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ソラのお仕事 ~浮遊大陸観光案内所受付嬢のいつもの一週間~  作者: 玉部×字
Day 1

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3/4

浮遊大陸だって月曜日は憂鬱2


 浮遊大陸は危険な場所です。


 こちらの世界――地球に現れるまでは戦乱の中にありました。いえ、こちらに来てからも10年以上の間、浮遊大陸間では争いが続いていたのです。


 ですから危険はまだ残っています。


 余所者を嫌う土地も、危険な原生生物が居る場所も、魔法兵器が独立稼働している場所もあります。


 浮遊大陸の人間だって立ち入るのは危険が伴う場所だらけなのです。


 ですから私たちが必要となります。

 観光の目的地とスケジュールを決めて頂き、監視役を付ける。

 万全を期して、万難を排して、観光と行楽を楽しんで頂くため。

 地上と浮遊大陸の円滑な民間交流のため。

 観光案内所はあるのです。


 特にツアーに参加いただけない、個人のお客様には重要です。

 どんな場所に行きたいか。

 どんな景色を見たいか。

 希望を伺い、最適な土地を選出するのは時に困難を極めます。


 特に”詳しい人”が相手の場合は――


「まずはエスパスかサマーデイを回ることをお勧めいたします。空港のある2大陸は隅々まで開かれております。安全な上に、観光向けの名所も数多く――」

「んー実は行きたい場所はある程度見当をつけてるんですよ」

「見当でございますか?」

「ええ、ほら、結構もう観光客って来てるじゃないですか。カメラが駄目なんで映像は政府が出しているのだけですけど。いや、だからこそ、観光客の配信とかって需要があって。一杯あるんですよ。僕もそれを見て気になってる場所があるんです」

「はい、どちらでしょうか?」

「僕、青雲に行ってみたいんです。雪とクリスタルに閉ざされた大地! 黄金に光る雲の中の白い大陸! いや美しいでしょうねぇ。青雲に降りられませんか?」

「――青雲でございますか?」


 嫌な場所です。

 というか、駄目な場所です。


「青雲は少々――危険ですので」

「少々の危険は覚悟の上です。だから誰も立ったことがない。でも折角来たんだからそういうとこ行ってみたいんですよ。怪我くらいへっちゃらです。それに保険もあるんですよね? 保険料高くなっても大丈夫! こう見えて結構持ってきましたから」


 案の定難色を示した程度では”詳しい人”は止まりません。


『”詳しい奴”は詳しいが故に他の者と隔絶し、超越したいという欲を持ったてきだ。知識への自負が過信を産み、凝固し固執した思想に囚われ――貴様ら小娘の意見など貸す耳も、聞く耳も持たん』


