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花祭り

挿絵は翔由美凛さんに描いて頂きました✨

大雨の日からあっという間に一週間が経った。

花の種は芽を出し、すくすく育ち、白っぽい小さな蕾がついている。

スズランやリンドウみたいな鐘みたいな花だ。そよそよと蕾が揺れて可愛らしい。


「ここまでくればもう大丈夫だよね」


このまま天気が崩れなければ、サンゴとのイベントを迎えることができるだろう。そして今日は春の月二十九日、楽しみにしていた花祭りの日である。広場にはたくさんの人で溢れている。


「こんにちは」

「お買い物にきてくれたの?」

「ラズのスイーツが気になって」


ケーキ屋は出店を出していて、いちごのスイーツが有名だ。


「花祭りと言えば苺! それからナッツをふんだんに使った焼き菓子もあるよ」


真ん中にジャムがのった、ステンドグラスみたいなクッキーをいくつか購入した。もし会えたら渡そうとリュックに入れた。


「ガーナはもうパレードの準備に行ったよ」

「パレード?」

「女の子たちは花祭りに、お花の髪飾りを用意して町から山の龍の泉までパレードをするんだ。その間にあった人にはお花を配って回るんだよ。君も参加するなら、サンゴのところで受け付けているよ」

「教えてくれてありがとう。行ってみるね」


行ってらっしゃいと手を振ってくれたラズに手を振り返して、広場のサンゴを探すことにする。

途中広場を駆け回っているエドに遭遇して、何とか差し入れを渡すことはできた。サンゴも同じくらい忙しいのだろうと思っていると、人ごみの中心にサンゴの姿を見つけた。


「サンゴ、お疲れ様。差し入れだよ」

「ありがとう。君も時間があるならパレードに参加してみる?」

「うん、ぜひ!」


前のゲームは花祭りは広場に行って数秒、お祭り中の町の様子が流れるだけで、ここまで細かな描写はなかった気がする。また新たに、このゲームの世界観を深く知ることができた。感動を噛みしめていると後ろから声が聞こえた。


「ジルコおにいちゃん、あのねお姫様みたいにしてほしいの」

「はぁ、お姫さまって言ってもいろんな髪型があるだろう? まとめるのか、おろすのか、髪をふわふわさせるのかとか」

「えーっとね、編むの」

「編みおろしね。じっとしてろよ」


広場の一角ではパレードに参加する女の子たちが集まっていて、その近くのベンチでジルコが小さな女の子の髪を結ってあげている。

その光景が意外で、ぎょっとしていると、サンゴが言った。


「髪飾りをつける手伝いはいつもジルコにお願いしているんだ。女の子は支度で忙しいからね。持つべきものは手先が器用な男友達!」

「そうなんだね」


ジルコって、小さい女の子と話せるんだ。そういうイメージがなかったので、驚いてしまった。


「聞こえてるぞ。ったく。ほら、あんたも参加するのか?」


女の子をサンゴに引き渡しながら、ジルコは私に聞いた。


「おねがいします」

「イメージはある?」

「おまかせで」

「座って。髪の毛短いからな。サイドを編んでそこに飾りをつけるぞ」


淡々としたやり取りの流れに身を任せて、ジルコの前のベンチに座った。

まだベイエリアまでは行けていないので、ジルコとは初対面以来だ。

ジルコは慣れた手つきで、私の髪の毛を櫛でといた。


「昔はこの地域で作っていた貴重な生地の衣装を町娘たちが着て、それを見によその地域からも人が集まる盛大な祭りだったらしいけど。この町も、廃れ始めてるからな。内輪だけの祭りなんて寂しいもんだ」



挿絵(By みてみん)

ジルコは独り言のように呟いて、花の飾りを耳の上で固定した。


「ほら、完成だ」

「ありがとう」

「ま、俺の腕がいいからな」


鏡がないので、自分では姿を見ることはできないけれど、得意げなジルコを見ると悪くはされてなさそうだった。

そしてジルコはまた次の女の子のヘアセットに移った。私は邪魔にならないように、サンゴの元へ行き、花や種の入ったバスケットを受け取った。


「うん、とっても似合っているよ」

「ありがとう」


社交辞令とはわかっているけれど、サンゴに褒められるとむずがゆい。照れているのを悟られないように俯いた。


「みなさーん、パレード出発するので集ってください!」


サンゴがみんなに呼びかけると、支度ができた人たちが集まってきた。


「チゼル!いたのね」

「ガーナ!」


声をかけられて見ると奥にはオリビンもトムもいた。


「いいじゃん、似合っているよ」

「ありがとうオリビン、みんなも素敵よ」


トムはガーナに無理やり引っ張ってこられたのかムスッとしていたけれど、ほかの参加者たちはお互いに見合って微笑んだ。


「じゃあ、みなさん出発してくださ~い!」


サンゴの号令で、パレードの列が動き出した。まずはエドの家。エドの父親、町長が家の前で待っていた。


「町長さん、お花をどうぞ」


少女たちから渡された花を受け取った町長は、手を振った。


「みんなありがとう。おや、君がチゼル君だね。挨拶ができなくてすまないね。ようこそ、わが町へ。これからよろしく」

「こちらこそよろしくお願いします」


エドに似て、真面目そうなおじいさん。足が悪いようで、車いすに腰かけてパレードを見送っている。

そのまま、町の人々に手を振ったり、花を渡したりしながら町を歩いていると繊維工場で働くパルがいた。


「みなさん素敵デス」

「パルも来年は参加しな~」

「考えておきマス」


オリビンに絡まれても、パルは動じず、子どもたちから花を受け取った。

そのとなりにジルコもいたので、私はジルコに花を渡すことにする。

「さっきはありがとう」

「お、あんまりはしゃぐなよ」


ジルコとは同い年の設定だったはずだ。なんだか子ども扱いされてしまった。

「はー腹減った。パル、飯食いに行こうぜ」

「では皆さん頑張ってくだサイ」


屋台に向かったジルコとパルを見送りつつ、トムの弟のカーネルを探したけれど姿はない。


「カーネルは来ないの?」


ちょうどガーナがそうトムに言うと、トムはため息を吐いた。


「仕事中の私を引っ張ってきたでしょう。カーネルが代わりに仕事してくれているよ」

「あら、悪いことをしちゃったわね」

「あとで差し入れを持って行ってやろう」


三人のそんな会話を聞きながら、町中から山へ向かう。バスケットいっぱいに入っていた花はずいぶん減っていた。


「いよいよ最後だね」


泉に入り、最後にみんなで泉に花を置いて祈った。

私には感じることができないが、きっと花の匂いが充満していることだろう。


「また来年も、それからずっと花を咲かせ続けられますように」


子どもたちのかわいらしい声の願いに一緒に目をつむって、祈った。

花でいっぱいのこの町の未来を想像しながら。


2025/11/24 コミティアにてスペースを頂きました。この話の再録本を出す予定です。詳しくはx(@minakasa_rain)にて。

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