18.
女隊長の元に辿り着くのに、それから2日かかった。
戦場だった。だが、天幕のあたりは本当の戦場からは遠かった。そもそもこちらが攻めている側で、天幕付近まで攻め返されていたら世話はない。
「戻ったよ」
いつかとは逆、天幕に入ろうと布を持ち上げた女隊長の背中に向かって、簡単にクコリは声をかけた。
「‥‥ありがとう」
中に入りませんか、と振り返りもせず言ったのに、2人は素直に従った。
「‥‥シザリ」
久し振りですね、と女隊長は言った。
「‥‥久し振りだね、小姉」
似た顔で、同じ無表情で、会話する姉妹をクコリは茫と眺めていた。
「シクリは‥‥」
「‥‥死んだよ」
「‥‥そう」
姉妹が一の姉について語り合ったのは、それだけだった。
「毒は?」
「‥‥一日食べなかったら大分抜けた。そうしたら動けるようになったし、こいつも来たから逃げ出せた」
指差されて、クコリはちょっと頷いた。
正直なところ、ふらふらしていたシザリ1人でここまで逃げ出せたとは、クコリにも思えない。かといってクコリが凄いのだと誇るつもりもない、ただ、慣れているだけだ。
「訴えられると思う?」
「‥‥無理だろね。
多分白の毒だとは思うけど、どこで混入されたかなんて、連中ならいくらでも偽装できるだろ。私の毒はとうに抜けているし、例え大姉の身体があったところで‥‥」
「‥‥そうですね」
呟くと、女隊長は、つい、とシザリからクコリへ視線を移した。
「‥‥それなら逃げましょうか。
クコリ、ありがとう」
それだけだった。クコリもそれに当然のように頷いた。
「‥‥姉さん助けられなくてごめん」
「いいえ。おそらく、私たち、3人は自由になれなかったのですよ」
だから、ありがとう。と、もう一度女隊長は呟いた。