 というリンカ所長の言葉が頭を過ぎります。

 そのうえ受付嬢は完全に拒絶する言葉を使ってはならないと訓練されております。


「ええと、青雲の危険度は少々では。スリルが欲しいのであれば大陸間ジップライン如何で――」

「ちょっとだけで良いんです。一歩足を踏み入れるだけでも。ほんのつま先だけでもいいんですよっ!」

「誰も行かない場所でして。渡航する手段もありませんので」

「でもボナンザ大陸のすぐそこですよね? ジャンプで渡れそうって言ってましたよ動画で」


 誰でしょう? 無責任なと言いたいです。

 しかし本当にまったく話しを聞いて頂けません。


 ひー全然話を聞いてくれません。

「ええと、青雲はボナンザからはかなり低い位置にあります、近くに見えるだけで、実際は100m近く離れております」

「100m! 鳥獣人ホークマンなら運んでいける距離なんですよね? あ、お金なら――」

「金の問題では――青雲の大地はクリスタルと申しましても、地上のとは違います。鋭利で硬質、非常に危険な物質。仮に踏ん付けでもしたら――」

「怪我しかねないですか? でもいいんですよ。別に足に貫通しても名誉の負傷って奴ですから。むしろ歓迎ですねぇ」

「申し訳ありませんが。当観光案内所がおすすめするのは『安心安全で楽しい観光』にございます。命の危険がある場所にはとても――」

「うう、そうですか――なら、エトピリカは? 情熱はどうですか? 危険って感じの話は聞かないですけど」


 一瞬打ちひしがれた表情を為されましたが、すぐに別の案。

 しかも、青雲よりもっと難しい2大陸です。


「ええと、確かに。命の危険はありません」

「なら!」

「ですが、その2つは浮遊大陸の神域と呼べる場所でして」

「やっぱり! 龍絡みの大陸て話ですもんね。なら猶更なんとかなりませんか?」

「――よくご存知で」

「ええ、はい、あ! スマホないんだっけ。この2つの大陸と龍について詳しく話す動画があるんですよ。100万再生越してるんですけど。まあその人が」

「龍に興味がおありと」

「勿論です! 地上ではファンタジーの生物の最強格ですから! 一度見てみたい、

触ってみたい、匂ってみたい、味わってみたいですねぇ。出来れば逆鱗に触れて吐息ブレスを浴びてみたいです。あ、危険なことはしませんよ。本当です!」

「でしたら、真紅の宮殿ヴァーミリオンパレス博物館にいらっしゃっては如何でしょうか? かつての王の居城を改装したもので――」

「龍の色に合わせて赤く塗ったんですよね! で、王政崩壊後は博物館になった」

「ええ、はい」

「いや、すみません。その動画の話ってそこの情報らしいので」

「ああ、そうだったのですね」

「それで、行けませんか? エトピリカ! 来る時見えたんですよ。空に浮かんでる島みたいな小さい奴なんですよね?」

「はい、そうです――けれど、その、禁足地でして」

「禁足地――立ち入れないっていう」

「そうなります」

「えと、それはエトピリカだけ?」

「両方です」

「じゃあ立ち入らない感じで。一目見られる。いや見られなくても、例えば上空から見下ろすってのは――あ、お金ならあるんです!」


 そう仰ると、山田様は革袋をテーブルに起きました。

 支給された革の袋――見たこともないほどパンパンに膨れた財布です。

 口を開いて、中身を撒かれますと、中身は金、金、金――50枚はあるでしょう。

それと同じくらいの銀貨が所狭しとテーブルを占拠しました。


 ちなみに私の月給は金貨1枚もありません。

 銀貨で13枚と銅貨です。


 つまり相当な大金です。日本円にしたら2000万円くらいするでしょう。


「上から――でございますか? これで――」

「足りませんか?」

「いえ、そういうわけでは――」

「じゃあ上からじゃなくても――こうちょっと外れた場所でも。領空を掠める感じでどうですかね? 駄目ですか?」

「駄目というわけでは」

「なら!」

「見られないかと」

「大丈夫ですよ」

「えっ?」

「こう見えて結構ラッキーなんですよ。僕って」


 ラッキー――そういうには余りにも余裕のない表情の山田様。

 少し俯いたまま語り続けました。


「昔っからラッキーなんです。子供の頃、ちょっと生きづらい時があったんですよ。行き詰った感じで、どこにも行けないっていうか。だから”もういい”かなって」

「もういい――ですか?」

「ええ”もういい”っていう諦めですね。運よく家のマンションの屋上にも上がれて手すりに足を掛けて、下を見てたんですね。でもいざその時になると。下を見ているのは怖い。上を見上げるわけですよ。そしたら空が黄金色に輝くんです」

「あ、浮遊大陸が」

「そう、出現したんです。雲を割って陸地が東の空に。隕石かなって思って見てたんですけど、そこで止まった。そこで思ったんですね。あ、これ僕を待ってるなって。

だからあそこに行きたいと思ったんです。ラッキーですよ。死ぬ前に生きる糧が降臨してくれたんですから。だから我武者羅に勉強しました」

「勉強ですか?」

「ええ、きっとあそこに行く人は、いや最初に住む人はかな? 科学者だろうって。子供心に思ったんですよ。実際そうでしたよね?」

「はい、確かに」

「だからいい大学にって頑張りました。判定も――あー入試を受けても無駄にならない学力になりまして。受けたんです。ただ、気合い入り過ぎちゃいまして。駄目だ駄目だって言われてたんですけど。前日の夜遅くまで勉強しちゃって。本番で寝ちゃいました。お陰で滑り止めです。でもラッキーなことに僕の行った大学の学部の先輩が魔法の研究で成果を出して。浮遊大陸に行ったんですよ」

