【番外編】その年の新年の話。
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。美凛さんのイラストに合わせて書かせていただきました!
「付き合わせてごめんね」
「あやまることじゃないよ! 着物着れてラッキーだし」
成人式ぶりに出した着物の小物が喜んでいる。赤い鼻緒の草履に同じデザインの鞄、それから白の花の髪飾りは冷たい風で揺れた。
ゆるいマフラーを撒きなおして、近所の神社に来た今日は一月二日だ。
「昨日、通りかかったらすごい列だったんだよ。三百人くらい並んでた。さすがに参拝は諦めちゃったけど今日来れてよかった」
私がそう言うと研磨はほっとしたような顔をした。
毎年お正月は家でゆっくり正月の特番を見るだけだけれど、今年は違う。
品よく歩くために小さな歩幅で道を歩く。車の通りも少なくて、不思議な心地だ。ちゅんちゅんと鳥の鳴き声がするけれど、姿は見えないのは、風が冷たすぎて木々の間で身を隠しているのかもしれない。
スーパーも薬局も正月飾りがついていて、三日から営業しますと言う張り紙が貼ってあった。がらんとした町だけれど、神社へ行く道だけは活気がある。
屋台が出ていて、鈴カステラの甘い匂いを嗅ぎながら、年末のことを思い出した。
「おばあさんの家の倉庫を片付けてたら、着物がたくさん出てきたんだ。それで、おばあさんに相談したら処分する前に着てほしいって言われたんだけど」
と困り果てた様子の研磨が連絡をくれたのは年末だった。
「近くの美容院に着つけ師さんがいてよかったね。おばあさんの知り合いだったみたいで、なんかタダで気着けてもらったし」
研磨のおばあさんから紹介された着付け師のおばあちゃんは、とても手際よく着つけてくれた。
年始のほうが予約がないからと、初詣に合わせることになったのは、来週の成人式も写真館で着付けをする現役の着付け師さんだからだ。
「途中、涙ぐまれて、どうしたらいいかわかんなかったよ」
「おじいさまとおばあさまが着てた頃を知ってるんじゃない?」
研磨のおばあさまの若い頃ももう亡くなったおじいさまのことも知らない。
でも着物を見れば、とても裕福な家庭だったんだなとなんとなく察することができた。
鮮やかな紅い着物に負けないように、アイシャドウとリップを足す。
成人式にレンタルした着物よりはデザインは落ち着いているけれど、生地の質は上品で、着ていて自然と背筋が伸びた。
「俺、こんな着物着るの初めてだよ」
「成人式の男の子って、やんちゃな子じゃなければスーツだもんね」
グレーの着物と羽織。落ち着いている研磨の雰囲気にとてもあっている。
「研磨似合ってるよ。着物趣味にしたら、おばあさま喜ぶんじゃない?」
「絶対向いてない」
同じく初詣に行くのだろうおばさまたちが私たちを見て、まあ、とか素敵とか声を漏らすのが居心地が悪いのか研磨はマフラーに顔を埋めた。
「まあまあ、とりあえず参拝して、おみくじ引こう!」
寒さと照れなのかテンションが下がっていく研磨の腕を引いて、手水舎へ。手を清めて、境内に入った。
お賽銭を投げて、鈴緒を引く。からんからんと鈴が鳴った。
二礼二拍手一礼。ご丁寧に案内板に掛かれた作法を確認しながら、手を合わせて願う。
――今年もいい年になりますように。
具体的な願いはあるはずなのに、いつも作法に気をとられてありきたりなことを思ってしまう。
例えば宝くじが当たりますように、とか、運命の人に会えますようにとか、願った方がいいのかもしれないけれど。
心の中で願いを言い終わって顔を上げると、すでに研磨は参拝を終えて端の方に避けていた。
「ごめん、お待たせ。早かったけど、お願いちゃんとした?」
「就活以来、来てなかった気がして、その件ではありがとうございましたって手を合わせただけだったから」
「研磨の就活かなりうまくいってたもんね。ご利益あるんだ」
「いや、かんなの就活」
「えー! 来てくれてたの?」
「お互い無事に社会人になれてよかったよね」
「研磨は余裕だったじゃんか」
口を尖らせそうになったけれど、神様の前だということを思い出して言葉をのみこんだ。
何枚書いたかわからないエントリーシート、面接のプレッシャー、下がる自己肯定感。溜まるお祈りメール。早めに内定をもらっていた研磨に当たったり愚痴ったりして最低な態度しかとらなかった気がする。
(私のためにお参りに来てくれてたんだ)
目に見えないものは信じない、超リアリストの幼馴染。そんな研磨に神頼みさせてしまって、なんだか申し訳なくなってしまう。
『ごめんね』『ありがとう』
どちらを言うべきか迷って喉で言葉が引っかかった。
いっそ両方いえばいいのかと思った時には、研磨が先に口を開いていた。
「おみくじどうする? 今人少ないよ」
研磨が指を差した先には社務所があってそこでおみくじが引けるようだった。
「引こう!」
一回百円の初穂料を納めて、御籤筒を振った。筒の中でたくさんの木の棒が鳴り、小さな穴から番号の書かれた棒が出てきた。
「俺は、四十一番だ」
「私五番!」
巫女さんからおみくじを引き替えて、せーので開いた。
「わ、小吉だ。研磨は?」
「大吉、大切なものが見つかる。困難に打ち勝つ。待ち人来るだって」
「すごい良い年になりそうだね。私は……」
おみくじに目を落とすとそこには『事故に注意、誠実に精進すればよし。待ち人は近くにいる』と書いてあった。
「なんだか不穏なことが書いてあるんだけど」
「おみくじ結んだらきっと大丈夫だよ」
「そうする」
御籤かけに二人でおみくじを結んだ。
(事故は怖いけれど、恋愛運は悪くなさそうだ)
近くにいると言うことは、会社の同期やこれから出会う人だったりするかもしれない。
(研磨も恋愛運良さそうだし、いつかダブルデートとかしたりするのかな)
想像しようとしてうまくできなくて苦笑した。
「何?」
「ううん、なんでもない」
研磨は恋愛系の話は苦手だから心の中で密かに期待するだけにとどめた。
「これでよし」
おみくじの結び目をハートマークみたいにして境内の澄んだ空気のなかで深呼吸する。晴れ着で初詣でなんて特別な一日。
新年の期待を胸に秘めて神社を後にする。
「そうだ、言い忘れてた」
「なに?」
「今年もよろしくね、研磨」
「こちらこそ、どうぞよろしく」
【番外編】その年の新年の話。(了)
1/25の関西コミティア出る予定です。詳しくはXにて。




