14.
昨夜に比べれば、大分シザリの歩みはしっかりしていた。
(‥‥まぁ、あれだけ寝てればね)
クコリは音も立てずに歩く。布の塊はクコリの小脇に抱えられ、それなりに持ち重りはするのだけれどその程度だった。
シザリも音を立てないように気を付けているのは分かるのだけれど、変に力が入っている。
「‥‥普通に歩けば」
傍ら少し後ろに、肩越しに声をかける。昨日から、2人の位置関係は固定していた。真横だと何かあった時に足を止めるのが間に合わないこともあるし、後ろだとそれはそれで邪魔なこともある。これが丁度いい、とクコリは思う。
「普通に、と言われたってね‥‥」
困ったような返事があった。昨夜は後半、まともに口を利くことすらできなかったのだから休んだ甲斐はあったというものだ。
「大丈夫だよ。追手は見当違いのところを捜してる」
「そうは言っても‥‥て、え?」
あまりに簡単にクコリが言うものだから、訊き流しかけてきょとんと、シザリは首を傾げた。
「‥‥やっぱり追手とかあったんだ?」
そのわりに静かなものだけれど。
「どうせ連中は、あんたたちの昔の家とか捜しているよ。あと、たいちょーの所にまっすぐ向かったりとかさ」
「‥‥あぁ。昔の家ね」
「やっぱ行きたかった?」
問えば、しばらく首を傾けていたが、緩く横に振った。こんな会話をしているうちに、歩調も自然なものに変わっていった。多少足音があっても、それが自然なのだから構わないのだ。ここは誰もいるはずがない場所ではないのだから。
「‥‥そんなでもない。想い出なんか後生大事にしすぎて、身動きできなくなったら仕方がないでしょう」
それならよかった。呟いて、クコリはただ歩く。
「‥‥ところで、昔の家にも小姉の所にも向かっていないなら、この先は一体どこへ続くの」
そろそろ王都の壁が近付いている。
「そりゃたいちょーの所だよ」
「‥‥?」
真顔のまま首を傾けるのは癖なのだろうか。少し怖いからちょっとやめてほしいなぁとクコリは思う。
「まっすぐ行かないってだけ。
壁を越えたら、森に入るよ」
そこから戦場に向かう。
告げれば、シザリは無表情のまま、そう、と頷いた。
「でもやっぱり壁は越えるのか‥‥」
苦い感情がその言葉にだけ現れていて、少しおかしかった。