11.
短めな上に地の分だらけ。
クコリが適当に食べられるものを盗って戻ってくると、シザリは布に埋もれるようにして眠っていた。息をしていないんじゃないかと一瞬ひやりとしたくらい静かで、思わずクコリは口元に手をやって呼吸を確認してしまった。
(‥‥まぁ、うるさいよりいいか)
これでいびきがひどかったりしたら、叩き起こして引きずっていくところだ。
それにしても、とクコリは思う。
囚われていると女隊長は表現していた。確かに自由に出歩けたりはしていなかったのだろうな、というのは、この体力のなさからも窺える。それに、肌の白さからも、数年も太陽を見ていないのではないかと思う。だから確かにきっと、女隊長の口ぶりから言って多分国王の周辺の意志が2人の姉妹を囚えていたのは確かだろうけれど。
けれど、逃げ出せたのではないかと思うのだ。
確かにあの屋敷の警戒態勢は尋常ではなかった。見張りやら見回りやらもたくさんいた。
だが、少しの間息をひそめていたクコリの眼には、高をくくった警備に見えたのだ。警備というより、それは外から屋敷を守るのではなく、屋敷の中から出て行く者を警戒する目線だったのは確かだが、同時にどこかおざなりだった。逃げられるわけがない、というような。
だからこそシザリは窓からなんていう王道の経路から逃げられたのだし、あの体力のなさにもかかわらず逃げ続けられている。下手をしたら朝まで気付かれないのではないだろうか。流石に明日になれば追手くらいはかかるだろうが、今晩の程度から考えるだに、十分に逃げ切れるとクコリは判断する。
夜歩きに慣れていないシザリでも、きっとその気になればいつでも逃げられた。
(その気にならなかった‥‥わけはないけど)
あるいは、その気になることができなかった、か。
考えていると眉間にしわが寄ってきたので、クコリは考えるのをやめた。とても不快な予想が立ちそうだった。
家具ひとつない埃の積もった床に、直にクコリは寝転がった。
(寝よう)
寝られるときには寝る。食べられるときには食べる。食べ物は他人から奪うことができるけれど、睡眠は誰かに代わってもらえることではないのだから。
(夜になったらここを出て、)
そしてクコリは浅い眠りに沈んだ。
(そうしたら、明日にはたいちょーに会える‥‥)