スマイル全サイズ150円
マクドナルドに引きこもってたら書けました。
いったいあの人は、誰なんだろう。
毎週金曜日のわたしの頭の中で、今一番ホットな議題だ。
部活のないこの日、わたしはきまって駅前のマクドナルドに立ち寄ることにしている。
二階のグループ用座席が並んでいるゾーンの、右側のペア席に座って、マックシェイク(バナナ味)をすすりながら、窓際に目を向ける。
窓際の席には、一人用の個人席が五つ設けられており、窓からは、せわしなく駅に行きかう人々を見下ろす構造になっている。
その左端の座席で、プレミアムローストコーヒーとアップルパイをトレーに乗せて、じっと外を眺めている若い大学生くらいの男性。
それが目下、わたしの頭を悩ます彼だ。
ずぞぞぞぞ……。
「ねぇ、もうシェイク終わってるよ」
ずぞぞぞぞぞぞぞぞ……。
「ねぇったら。みっともないよなんか」
ずぞぞぞ……ふすーふすー。
「おい」
ビシッ!という乾いた音の後に、おでこがじんじん痛み出す。
「いったぁ? なにすんだ」
「ようやく気づいたか。なんか女子高生にあるまじきことになってたよ」
通路側の対面に座った友人の木村は、ナゲットをぱくつきながら話しかけてくる。
「それよりなに? さっきからぼーっと窓際の席見つめて」
「うーん……ちょっとあの人、気になってね」
わたしは、少し失礼かな。と思いつつ、控えめに彼を指差す。
「えっ? 男? 男?」
興奮したように、木村の目が急に気色だつ。
「まあ、そうなんだけど、そうじゃな……」
「ちょっと見てこよう」
「ちょ……」
そういうなり木村は、トイレに行くという体で、席を立った。
ほぼノータイムでトイレから出てくると、帰りぎわにかなり露骨にチラチラと(もはやじろじろと)窓際に座る彼をたっぷり眺めると、首を抱えながら、なんとも言えない表情をして席に戻ってきた。
「うーん……まー、なくはないけど……」
「いやちが……」
「ちーちゃん、ああいう人がタイプなの?」
「だから、ちが……」
「私はああいう白い歯みせて『清潔です! キラーン』みたいなタイプ、あんまり好きじゃないな」
「……ちがうってんだろうがい!」
脳天に勢い良くチョップを入れる。
「いったー……。じゃあなんだってのさ」
頭をさすりながら、木村は涙目で問うてくる。
わたしは、注文したときに一緒にもらった水をひとくち飲んで落ち着いてから、木村に手招きをして、耳を貸すように促す。
「あの人、わたしが金曜日にマックに来ると、いっつもあそこにいるんだよ。決まってあの席で、決まって同じメニューで」
「へぇ……それで、あの人が気になって仕方がなくなった。と」
わたしに合わせて、ひそひそ話をするトーンで、なおも木村はわたしをからかってくる。
くっこいつ……。
「ばっ……だから、ちがうって! そ、そりゃ、少しは……カッコいい。の、かもしれないけど……」
「赤くなっちゃってからに。ちーちゃんはすぐ顔に出るから、かわええのう」
木村がにやけながら、なでなでしてくる。
「なでるな!」
あわててその手を、振り払う。
くそぅ! わたしの馬鹿ぁ!
ほどなくして、窓際の彼は立ち上がって、店を出て行った。
用事があるのか。今日はいつもより早い気がする。
ていうか木村がじろじろ見たからなんじゃ……。
ひとまずこれで、ひそひそ話をすることはなくなった。幸い、隣の席は空席のままだし。
こほん。と一つ咳払いをして、本題を切り出す。
「いや、でも、本当にちがくて。わたしは木村と一緒じゃない日も、金曜日は毎週ここに来てるからわかるんだけど、ずーーーっと、この時間に、あそこの席だよ? アップルパイとコーヒーだよ? おかしくない?」
「うーん。言われてみれば確かにねー」
こっちの話題は、あんまり興味なさげに、木村はわたしのトレーから勝手にポテトをざばざばと奪い出す。
……あとでそっちのナゲット取ってやるから見てろよ。
「ああ、あと何故か雨の日だけはこないんだよねぇ……」
「じめん、ほのおタイプだから、4倍弱点なんじゃない?」
わたしは、運ぶときにこぼして、トレーの上に転がってしまっていた氷を、左の手のひらに乗せて、右手でデコピンの要領で射出する。
おでこにあたった! こうかはばつぐんのようだ!
