

 丁度いいから私もそちらに逃げることにしますし、もしそのあと戻るのなら、すれ違うかもしれませんね」


 それには首を傾げて見せた。


「多分戻らないよ」


 生きる場所はどこでもいいけれど、余裕があるところがいいから。


 そう告げるクコリには、確かに、まるで執着というものがなさそうに見えた。

多分もうあとエピローグです。

何事も起らなかった‥‥

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