「ああ、じゃあ鶯宿博士の」

「ええ、後輩です。といっても彼らは天才、僕は凡才。結局、民間に就職することにしたんです。でもラッキーなことにワンチャン浮遊大陸に絡めるんじゃないかって、研究職に内定が決まったんです――けど」

「けど?」

「あーなんていうのかな。こっちにはないからなぁ――まあ、大災害が起きまして。それで内定取り消し。しかも3月ですからね。もうどうしようもない。とはいえ僕はラッキーなもので。父がなんとかしてくれました。希望の職種じゃなくてもいい仕事にありつけました。少し忙しいですけれど。金払いはいいんですよ?」


 金貨を持ち上げてじゃらじゃらと落とす。

 その表情はどこか自嘲的で寂しげ。


「昼も夜もなく、平日も休日も。10年働いてきました。お陰で趣味もなく、恋人もいない。ま、暇でも恋人は無理だったでしょうけど、はは」


 笑いまでも自虐的で。


「何にもなかった。でも、本当にラッキーで浮遊大陸観光への抽選に通ったんです。1万倍を五回目でですよ。ほんとにラッキーです。25年前僕を救った場所が、また僕を救ったんです。だからきっと何か、僕を生かす何か、見られるはずなんです!」


 それでも本気の目です。

 本当にここに掛けて来た人の熱がありました。

 けれど――


「今代の火龍は300歳近くになります。まず飛ぶことはありません。もう死を待つだけの身。猫のようなものと思ってください。今際の際を誰かに見られたい存在ではないのです。いえ、もしかしたらもう――」

「はは、そっか。そうですよね。そんな都合良くは行かない――か」


 本気の目は消沈。寂しげは通りこして、哀しみすら感じます。

 自嘲も自虐もない、ただ乾燥した笑顔が張り付いて――項垂れてしまいました。


「お力になれず、申し訳ございません」

「いえ、何を――僕の方こそ我がままで。そうだ。基本的な旅のプランを組んでくれませんか? あまりツアーの人たちと被らない場所――いやなんでもないです」


 元気がない――このままでは『安心安全でも楽しくない観光旅行』になってしまいます。

 果たしてどうしたらいいのか?

 先輩方なら、上手くやるのでしょうか?

 所長なら――

 そう所長なら『てきを納得させる《たおす》には何をしたいか《弱点》を探れ』とまた言うでしょう。


 けれど、山田様が何をしたいのか?

 行けない場所に行きたい?

 それではどうにも叶えられそうにありません。


「あの――」

「申し訳ありません。今、準備致します」

「あ、邪魔でしたね。これ」


 テーブルの上の大金を片付け始めました。項垂れながらも一枚一枚丁寧に几帳面さが現れた片付け方で。


 そういえば、何故こんな大金を持って来たのでしょう。

 抽選を潜り抜けた方に届く案内でお金がほとんど要らないことは分かるはず。


 ホテルは地上の方を泊められる用意のある場所のみ。

 辺鄙な場所に行って団体客で全部埋まって野宿したという苦情が出るくらいです。徹底して決められたホテル以外泊まれないのです。

 なので、決められたホテルは格安です。

 地上の方はただ当然の額で食事付きで泊まれるのです。


 お土産だってお金を使えません。

 地上から浮遊大陸に物を持ち込めないのですから、浮遊大陸から地上にも物を持ち帰れないのです。

 持って帰れるのは思い出と、土産話と、空港内部のお店のものだけ。

 それも地上の素材で作られた、お菓子やらペナントやらのみ。

 大抵の人はそんなものより、ビックブラックの半券のほうが価値があるでしょう。


 そもそもこの観光は浮遊大陸と地上中の国との文化交流が目的です。

 お金の無い方が来られないなんてことのないようになっているんです。

 仮に一銭もなくてもなんとかなるようになっています。


 これだけ詳しい方なら知っているはず。

 知っててお金を持って来た?

