第8話 反撃の開始。
俺はここのところ急に背が伸びたので、今まで着ていた服が小さくなった。仕方なく、次兄の正装を借りてきた。今日エスコートするクラリスの瞳の色に合わせて、タイはグリーンだ。
クラリスにはこっそりと生家からドレスが届いた。
ゼリーさんが着替えさせて、化粧もしていた。念のために、と、カツラを送ってよこしたので、今日のクラリスは金髪だ。白地にブルーの刺繍の入ったドレスがなかなか似合う。かなり大きなサファイアのネックレスをつけた。イヤリングとお揃いだ。
樫の木の下で拾って来た時とは比べ物にならないほど、ふっくらした。それでも、少しやせてる女の子、ぐらい。もう少し太ってもいい。四肢には適度に筋肉も付いたしな。俺もなかなかいい仕事をしたな。
シリルはすっかり健康な貴族令嬢に見えるクラリスの手を取った。
叔父貴は渋々無精ひげをそって、ブラウスに袖を通している。
見慣れた一張羅の正装をするつもりらしい。
ゼリーさんは俺の屋敷の侍女服を借りてきたのを着ている。
叔父貴がドレスを贈ろうとしたら、やんわりと断られていた。
叔父貴が王都に持っている小さな屋敷は、最低限の使用人が留守を守っている。主はなかなか来ないが、綺麗に手入れされている。
「さあ、行くか?」
俺の父上の弟の叔父貴は公爵家の三男坊だが、先の戦争に医師として従軍して、子爵位を貰っている。あまり詳しく教えてもらえなかったが、ゼリーさんとはその医療従事隊で一緒だった、のかな?
一応、馬車もある。
俺たちは馬車に乗り込んで、王城での春の舞踏会に向かっている。
俺はまだ社交界デビューの年に少し足りないが、婚約者(仮)のクラリスが驚くことに16歳だと言うので…
「え?お前、俺より年上?」
「うん。16歳になったのよ」
「俺の…二つも…上?」
叔父貴がクラリスが12歳ぐらいだと言っていたので、油断した。まさか、クラリスが俺より年上だなんて…考えてもみなかった。身長だって似たようなものだし。
まあ、そんなこんなで、舞踏会に乗り込む。
馬車にちょこんと座ったクラリスが心細げに窓の外を見ているので、そっと手を握る。
「大丈夫だよ。」
「そうよ。一人にはしないからね」
ゼリーさんが向かい側の席から、俺たちが握った手を握ってくれた。
「じゃあ、まず…クラリスにセザールって男を誘い出してもらおうかな?金持ちの令嬢が大好きみたいだから、そのサファイアに寄って来るだろう。大丈夫かい?」
「……」
胸元に大きいけれど品の良いサファイアのネックレスをつけた金髪のクラリスがこくんっ、と頷いた。
「それから…自分の聞きたかったことを、自分で聞いてごらん?」