「いってー。わたしドラゴンタイプなんだから気をつけてよねー」
「なんでさっきからポケモンネタなんだよ」
「いや、今マック限定の配信ポケモンが……」
鞄の影に隠れて気づかなかったが、木村はちゃっかりDSを起動させていたようだ。
「まだポケモン? 何歳だよ……」
「あ? 努力値と個体値と乱数調整極めてから言ってんだろうな? お?」
「いいよ! 今ポケモンの話いらないよ!」
ポケモンを幼稚扱いされたことが納得いかない様子で、唇を尖らせながら木村は抗議するように聞いてくる。
「じゃあ、なんなのさーあいつ」
「うーん……」
一瞬会話が止まった。
わたしは腕を組んで、目をつむり、対して成績もいいわけでもない、貧相なボキャブラリーで賢明に考えてみる。
窓際の席に、同じ時間帯に、毎週金曜日……。
木村が「タマゴ厳選してていい?」と言い出して、右手でわたしのポテトを食べながら、左手で十字キーを左右にぐりぐりしだした(何の意味があるんだろう?)ころに、わたしなりの結論が出る。
「わたしが思うに、探偵なんじゃないかな? あの人」
そう言うと、木村は指だけを動かしたまま、画面から目を上げて、わたしを見据える。
「ほうほう、その心は?」
頭の中で、少し情報を整理する。
ついつい、もう入ってないシェイクに手が伸びて、虚しい空気音を響かせたあとに、ゆっくりと、自分自身に確かめるように、話し出す。
「決まった場所に、決まった曜日で、決まった時間に。ってことを考えて、まず真っ先に浮かんだのが、警官か探偵だったんだ。
私服警官。っていう線も考えたけど、張り込みで抑える現場って、たとえば、麻薬密売とか、そういう約束事が決行される瞬間でしょ? 自信ないけど。それを押さえるにしては、時間が早すぎるな。と思って。
そうとは限らないかもしれないけど、人の多い夕方だと、突発的なテロとか殺人予告とかだろうし、それに大して何ヶ月もずっと同じ場所で張り込み続けてるのは不自然かな? と、思って」
「ふむふむ」
相槌を打ちながら、わたしのポテトを取ろうとするので、トレーを手の届かないところまで引く。
「探偵なら、浮気の調査とか、素行調査とかで、平日の昼間から動いててもおかしくないかなって」
「あれは? 雨の日にこないのは?」
木村はなおも諦めず、ググッと身を折ってポテトを取ろうとするので、わたしは隣の椅子にトレーを置く。
「調査対象も、雨の日は活動しない。とか。あるいは、傘さしてると、ここ二階で見下ろす形になるから、見えなくなっちゃうし。場所を変えるのかもね」
「なるほどー。筋通ってる風だね」
木村は諦めて、手についた塩を舐めだした。女子高生にあるまじき行為だ。
「あと、探偵ってなんかカッコいいし……ごにょごにょ」
ついつい思ったことが口からでてしまうのは、われながら悪い癖だと思う。
大丈夫。最後うやむやにしたから気づかれて無いはず
「なんか言った?」
餌の気配を察知したネコのような目で、木村はじっと見つめてくる。
くっ……こういうときだけ、勘のいい奴だ。
「う、ううん!? なんでもないよ?」
思いっきり声が上ずった!
