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第2話 黒髪のマリア。

(ここは…天国?)

クラリスは目を開けてぼんやりと見たことのない天井を見つめた。


「あら、目が覚めた?あなた、3日も眠っていたのよ?お水を飲みましょうね」

そう言って優しく笑った女性が、私の頭を支えながら、ほんのり甘い水を少しずつ口に含ませてくれる。


(マリア様?)


黒髪を縛って、にこやかに笑う女性は、そっと私の頭を枕に戻すと、手を握ってくれた。

「もう、大丈夫よ。大変だったわね?」


マリア様がそう言って下さるなら、大丈夫なのか…私はそのまま眠ってしまったようだ。



*****


「先生?あの女の子なんですけど…どこかの奉公先から逃げ出して来た子かと思ったんですけど…」

ゼリーさんが僕にお茶を入れてくれながら、言いにくそうに切り出した。

おおよその…あの子の見た感じの感想は僕と同じようだ。


「体を拭くのに、服を脱がせましたでしょう?ワンピースはかなり粗末なものでしたが…その…下着はシルクでした。」

「え?」


そっとカップ差し出して、ゼリーさんもテーブルの反対側に座った。

「私も驚きました。よく観察しましたら、手も荒れてはいますが、あかぎれとかもありませんし、先生のおっしゃる通り、栄養失調なのだと思います。体に外傷もありませんでした。」

「……」

「身元の分かるものがないかと、荷物も検めさせてもらいました。シルクのハンカチが一枚と、お財布…金貨が3枚入っていました。それと…」

ゼリーさんが、持ってきたあの子のカバンから、缶を一つ取り出す。

よくある紅茶の缶のようだ。

「これを」

片手に収まるくらいの、紅茶の缶。ゼリーさんが差し出してきたので、受け取って蓋を開けてみる。ふわっと紅茶の匂いが立って…その後に…

「…ハーブティーですかね?なにか…ブレンドしてある?」

なんというか…あまり嗅いだことのない、薬剤のようなにおいがほのかにする。

「先生は、どう思われますか?」

「ん…紅茶の香りでよくはわかりませんが、華国の漢方薬?ですかね?独特なにおいですね。僕の方で調べてみますね。他には何か?」

缶のふたを閉めて、テーブルの端に置く。

「私を見て、マリア様、とつぶやきました。」

「ああ……」

黒髪のマリア。僕もそう思う。ゼリーさんには言わないけど。


「あの体調で山に倒れていたことを考えると…山まで連れてこられて捨てられたか、死に場所を探していたか?そんなところかな?」

「ええ、私も先生と同じ考えです。なるべく私が一緒にいますが、いないときはシリル君に頼んでも?」

「ああ。もちろんだ。」


僕の甥っ子のシリルはこの山小屋、と言うには少し大きなこの山荘に来てからと言うもの、いろいろなものを拾ってくる。ケガをした仔犬や、猫。巣から落ちた梟のひな…。基本、治療は僕がするが、面倒は拾った本人にやらせている。


僕としては…あれでいてなかなか聡明なシリルを養子にして医者にしたいと思っているが、あいつはまだその気にならないらしい。

その割にここでの生活が気に入って、夏のたびに来ていたが、ここ一年は実家に帰らないで住み着いている。継ぐべき財産も地位もない三男坊、と言う立場は僕と一緒だ。13,14歳の…まあ、自分でも自分の扱いにめんどくさい年齢だから好きにさせている。

シリルはようやく、薬草がまともに摘めるようになってきた。それも、ゼリーさんが根気よく教えてくれたおかげだけど。


ゼリーさんの茶器の扱いは綺麗だ。飲んでいたカップをそっと置いて、彼女が心配そうに言う。

「それと…あの子が万が一どこかのご令嬢だった場合…少し面倒かと。」

「…そうだな。身元が分かり次第、僕が手を打つよ。あのまま返せる状況でもなさそうだし。」

「そうですね…では、今日から私も泊まりますね。あの子の隣の客室をお借りしますね。あとは…着替えが必要ですね。」


「うん。よろしく頼むよ。」








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