15.
実現可能性を云々はなしでお願いいたします。
「ちょっと、倒れる」
言い終えるが早いか、シザリはそのまま地面に突っ伏した。
夜の地べたは冷たい。露もあり、そのような行動は通常は考えられないことだが、クコリは特に何も言わなかった。
結局、布ロープの固定は、いろいろ考えた結果しないことにした。というよりも、できなかった。街壁は石を組み合わせて作ってあり、特に攻め込まれそれに対抗することも考えられていないためか、物見の身隠しのような凹凸もなかった。
そこで、まずクコリが、一端を腰に縛り付けて壁を登る。そのときに、目印代わりにナイフで多少の傷をつけながら。そして一番上を越えたところでぶら下がって、己を重石代わりにする。シザリは垂れ下がった布を頼りに、クコリがつけた傷を素足で探りながら、登る。ちなみに靴は、これもクコリが持っている。
3階分程度の高さのある壁の一番上まで来たとき、すでにシザリは息も絶え絶えだった。だが、広さは手を広げたほどあるが凹凸のない壁の上にいつまでもうずくまっているわけにはいかない。月明かり程度でも目立ってしまうのだ。余計な荷物を持つことはできないため、シザリは使用人の格好のままである。そんな盗賊はまずいないが、目立って仕方がない。
「伏せてへばってて」
スカートでないだけましだろう。流石にそれは考えていたのか、使用人と言ってもシザリがしていたのは給仕の格好に近い。ただ、それでも白いシャツは目立つし、実は黒い布の色というのも、場合によっては目立つ。ともかく、言われたとおりに壁の上に伏せたシザリを置いて、するするとクコリは降りていく。先ほどと同じように、目印をつけるだけなのでそれほどかからず、また登った。
「じゃ、次は逆ね。さっさと降りて」
靴は下に落としてあるから。
それ以上の休憩を許さず、半ば蹴落とすようにクコリは言った。恨めし気な視線を向けられる前に、街中側にぶら下がる。言われるまでもないが、あまりに危険である。だが、それ以外の方法を思いつかなかったのだから仕方がない。普段それほど焦ることはないが、正直、早く降りろと念じる程度には焦った。
それに、腰に巻いた布で人間一人分の体重を支えるのも、かなりきつい。シザリは確かに女性にしても小柄なほうだが、クコリだってかなり小柄だ。むしろ子供である。息は止まりそうだし街中からもし壁を見上げられたら隠れるところもないし、何故自分はこんなにきつい思いをしているのだろうと真剣に悩んだ。今まで生きてきた十数年、もしかしたら一番生命の危険を感じた瞬間かもしれなかった。