13.
「食べれば」
床に置いてあったパンに初めて気付いて、シザリがまじまじと見ていたので、クコリは声をかけた。
「お前は?」
「先に食べた」
日中部屋の中に放置していたパンはちょいと変な味がしたが、そのくらいでクコリは腹など下さない。流石にそんなものを他人に食べさせるのは気が引けたので、シザリの為にはまた盗ってきた。
「そういえばご飯とか食べてなかったっけ‥‥」
何処か呆然とパンを見つめてシザリは言った。
「だから体力ないんでしょ」
あきれて言うと、けれどシザリは変な感じに笑った。
「いや?むしろ丸一日食べなかったから昨日は動けたんだよ」
可笑しなことを言う。
どういうことだと訊こうとして、何故か勇気がなくてやめてしまった。昨日物思いにふけっていた時と似ている、嫌な気分になりそうな予感がした。
「‥‥なんでもいいけど食べといて。また歩くよ、かなり」
壁も越えるし。
言うと、情けなさそうにシザリは眉を下げた。
「‥‥行こう」
また少し時間を過ごし、真夜中、周りの音が大分静かになってクコリは声をかけた。かなりひそめた声は、けれど十分に聞こえた。
羽織る以外の布は、また縛ってある。厚くて丈夫な、多分カーテンか何かだった布は多少裂いて長さを稼いだ。これだけあれば足りるのではないかな、と、自分は使わないものだから曖昧にクコリは思った。
鍵を開けて扉を押し開く。
夜の匂いがした。
夜はクコリの世界だった。