10.
夜明けが近かった。
「あんた体力ないよね」
2人はまだ街の中にいた。
屋敷から順調に遠ざかってはいるが、比較的、街外れのスラムに近い位置にあったのにも関わらず、むしろ街の中心部を突っ切るように歩いていた。この辺りは、比較的裕福な一般市民の借家が立ち並ぶ
区域だった。
裏通りを迷いなく進むクコリの後ろを、表情こそ動かさないが必死に着いて行くシザリの足取りは、
大分前からかなり怪しかった。今も、被っている布を取り落しそうに転びかけた。
「‥‥じゃ、休むか」
それを支えて立ち止まり、ふらりと、クコリは通りに並ぶ裏口の一つに身を寄せた。
少し扉を凝視して、何に納得したのか諦めて、次の扉の前にまたふらりと。
息を整えるのに必死になりながら、シザリはそれを不思議そうに眺めていた。注視するほどの体力もなさそうだった。ぼんやりと、クコリの動作を見ている。また布がずり落ちかけた。
2~3の裏口をそのように凝視して、やがて納得したのかクコリはその内ひとつに手をかけた。
がちゃり。鍵の音。
「まぁそうだよね」
空き部屋と言っても鍵くらいはかける。特にクコリが一度王都を出てからこちら、治安は悪化の一途を辿っているそうだし。
慌てることなくクコリは、慣れた手つきで懐から針金を取り出し、ちょちょいと開けて見せた。
「‥‥誰かいたらどうするの」
ようやく喋られる程度には息を整えたシザリが囁いたが、クコリは無視して扉を押し広げ、招いた。
「調べたから大丈夫。
ここで明日の晩まで寝ていればいいよ」
適当に言って、自分は扉をくくらずに、持っていた布の塊をシザリに寄越した。
「‥‥大丈夫なの?」
「まぁ信用してもいいんじゃない。おれ、この手の勘外したことないし」
はなはだ信用し難いことを言って、クコリはシザリの背を押した。体力のないシザリはそれに逆らえず、2、3歩と建物の中に歩を進める。
何もない部屋だった。
「寝てれば。
食べられるもんとってくるから」
もちろんこの場合のとってくる、は盗ってくるなわけだが、そんなことはシザリに分かるはずもなく、ただ曖昧に頷いて言った。
「‥‥信用することにする。」