17.
自己紹介をしよう、と、混乱したままなのかシザリは言った。
「‥‥私は、シザリ。小姉、女隊長の妹」
そうしようか、と、クコリは頷いた。
「おれは、クコリ。たいちょーにお願いされたからあんたたちを連れ出しに来たんだよ」
「‥‥一体全体、何をどうしたらそういうことになるわけ?」
とりあえず移動しようか、と、クコリは促した。さっきまで実に素直に従っていたくせに、シザリは額に手をやって考え考え着いてきた。何が腑に落ちないというのだろう、ただ、女隊長が姉妹を救いたいと思って、クコリはその意思を持ってやってきたというだけなのに。
「何をどうしたら、って言っても、食料を盗みに入ったらたいちょーに見つかって、一緒に酒飲んで、最後にお願いされただけだよ」
「‥‥待て待て待て待て」
がさがさと、決して小さくはない音を立てながら2人は歩く。いや、音を立てているのは専らシザリの方で、クコリは街中と同程度に静かに歩いていた。ただ、時々枝を踏むぱきりという音をさせるくらいだ。それにしてもずいぶんと賑やかなものだ。
「‥‥食料盗みに入った奴誘って、何を酒なんて飲んでいるんだよあのひとは‥‥」
「初めて飲んだけど、酒って美味しいんだね」
「別に味は訊いていない‥‥」
「あ、ちょっと止まって。しゃがんで」
会話に指示を挟んで、クコリは自分は突っ立ったままで首をめぐらせた。
ただ突っ立っているだけに見えるのに、存在が薄くてぞっとした。この子供は得体がしれないとシザリは思う。けれど、この得体のしれない存在の手を借りなければ、あの屋敷から逃げられなかったのは確かだ。
「‥‥うん、大丈夫みたい。スラムの方からなら、かなり距離があるし」
「‥‥なんでそんなこと分かるってのさ‥‥」
この子供は心底得体がしれない。
「‥‥音とか?
うん、かなり見当違いの方向に遠ざかって行っているみたいだよ」
「‥‥聞こえない。ふつう聞こえないから」
そうかもね、と簡単に言って、
「酒も美味しかったけどつまみも美味しかったよ。燻製とかってなんであんなに味が濃いんだろうって思っていたけど、酒にはあうんだねぇ」
普通に会話を続けた。この子供はどこまでも得体がしれない。