【番外編】ハッピーハロウィン!
2話後くらいのお話です。
研磨と飲みに行った数日後の話。
町のあらゆるところやインターネットのサイトでオレンジと紫、黒の装飾が多くなってきたころ、研磨からメッセージアプリに相談があるんだけどと連絡が来た。
「子ども会の手伝いをすることになって」
「子ども会の手伝い?」
「そう。この前実家に帰った時に、回覧板持ってきた自治会長さんとばったり会って。子どもが仮装して回る家に協力してもらえないかって」
「研磨のうち、庭があって確かにちょうどいいよね。で、引き受けたの?」
「昔お世話になったし、定時で仕事帰ればぎりぎり間に合うなと思って」
「そうなんだ」
「ハロウィンぽい飾り付けとか、お菓子を入れるバスケットとかどれがいいと思う?」
研磨はネット通販の画面をスクリーンショットしたものを送ってくる。
定番のジャック・オー・ランタンやおばけのモチーフ。蝙蝠やクモの巣など様々なモチーフがある。
私は自分のスマートフォンに入っているアプリで『ハロウィン 装飾』で検索して、子どもが喜びそうで研磨の家にあいそうなものURLをピックアップして送った。
「お家の門にはガーランドがよさそう。仕事後ってことは夕方から夜でしょ。光るやつが見栄えが良いと思う。百円ショップでも見たことあるし、通販で間に合わなそうならお店探すよ」
「いや、今注文すれば明後日には届くみたいだから大丈夫」
ありがとうという絵文字と注文完了という画像がまた送られてきた。
「研磨、仮装するんでしょ?」
「俺はしないよ仮装は子どもたちがするものでしょ?」
「トリックオアトリート! って子どもらが言いに来るのに、スーツのサラリーマンが対応するのシュールすぎるから、なんか雰囲気に合った格好はした方がいいんじゃない?」
真顔の研磨におびえる小学生の姿が想像でき、思わず吹き出してしまった。
「例えば?」
「吸血鬼とかどう? 研磨に似合いそう。ガチのやつでゾンビとかは怖がらせちゃうから。せめて、ハロウィン柄のネクタイとかマスクつけるだけでも」
「考える」
「着たら写真送ってね」
「絶対ヤダ」
そんなやり取りをしたのは一週間前だ。
今日は仕事場でもハロウィンの話題で持ちきりだ。休憩室にも気が利く同僚がハロウィン柄のお菓子を置いておいてくれていた。
「ハロウィンだから、彼氏とお揃い仮装してイベント行くんですよぉ」
ときゃぴきゃぴした後輩が言った時は住む世界が違いすぎると驚いてしまった。
(研磨、結局どうしたんだろう)
今日はなんだかみんな仕事早帰りモード。
カレンダーを見ると明日から三連休。ぼんやりして危うく月曜日出勤するところだった。気が付けてよかったとほっとしながら、十七時ぴったりに帰る同僚に続いて私も足早に続いた。
*
「トリックオアトリート!」
「うわ」
「様子見に来たよ。なんか手伝えることある?」
流れで定時に帰れたので、思い付きで研磨の家に行くことにした。久しぶりの研磨の家だ。研磨は大学時代から一人暮らしをしているので年に数回しかこの家にいない。
いまだお手伝いさんが来ているのか、庭はとてもきれいに整えられていて、庭の端に植えられた金木犀が甘い香りを放っている。
「無言でドア閉めないで」
「かんな、それ魔女?」
「そうそう! 黒のワンピースに駅前の雑貨屋さんで投げ売りされてた魔女の帽子買ってきただけだけど」
近所とはいえ、インターホンを鳴らしてから魔女の帽子は被ったのだけれど。研磨がじっと私の格好を見て、はぁとため息をついた。
「来るなら言ってよ」
「さっき思いついたんだって」
お世辞でもかわいい、とか似合ってるとか言わないのはわかっている。なのであえて「どう?」とも聞かない。
ちゃんと手伝いに来たと示すために、私は研磨を宥めた。
「準備できてる? 門に飾り付けなかったけど、今から? お菓子は?」
「ガーランドは今電池入れてて、お菓子は昨日受け取ったのが段ボールに入ってる」
「じゃあ、研磨がガーランドの飾りつけして、私がバスケットにお菓子を入れておくね」
私が玄関の前に置かれた段ボールに手をかけると、研磨が「わ、」と声を出した。
「研磨、マントあるじゃん!」
