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【X'mas 特別編】 ガントナ その1

 子供へのクリスマス・プレゼント、それは親としての悩みのタネだ。

 少し前からリサーチを始めなければならない。

 今何に関心があるのか、何が好きなのか。

 外せばサンタクロースの権威も落ちてしまう。

「こんなのいらない。サンタさん、私のこと何も分かってない」

 ……なんていうのは、一番避けなければいけない言葉だ。

 何よりも子供の喜ぶ姿を見たい。親だったら、そう思うだろう。それゆえに悩みは深くなり、いくら考えてもきりがない。

 子供の興味というものは移ろいやすく、また冷めやすいものだからだ。


 僕の娘、プリシラはもうすぐ四歳。親が言うのもなんだが、天使のような女の子だ。

 ストレートの金髪にはいつも光の輪が輝いている。瞳の色は、僕の青と妻のアビゲイルの緑を割った青緑色。

 現時点で、この子が好きなもの一番は、日本映画に出てくる怪獣「ゴッドジラー」だ。

 ビルやら塔やらを壊して、火を噴き暴れまわる、巨大な肉食恐竜みたいなもの。

 テレビで流れていた映画を見て彼女は一気にはまり込んだ。最高にキュートだと連呼した。ゴッドジラーの何処がキュートなのかは、我が娘ながら理解不能だ。

 これに関してのグッズは目に付く端から欲しがった。

 DVDやポスター、フィギアなど、愛らしい涙目攻撃に負けて、ほとんど買い与えてしまった。

 できれば、もっと子供らしいものを欲しがってもらいたい。

 ゴッドジラーの模型を振り回して、がおーと鳴き真似をする彼女も可愛らしくて捨てがたいが。

 お人形さんやお花なんか、女の子っぽいものなら言うことなしだ。

 これを妻であるアビゲイルに言うと、それがあの子の個性だから、潰すようなことをしては駄目だと咎められる。

 だが、将来のことを考えると不安だ。彼女がお気に入りであるボスと結婚したいなんて言い出したら。彼が僕の義理の息子に? いや、ボスがどうのという問題ではない。彼に色々問題があるのは確かだと思うが。

 そもそも他の男との結婚なんて考えたくもないのだ。

 結婚したい人はパパだと言ってくれるプリシラ。

「オスカー、それは親馬鹿よ。ずっと続くなんて信じちゃ駄目よ」とアビゲイルは呆れるが、あの子はまだ小さいんだ。少しくらい夢を見たっていいじゃないか。

 ……おっと、話が脱線してしまった。

 何を話したかったかというと、クリスマス・プレゼントのことだ。

 彼女の一番興味のあるゴッドジラーは置いておいて、好きなものの一つ、絵本を贈ることに決めた。

 それもクリスマスにちなんだものにしよう。調べてみると沢山ある。

 目に留まったのは『赤鼻のトナカイ』。劣等感を持っていたトナカイが自分の役割を知って喜びを得るという話だ。僕も子供の頃、大好きだった。

 この本をそのまま贈ってもいいが、それでは面白くない。赤鼻のトナカイを可愛いキャラクターにして、それをプリシラに当てはめてみよう。

 幸いなことにイラストレーターの知り合いがいたし、僕は技術情報部の部長だ。コンピューターをちょっぴり拝借すれば、お茶の子さいさい。

 親馬鹿だと言われてもいい。プリシラを主人公にしたプリシラのための絵本、作ってやろうじゃないか。


 ……しくじった。

 それもクリスマスまで一週間を切って判明した。プリシラがトナカイ嫌いであること。

 部屋に飾ったクリスマスツリーのトナカイのオーナメントをポイ捨てする彼女を見て気付いた。

 何故、こんなことになったんだろう。

 一ヶ月ほど前、久々の休暇を利用して、ケンブリッジの両親の家に二人で遊びに行ったことがそもそもの始まり。

 そこであの子は大泣きした。鹿の剥製に驚いたらしい。壁に飾る立派な角がある頭部の剥製だ。

 父母は孫娘が怖がるだろうと気遣って、壁から外し、布をかけて物置に仕舞っていたのだが、かくれんぼをしていたあの子が見つけたのだ。

 プリシラが言うには、シカ嫌いになったのはそれかららしい。

 シカは分かるが何故トナカイまで嫌いに? 

 答えを聞いて、訳すとこんな感じだった。

「白い布をかぶって驚かせるシカは嫌い。イジワルだ。トナカイもシカと同じだから、イジワルに決まっている。だからトナカイも嫌い」

 つまり、プリシラが泣いたのは剥製が怖かったからではなく、シカにイジワルされたことがショックだからというのだ。

 トナカイとシカは違うと言っても無駄だった。

 同じ角があるのにどう違うと逆に質問されて詰まる。こっちも不純な動機からトナカイの援護をしているだけで、さしたる知識もない。

 『赤鼻のトナカイ』の絵本を喜んでくれる見込みはゼロに均しくなった。クリスマス・プレゼントにはふさわしくないというわけだ。

 プリシラを主人公にした愛らしいトナカイの絵本はすでに出来上がっていた。

 また一から考え直さなければならない。

 はあ、仕事での徹夜以上に辛い。

 落ち込みは半端ではなく、すぐにアビゲイルに気付かれてしまった。

「まだ日にちはあるでしょ。ストーリーを変えて、あの子の食い付きをよくすれば、きっと大丈夫よ。シカもトナカイも信用を回復して万々歳じゃないの」

 我が愛する妻は前向きでパワフルだ。

 ストーリーや絵の指図はアビゲイルに任せて、文字通り裏方に回る。

 クリスマス・イブの午前中、ようやく新たな絵本が手元に届いた。

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