16.
「‥‥死ぬ、かと、思った‥‥」
何とか2人して地面に降り立ち、壁の付近は多分防衛上の問題からか何もないので追い立てるように樹のあるところまで移動して、そこで倒れていたシザリがやがて呟いた。
「‥‥死ななくて、よかった‥‥」
私も、お前も。
心底からの言葉のようで、クコリは、ちょっと反応できなかった。
「‥‥無理だ、ちょっと、寝たい‥‥」
「流石にそれはちょっと」
ここは森の端の端である。いくらなんでもこんなところで意識をなくさないでほしい。
「‥‥地面‥‥ひんやり‥‥しっとり‥‥濡れるなぁ‥‥」
「‥‥それは寝ないためとかなの?」
「‥‥だって、このまま、倒れてたら、寝る‥‥」
「だったら起きてよ」
ぶつぶつと単語で呟いていたシザリが、ようやく身体を起こす頃には、クコリは布を再び解体し終えていた。
「‥‥お前有能だなぁ」
休むことなく動き続けるクコリをぼんやりと眺めながら、シザリはそんなことを言った。
「そうなの?」
「‥‥と、私は思うけどね。
だって私なんか、小姉の枷にしかなったことない」
あぁまただ、とクコリは思った。
また、あの、苦しい笑顔を浮かべていた。
「‥‥今だって、お前の枷にしかなっていない」
「枷‥‥というか‥‥」
だって、クコリはシザリを助けに来たのだから。
手を差し伸べるのは生まれて初めてだけれど、手を差し伸べに来たのだから差し伸べられた手を握ることに苦しさを覚えられても、クコリだって困ってしまうのだ。
「というか、だって、それはたいちょーも苦しいと思っていたからおれにお願いなんてしたんじゃないの」
「‥‥そうなのかね」
「‥‥分からないけど。おれには何も分からないけど、でも、たいちょーは会った時に言ったんだから。
そろそろいいかな、て」
多分、それは、
「‥‥姉妹を枷に、国のために尽くすのはもうそろそろやめにしようかな、ってことなんじゃないの」
だから多分、女隊長は変化を待っていたのだと思う。なんとなくそう感じたから、クコリはすぐにやってきたのだ。
つたない言葉で言い募るクコリに、シザリはしかし怪訝な顔をして見せた。
「すぐに、て‥‥
え、お前って小姉の昔からの子飼いとかじゃないの?」
「会ったのは一昨日が初めてだよ」
でも、クコリは決めたのだ。あの瞬間に、自分はあの人のために生きるのだと決めたのだった。