段ボールに入っていたのは、クリーニング店のビニールに入っていた黒い大人用のマント。
「さっき、自治会長さんが押し付けて行って」
「ほらほら、さっと着よ! ネクタイ外して」
ネクタイを手にかけたけど、解き方は知らない。代わりにビニールからマントを出して、無言で抵抗する研磨にマントをかぶせて、前についていたリボンを結んであげた。
「う~ん。これでよし! リボン結びって難しいのよね」
「……ありがと」
むすっとしてネクタイを外した研磨を見て、何かが違うと首をひねる。研磨は仕事帰りのスーツで、ジャケットを脱いでいるからマントに合うはずだけれど。
「あ、ボタンしめてるからイメージが違うんだ。第一ボタン開けるよ?」
「……! いい、自分でやるから」
「そう?」
伸ばした手は空を切った。観念した研磨はしぶしぶとボタンを開ける。色の白い首と仕事後のけだるげな雰囲気が相まって、なんだかいつもより色気がある。
「環菜、どう?」
「良いと思います」
「なんで敬語?」
幼馴染に色気を感じてしまった罪悪感。私は目をそらして、準備に取り掛かってごまかした。
☆
「トリックオアトリート!」
「お菓子をどうぞ」
「おにーさん、おねーさん、ありがとう!」
「いえいえ」
子どもたちはその後すぐやってきた。装飾も準備も間に合って、ほっとする。
今どきの子どもたちは礼儀正しくて、研磨も思ったよりきちんと子どもたちの対応ができていた。
研磨一人でもどうにかやれたのかもしれない。お節介だったかもと思って片づけをしていると、後ろからこんばんは、と声がした。
「子どもたちは、全員来たみたいだね。研磨くん本当にありがとう」
「お役に立てたならよかったです」
声の主は自治会長さんだった。
「みんな喜んでいたよ。あれ、彼女さんも手伝いに来てくれたの?」
「会長さん、私、隣の岩田。 岩田環菜ですよ」
「え、かんなちゃん! わからなかったわ。ちょっと見ないうちにきれいなお嬢さんになって~」
「も~! お上手なんだから」
暗くて顔が見えなかったのか、研磨の恋人に間違われてしまった。二人でご飯に行くとありがちだけれど、なんだか知り合いに間違われるとより気まずい。
研磨は真顔で、あまり気にしていないみたいだけれど。
そんなこちらの心情とは裏腹に、自治会長さんは町のケーキ屋の箱を研磨に渡した。
「環菜ちゃんいると思わなくて一つしかないんだけど。これ、二人で食べて」
ハッピーハロウィンと印字されているので、もしかしたらハロウィン限定のケーキかもしれない。お礼を言って二人で自治会長さんを見送った。
「かんな持って帰れる? 俺一人じゃ食べきれないから」
「今日は実家に泊まらないの? ご飯決まってなかったらうち来て食べよ。 ママが、研磨連れてこれたら来てって言って、張り切ってポテトサラダつくろうとしてたよ」
「ほんと?」
今日一番、研磨の表情が明るくなる。
「この前の伝言、ママ喜んでたよ」
「気を遣わせちゃったかな」
「そんなことないってわかってるでしょ。ママに連絡しておくね」
携帯を取り出して、母親に連絡する。すると待ち構えていたかのようにすぐに「了解」とご機嫌な絵文字とともに返事が返ってきた。
その画面を見せると、研磨は安心したようだ。
「パパさん、最近何飲んでる? この前はかんなママだけにしか手土産買ってないからかんなパパの分買っていきたいな」
「最近は糖質気にしてハイボールかな? でも私が買って帰るからいいよ」
「俺が気にするタイプだって知ってるでしょ」
研磨はさっき私が言ったような口調を真似た。微妙に似ているところが腹立たしい。
「もう、マネしないでよ」
と研磨を小突くと、研磨が私の手を掴んだ。それからじっとこちらを見つめて、そういえば言うの忘れてたけど、と口を開いた。
「その仮装、似合ってる」
「それって褒めてるよね?」
どうかな、なんて言いながら幼馴染は手を離した。
秋の冷たい空気が手首の熱をすぐに冷ます。私はなんだか、おばけにいたずらをされたような、そんな釈然としない気分。
落ち着かない気持ちを整えるために深呼吸すると、金木犀の甘い匂いが胸を満たした。
番外編「ハッピーハロウィン!」了
研磨×環菜も書きたくなったので欲望のままに書きました。