気恥ずかしくて、やつのにやにや顔を視線をあわせないようにしていると、ちっちっち。と言う風にわざとらしく、右手ひとさし指を三回振って、木村は得意げな顔で語り始めた。
「しかし、私の見解は違うんだなぁこれが」
「……全く期待して無いけど、一応きかせてみ」
「なんだよぉ。今回は真面目だぞ」
じゃあその十字キーに置かれたままの左手はなんだ。と問いたい。
「さっきの説明でガン無視されてたけど、毎回同じアップルパイとコーヒー。あれには何の意味があると思ってる?」
「えっ……。ただ好きなだけなんじゃない?」
「違うんだなぁそれが」
小ばかにしたような顔にちょっとイラっとしたので、ナゲットを一つ、木村のトレーから速効で奪い取る。等価交換は錬金術の基本だ。
「っ……私からナゲットを取るとは……やるなちーちゃん。まあいい。わたしはこの決まったメニューにこそ意味があるのだと思ってる。
マクドナルドのコーヒーはおかわり無料。つまり、粘ろうと思えば、何杯だっておかわりができる。しかし、だ。おかわりをするためにいったんレジまで戻って、店員さんにコップを渡さなければならない。ここが重要だよ! 小林少年」
「だーれが少年だ。だれが」
ズビシ!と、指を差す木村の手をはたく。
「マクドナルドのアルバイトは、男は調理場、女はレジ、接客業務と決まっている。あー。さっきのレジの担当の人、八重歯がお茶目でむちゃくちゃ可愛かったなー」
「……木村、そういう趣味に目覚めたの? ちょっと近寄んないでくれる?」
答えを確信した名探偵のように、もったいぶる木村にだんだんと腹が立ってきたので、少しいじわるを言う。
木村は心外そうに、左手でパチン! とDSを閉じる。
「ちゃうわ! ……仕方ない。結論に入ろう。つまりだ。あの窓際の彼が毎週金曜日のこの時間帯に必ずここにくるのは、彼の想い人がここで働いていて、シフトを入れているのが金曜日のこの時間だから! 彼女からコーヒーのおかわりを貰うために、毎週金曜日、ここに来ているというわけだ! Q.E.D.!」
一息に全て言い終えると、木村は「きまった……」と、ドヤ顔をして、得意げに腕を組んでいる。
すっごい突っ込みどころ満載だ……。
満載なのだが、何故か妙に心がざわざわとしてしまう。
……それは恐らく、彼に想い人がいる。というその木村説の結論からだろう。
必死に否定するまでもないような、筋の通らなさなのに、ついつい焦って、畳み掛けるように糾弾する。
「んな、な、そんなわけ、ないでしょ! コーヒーだけじゃなくて、アップルパイの理由は?」
「ん? すきなんじゃない? あるいは、パターンで彼女に自分を印象付けなきゃかもだし、毎週通ってるなら、お茶菓子としてはマックでは一番安あがりだしね」
「む、むううう……。じゃ、じゃあ、雨の日だけこないのは?」
「さあ? だるいんじゃない?」
「か、かっるい理由だなぁ……。それじゃあ、いつも窓の外を眺めてるのは?」
「趣味:人間観察 とか言っちゃう人なんじゃない? きらいだわー。私、そんなん」
「勝手に妄想して、勝手に嫌いにならないでくれる?!」
自分でも分かるくらい、顔を真っ赤にして反論する。
すると、再びあの煽るようなニヤニヤ顔で、木村はじっとわたしを見つめてくる。
「なんでちーちゃんが熱くなるの?」
「う……それは……」
「ニヤニヤ」
「うがー!!!!!」
わたしは、木村のトレーのナゲットの容器から、残っていた二つのナゲットを取り上げて口の中に放り込んだ。
「あー!!!! 今100円じゃないんだぞ!!!! べんしょーしろ!!!!」
一矢報いたことに、内心ほくそえみながらむしゃこらとナゲットを咀嚼する。
わたしのポテトLサイズの3分の1のポテトと、これで等価だ。わたしの価値観ではな。
もうすぐなくなってしまいそうな水を飲んで一息つくと、木村はイタズラを思いついた子供みたいな表情になって、喋りだす。
「……じゃあ恋愛感情じゃなくて、単純にマックの制服姿に興奮する変態なのかもねー」
……ぶっ!
