表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

イラストは翔由美凛さんからいただきました❤

山のエリアは住宅エリアとはまた違う、自然が豊かな場所だ。自然公園のような感じで人が行き来する道は舗装されていて、山の大工たちがいる山小屋や工芸屋には楽に行くことができた。

今日は祝日なので山小屋も工芸屋も閉まっている。


大工たちは新年会に行くがいつもアメジと棟梁のコクヨウには会えない仕様だ。山の奥の方に行くと蕨みたいな山菜と蓬のような山菜があり、リュックに詰めれるだけ詰めた。

山の春の花、ハルジオン、タンポポが咲いているのを確認して覚えておく。町へ続く道はスミレが咲いていて、これは工芸屋のアメジの好きな花だ。アメジと仲良くなりたいならこの花をプレゼントするのがいい。


「まずは花屋のサンゴとエドの友好度を上げたいけど、二人は物質的なプレゼントはあんまり効果がないのよね」


友好度の上げ方もさまざまでプレゼントが効果的なキャラクターもいれば毎日の挨拶を欠かさないことが鍵となるキャラクターもいたり、キャラクターの性格に合った友好度の上げ方をしていく必要がある。

例えばエドは毎日図書館で本を読むとかなり友好度があがるのだ。


「花屋と図書館は明日から毎日通わないとな」


あれこれ計画を立てるのは、ゲームに夢中になっていたあの頃みたいにワクワクが止まらない。

あっという間に新年会の広場に着くと街の住民たちが集っていた。

桜の木の下で宴会をしてるのはベイエリアで働くNPCたちだ。


「おう、あんたか新入りは!」

「いい町だよここは」

「飲んでるかい? かんぱーい」


オリビンの会社のメンバーの集まりは筋肉隆々のおじさんたちだ。

「屋台はベイエリアの酒場の料理だよ」

「今年もよろしくね」

「寒い時は鍋! 鍋を食いな!」


屋台の方に行くと宿屋で働くマダムと、おばあちゃんが挨拶をしてくれる。


「冷えてないかい? 温かいスープがあるよ」


それから端の方で飲んでいる大工たちにも声をかけるが酔って盛り上がっているので、こちらを認識し

ている様子はない。


「飲んでるかい!?」

「やっぱり年明けは賑やかなのがいい!」


ガハハと豪快に笑うのは大工らしい。そしてなぜかここにはコクヨウがいない。毎年新年は推しのコクヨウに会えなくて寂しく思っていたなと思い出した。


「懐かしいなぁ」


みんなこういう行事をしっかりと盛り上げててくれる、大切なキャラクターだ。


「でもこれ次の年も同じセリフなんだよね」 


当時のゲームの仕様上仕方ないことだとわかっているけれど、と小さい声でつぶやきつつ広場の中央までやってきた。

女の子のキャラクターは中央に設置されたベンチで楽しく談笑している。ずっと見つめていたい気持ちだけれど、勇気を出さなければならない。

コントローラーをもってボタンを押すと言う動作は気楽だ。声をかけるというのは、現実と同じで緊張した。


「みなさん、はじめまして」


すこし上ずってしまったけれど、声をかけると、三人の可愛い女の子たちの視線がこちらに一斉に注いだ。

 あら、と最初に反応したのは、正面にいた女の子だ。


「ようこそ、ジェムタウンへ。あなたがチゼルさんね」


そう言ったのは町一番の愛嬌をもつケーキ屋のガーナだ。おっちょこちょいだけど、コミュニケーション能力が高い看板娘だ。


「私はガーナ。ケーキ屋で働いているのよ。コーヒーを淹れるのが得意なの。ぜひいらしてね」


ぱちりとされたウインクにときめいてしまう。こうみえて実は独身若者の最年長。オリビンより年上らしいが、年齢非公開の可愛らしい女の子だ。当時は意識していなかったけれど、バリスタと言う設定だったのかという新しい発見がある。


「私はパルといいマス。故郷はここではありませんので、話し方が変かもしれませン。ベイエリアの繊維工場で働いていマス。よろしくお願いしマス。」


ガーナの右にいたカタコトの話し方はパルだ。異国風の金色の髪の色を隠すようにハンカチを巻いている。すらっとした細身のスタイルで、手芸が得意だ。織り機を使って、ジェム名物の織物を作っている。


「……ケイトウ牧場のトムだ。動物のことは弟のカーネルに聞くといい」


ガーナの左側は無口なトムは牧場の長女。寡黙に動物と向き合い、後継ぎとして日々研鑽を重ねている努力家だ。そして最初に攻略しようとしているサンゴとはカップルになる女の子だ。サンゴとトムの両思いになるまでのストーリーもかなり熱いけれど、今思いをはせるのは置いておいて、今日は挨拶で我慢だ。