 それに希望された場所が行けないと分かっていたはず。

 お金で解決できないことも。


 じゃあ、こんな大金を使える場所なんて――あった。

 一つあります。


「そのお金は――使い切るぜんていで持って来られた?」

「え、あ、はい。難しいところに行くには高い冒険者を付ける必要があるって」


 そう冒険者だ。

 冒険者という名の案内役。


「高い冒険者を雇う場所に行きたいという?」

「そうですね。昔っからこう冒険ってのに憧れてまして。ほら、大航海時代とかって分からないですよね。そういう見知らぬ場所で未知の出会いっていうのに凄く。今の時代って、ほら、どこも見知った場所しかないんですよ。ネットで大体見ちゃえますから。宇宙だってほとんど計算で分かってる。どこにも冒険出来ない。ワクワクすることなんて全然ない。でもこの浮遊大陸ならあるかなって。誰も見たことのない景色を冒険できるんじゃないかって。すみません。住んでる方に失礼ですよね」

「いえ、かしこまりました」

「え?」


 ああ、やはりそうです。

 男子は冒険が好きなんていう基本を忘れておりました。


「誰も見たことがない――というご期待には沿えません。けれど、誰も行かない場所というのはご案内出来ます」

「そ、そんな場所があるんですか!」

「正確には観光でいらした方は行かない場所。住んでいる者にはポピュラーな場所になります」

「ど、どういう場所です? どの大陸ですか? 行けるとこですよね? えーとあの3つは無理だから残りは――エスパス、サマーデイ、ボナンザ――あ、赤熱?」

「ボナンザにあります」

「あ、一番大きいところ」

「はい、ボナンザの中央連峰、その北東の端、最高峰です」

「ああ! エベレストの2倍とかいう凄い山ですよね」

「厳密には15449mです」

「そこに登るんですか。確かに誰も行けなさそう。あ、現地の人にはポピュラーってことは登れる?」

「はい、その数値は海抜ですので。普通に2000半ばの山です」

「ああ、そっか。そうですよね」

「現地の者は――えーと年始に登る山でして。所謂富士山でご来光を拝むようなものと思って頂ければ」

「なるほど。でもそんな場所に誰も行ったことがないんですか?」

「はい、時間が掛かるんです」

「どれくらいですか? 登れるかなぁ。あんまり体力に自信はないんですよ」

「1週間丸々使います」

「いっしゅ――ああ、他のところは見られない。それじゃあ行く人が居ないのも納得ですねぇ」

「はい、それだけではなく危険でもあります」

「おお、危険!」


 『危険』という言葉にむしろ楽しそうに食いついてきました。


「はい、深い森を抜けますので原生生物――所謂魔物が多く出ます」

「ちょ、ちょっと待って! それじゃあ目の前で戦闘するかもってことですか?」

「そうなってしまいます」

「サマーデイの闘技場なんかじゃない。本物の戦闘が! 目の前で剣と魔法と魔物が交差するってことですか!」

「する可能性は高いです。年始には地元の有志総出で安全確保しますので、問題にはならないのですが。今の時期は――」

「うわっ! 絶対そこにします! お願いします」

「更に申し上げますと、別途保険に加入して頂く必要が――」

「入ります! いやーラッキーだな僕ぁ。冒険出来ちゃうなんて。ガチ戦闘とか一番難しいと思ってたのに」


 うっとりした表情です。

 先程までの落ち込みはどこへやら。


 本当に良かった。

 良かったついでに一つサービスを考えちゃいました。


「戦闘に耐える冒険者一行を――山田様自ら召喚されますか?」


 満面の笑み。少年のような笑顔で椅子から飛びあがってしまいました。



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