「おい! イメージ壊れるよ! そういうキャラじゃないでしょ! 絶対!」
「わかんないよー? じゃあ、私の説と、ちーちゃんの説。どっちが正しいか試してみるかい?」
急に勝負を持ちかけられる。
しかし、破綻しきった木村の説が少なくとも正解なはずはない。
ニアピンすらありえないだろう。これは最悪でも引き分けのゲームだ。受けない手は無い。
「……じゃあ来週の金曜に、またここのマック来よう。 間違ってた方がポテト奢りね」
ということで、ちょっぴり条件もつけてみる。せこい。
「Lサイズだかんね! あとでなしとは言わせないよ?」
どこからその自信がわくのか、木村はその申し立てを快諾した。
こうして、この問題の結論は来週の金曜日にもつれこむこととなった。
翌週の金曜日。
約束どおり、わたしと木村は、再び駅前のマクドナルドに来ていた。
わたしはマックシェイク(バニラ味)と、チーズバーガーを。木村はラスベガスバーガーセットを買って、二階へと上がる。
窓際の左端の座席には、やっぱりあの爽やかなイケメン大学生が今日も座っていた。
わたしたちも定位置のグループ席へ陣取ると、さっそくひそひそ声で木村へ話しかける。
「ほら。あの人、またあそこの席にいるよ」
控えめに窓際を指差すと、確認した。という首肯と共に、木村が立ち上がる。
「よし……ちょっと待ってろ。私が確認してくるから」
「え、確認ってどうやって……」
答えを聞く暇もなく、木村は窓際へ向かって歩いていくと、声を出そうと息を吸って……ってうおおおおおおおい!!!!
「すみませー……むごっむがっ」
声を掛けかける寸前で、木村の口を塞いで、自分達の席へと引きずる。
「バカ! なんてことすんの!」
「えっ。見ての通り直接きこうと思ったんだけど」
なにか問題でも? といった顔で木村は首をかしげる。
問題ありありだ!
わたしは歯をむいて反論する。
「声掛けちゃったら、わたしの毎週金曜日にあの人を眺めていろいろ妄想する。っていう楽しみがなくなるでしょうが!」
「あっ。ついにはっきり認めたね今」
……本当だ! はっきり言ってしまっていた!
……わたしマジで馬鹿か! もう!
「あっ……あぅ……」
「ニヤニヤ」
「う、うううううううう……! そうだよ! わたしあの人のこと気になってるよ! なんか悪いか!」
恥ずかしさで泣きそうになりながら、開き直る。
もうどうにでもなってしまえ。
「わるくはありませんけどー? ちーちゃんな乙女な一面が見え隠れして、かわいいねー。ふふふ……ぐがっ!」
恥ずかしいのと、木村の勝ち誇ったニヤニヤ顔が無茶苦茶悔しいのとで、木村の制服の襟を掴んで持ち上げる。
くそう! このままボムに移行してやる!
「ぐ、ぐぅ……! くれぐれも余計なことすんじゃない……よ?」
すると、向こうから窓際のイケメン大学生が、こちらへ向かって来る。
それを見て、心臓がバクバクと鳴り出して、思わず力が抜けてしまった。
ギブアップの意思表明か、左腕をしきりにタップしていた木村を解放してしまう。
「あのぅ。ぼくに何か用ですか?」
ああああ! 聞こえてしまっていた! 手遅れだった!
「……い、いやぁ、この娘の勘違いでして、あの」
初対面の緊張で、どもって、視線を右往左往させながら、あたふたと弁解する。
どうしよう。わたし、今、絶対顔真っ赤だ。
「あのおー。この娘があー。聴きたいことがあー。あるんだそうでーす」
木村が、さっきの首絞めの仕返しとばかりに、わざとらしく言う。
こいつ……! こいつうううう……! あとで覚えとけよ!