「チゼルです。今後ともよろしくお願いいたします」


女の子たちとひと通り乾杯をして、今度は男の子たちのところへ行く。ここにいるアルバムの対象イベントがあるキャラクターは花屋のサンゴ、ケイトウ牧場のカーネル、ケーキ屋のラズと繊維工場の息子のジルコだ。


「君かい? ファームの新しい住人は」


そう声をかけてきたのはジルコ。パルの雇い主の息子で、都会でファッションデザイナーになるという夢を持つ若者だ。


「こんな田舎に住みたいなんて変なやつ」


ふん、鼻で笑われてしまう。初見の時は嫌なやつだと思ったが、都会に憧れている彼だからこその反応であるとわかると逆に愛おしい。

座談会で誰かが言っていたがこの若者、選択肢によっては夢を諦めたり、夢を追いかけて挫折したりしてしまう手のかかるキャラクターである。なので友好度を上げるうえで、一番気を使う男なのだが、手がかかるから愛おしくなるのかファンも多い。


「ガーナとさっき話してたのは君だね。僕はパティシエのラズ。疲れた時は甘いもの、ケーキ食べにきてね」


柔らかい物言いのラズは亡くなった家族から引き継いだケーキ屋を切り盛りする男の子だ。しっかり者だが寂しがり屋で涙もろい一面もあり、母性本能がくすぐられる。


「君のファーム、お花でいっぱいにするのはどうかな」


ラズの隣にいるのはサンゴだ。


「僕は花屋のサンゴ。野菜の種もお花の種もたくさん置いているから見にきてね」


春風にふわふわとなびく桃色の髪の毛が桜の花によく似合う。天然パーマでカールした髪の毛を耳にかけて、サンゴは目を細めてふわりと笑った。


「あなたがチゼルさんですね! 僕はケイトウ牧場のカーネルです。姉は無口で無愛想なので、何かあれば僕に聞いてください」


カーネルは、ケイトウ牧場の姉弟の弟だ。頼りない印象だが、人懐っこく明るい。ジェムタウンでは第一子が家業を継ぐという風習があり、弟のカーネルは将来について悩んでいたりする。仲良くなるにつれてカーネルの思いが変わっていくのも、かなり印象深かった。


「これからよろしくお願いします」


深々とお辞儀をして、改めて皆の顔を見るとみんな優しい眼差しで見つめてくれている。

体験型になって思ったのだけど、ノーマル、笑う、怒る、悲しむ、幸せの五パターンの立ち絵でしかゲームで見たことなかったのに、会話の仕草や表情の機微がリアルタイムで見られるのが新鮮でいちいち見惚れてしまう。


「じゃあ私はこれで」


全てのキャラクターに挨拶をし終えたので、食べれるもの飲めるものを飲んで、大満足で家に帰った。全員と言葉を交わすと友好度と幸福度が上がる。初日にしては上々の出来だろう。

そういえば移住者の住む場所はファームと呼ばれているのだった。


このファームにはそのうち住民も増える。シェアハウスならぬシェアファームになるのだ。

春の終わりにやってくる旅人のミツキもそうだ。男主人公を選べば恋愛対象になる。そしてケイトウ牧場の弟、カーネルとはカップルになるペアだ。自分の居場所を作るのが怖いミツキと、自分の居場所を求めているカーネルの恋愛模様はもどかしいけど応援のしがいがあった。


「そうだ出荷箱にいれないと」


 リュックをみて思い出した。忘れないうちに山で採った山菜は出荷箱に入れて、ベッドに横になった。

この世界の通貨の単位は(ゼニ)で、覚えている売値通りなら、ファームの雑草と、山菜で500Zくらいは明日入金されるだろう。最初の所持金が1000Zで、花の種は一つ300Zなので十分に買えるはずだ。

いろいろスケジュールしたいところだけど、刺激がたっぷりだったので疲れてしまった。


ベットはやや硬いが目を瞑ってみる。体験はいつまで続くのだろう。まだ楽しんでいていいのかな、明日はどうなるんだろう。

すこしの不安と期待が混ざる。けれど何かあればアナウンスがあるはずだ。

そのまま目を閉じていると、意識が鈍くなって、眠る時の感覚に近くなってきた。

現実世界では眠る時に自分のほっぺを触らないと眠れないのだけど、ゲームの眠りは擬似的なものなのか、そのまま眠れそうだった。

意識がどんどん深い水の底に沈んでいくような感覚に、身を委ねてみる。

水滴が水面に落ちて、その波紋が広がる。その波が広がって消えていくように私の意識は広がって薄まって、やがてなくなった。

けれど、遠くで研磨が私を呼ぶ声が聞こえた気がした。

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)


読んだら( *´艸`)とコメントしていただけたら励みになります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