恐怖の雨宿り
「てるてる坊主 てる坊主
あした天気にしておくれ
それでも曇って泣いたなら
そなたの首をチョンと切るぞ」
昔、祖母が歌っていたのを耳にした記憶のある童謡が聞こえて来たのは、雨宿りに立ち止まったある路地の軒下だった。
急に降り出した豪雨に咲耶は古ぼけたアパートの軒先に走り込んだ。
その場しのぎに持っていたハンドタオルで濡れた髪の毛を拭う。
ザザーっという雨の音に混じって、ちょっとゾッとする歌詞にそぐわぬ透明感溢れる声が聴こえて来て、咲耶は顔を上げた。
咲耶が佇む軒下の真向かいに建つ、昭和を感じさせるアパートの2階の窓辺で女が黒い大きなてるてる坊主を吊るしている姿が見えた。
人形の如く整ったその顔に浮かべられた妖しげな微笑みにゾクっと鳥肌が立った。
「お兄さん、雨宿り?そんなに濡れて、寒くない?よかったら、上がっていらっしゃいな。熱いお茶でも淹れますよ?」
魅惑的なその声に、咲耶は何かに魅せられでもしたようにふらふらと女の言葉に従った。
咲耶が部屋のドアへと向かうのを見下ろして、その女は妖しく微笑み、今吊るしたばかりの黒いてるてる坊主を見上げた。
本来の晴天を乞う白いてるてる坊主とは真逆の意味を持つ黒いてるてる坊主。
私の術に誘われて....今日も獲物が飛び込んで来た...。
今日はこれで2人目....。
あの子はどんな表情を魅せてくれるのか。
恐怖、絶望、虚無....。
女は小さく舌なめずりをしてもうじき咲耶が入ってくるであろうドアを見つめた。
女の背後では黒いてるてる坊主からぽたりぽたりと滴る真っ赤な雫が地面を鮮やかに染めていた....。