「なにかな?」
ニコリ。と効果音がしそうな、爽やかな笑みで彼はわたしに尋ねてくる。
もう、後戻りは出来なくなった。聞くしかない。
……真正面からしっかり見るの、そういえば初めてだなぁ。
やっぱり、すっごいかっこいいんだなぁ。
「あの、えと、大した用事じゃないんですけど……。なんで毎週金曜日にきまってここにいるのかなー。って」
ぽーっとしたまま、なんとか質問を吐き出す。
大丈夫。まだ終わってない。ワンチャンある。
彼は質問の意味を理解すると、歯磨き粉のCMオファーが来そうなくらい、白い歯を見せた爽やかな笑みで、答えてくれた。
あーやっぱり見とれてしまう。かっこいい……。
「女子高生を眺めるためだよ」
「そうですよねー。探偵さんですかぁ……。え? 今なんて」
ちょっと、音の調子が悪かったみたいだ。もう一回聞いてみよう。
すると、体操のお兄さんもビックリな爽やかスマイルで、もう一度答えてくれる。
「女子高生を眺めるためだよ」
あー。ちょーっと最近耳が遠くなってきたかなー……。
「ぼくすぐそこにある医科系の大学に行っててさ。授業のスケジュールが辛いんだけど、金曜日だけはなんとか二限までで。だから、ここで帰宅する女子高生達を見て癒されながら勉強するのが、金曜の習慣なんだよ。ほら、ここ駅前だから、夕方から帰宅する高校生がいっぱい通るだろ?」
畳み掛けるように、彼は100点満点の笑顔で語る。
サラサラと、心の中で、何かが崩れる音がした気がする。
気がするけど、何かの間違いだ。そのはずなんだ。
すると彼は、どこかスイッチが入ってしまったのか、熱っぽく語りだす。
「いやあ。素晴らしいよね! 女子高生! 制服によって、若さとその輝きが内包され、記号化されたその姿は、人類の美のひとつの到達点と言ってもいい! 春は夜明け前に早くからうきうきと出て行く女子高生がいい。夏は夜まで部活を頑張った女子高生が素敵。秋は早まった夕暮れを背景に、友達にさよならを言う女子高生も風情がある。冬は早朝の寒空の下の女子高生のマフラーに埋めた顔と、その真っ白い脚は、どんな雪景色よりも美しい。って、平安時代から言われてるしね! ああ! その美しさをただただいつまでも眺めて暮らしていたい……!!」
…………いやあああああああああああ!!!!!
もう黙って!!!!!
わかんない! わたしもうわかんない!
「……あ、あが……わ、わたしは……こんなド変態に……ずっと片想いを……?」
なんだか自分が情けなくなってきた。
そうだよね。外見しか見てなかったわたしが……わるい……んだよね……。
はははははははははは。
「ま、まて、ちーちゃん。その手に握り締めたシェイクはやばい」
木村が珍しく怯えるような顔をしている。
なにが? ちょっと落ち着くために飲むだけだよ? シェイク。
すると、彼ははあはあ言いながら、更に追い討ちをかけてくる。
「キミ達のこともよく知ってるよ。 金曜日に来てくれるしね! よ、良かったら、じっくり眺めさせてくれないかな?」
わたしの中で、何かが完全に崩壊しきる感覚があった。
あとは本能で動くだけだった。
「……い、いいわけあるかあああああああああああああああ!!!!!」
わたしはシェイクの蓋を開けて、そいつに向かって思いっきりブン投げた。
「へぶらっ!」
その日から、わたしたちは駅前のマクドナルドを出禁になった。
「かわいいJKにシェイクぶっ掛けられるとか、むしろご褒美ですから!」とか言っていたので、そのほかは問題にならななかったが。
これ以上、心をオーバーキルをしないで欲しかった。
マクドナルドから出ると、もう辺りはすっかり暗くなり始めていた。
憔悴しきって、抜け殻になったわたしは、自転車を押しながらハンドルに体重をあずけて、ふらふらと歩きつつ、隣の木村に語りかける。
「ごめんね……なんか巻き込んじゃって。木村の変態説でほとんど当たりだったね。 ……約束だしね。どっかほかのマックで、ポテト、奢るよ」
すると木村は、隣にすすーっ。と寄ってきて、ぽんぽんとわたしの右肩に手をやる。
「……いや、今日は私が奢ったげるよ。なんでも好きなもの、いいなよ」
たまーに。本当にたまーにだけど、すっごいやさしいんだよなぁ。木村って。
なさけなかったり、温かかったりで、なんだか泣けてきてしまった。
「……う、うぇぇぇぇぇぇぇん! きむらぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!」
思わず、木村に泣きながら抱きついてしまう。
すると木村は、待ってました。とばかりにニヤリと笑って。ずっと準備していたであろうセリフを吐いた。
「え、ちーちゃんそういう趣味に目覚めたんだ。引くわ」
ちゃうわ!