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魔術学院のセレスティア  作者: タピオカです。
一学年、一学期
7/13

遭遇戦!スノーグリズリー

「グオオオオオオッ!!」


 グリズリーが両腕を高く上げて咆哮する。目前の獲物を取り逃がし、憤慨しているのだろう。

 セレーネはその咆哮と同時に、グリズリーの元へ接近した。


 飛行魔法の羽ばたきを踏み込みに乗せ、一気に加速するセレーネ。それに対して、グリズリーの太腕が垂直に振り降ろされる。

 セレーネはステップを踏んで左前へ飛び上がってそれを躱しつつ、こちらを捉えたグリズリーの首元へ杖を突き付ける。 


「《水の斬撃(ラープラッシュ)》!!」


 グリズリーの首元を狙って放った水の刃は、直撃してなお表皮に多少切り込みを入れるだけにとどまった。攻撃を加えた箇所の毛皮が、僅かに赤く染まる。

 

「……やっぱり効かないわね」


 通常の斬撃魔法なら、今の一撃で首を落とすまではいかなくとも、致命傷を与えることは出来ただろう。 

 しかし、《水の斬撃》は高圧縮した水を扇状に放つことで対象を切断する魔法である。 

 対するグリズリーは、北の大地に流れる冷たい河川で魚竜を狩ることもある生物だ。毛足の長いその毛皮は、クッション性と同時に撥水性にも優れており、低出力の水魔法では簡単に弾かれ、威力を軽減されてしまう。


 魔力を練って高出力で放ったなら話は違うが、そうでない水魔法では致命傷を与えられず、機動力の削がれる森の中では、距離を取って魔力を練る時間を作るのは困難だ。


 ……要するに、相性が悪い。


「グオオオッ!!」


 しかし、最大の目的は達成出来た。

 中途半端に傷を付けられたグリズリーは完全に頭に血が上っている様子だ。ここまで気を引くことが出来れば、セレーネが戦闘を継続する限り、ステラへ標的を変えることは無いだろう。

 突き刺す様な拳撃を再度ステップで回避し、回り込んだところに飛んで来た裏拳を間一髪で避ける。


「……ッ!」


 身体を捻り、またある時は縮め、一撃でも食らったら即死もありえる攻撃をなんとか躱しつつ、来た道を遡る様に後退していく。


 ……見えた!


 辿り着いたのは、倒木か何かで一箇所だけ空が見えるほどに開けた空間が広がっている、天然の広場だった。先程の薬草探しの時、通った場所だ。


「オオオオッ!!」


 咆哮を響かせ、大上段から放たれる大振りの一撃を躱し、その僅かな隙に少しだけ魔力を練る。


「セレーネちゃん!!」


 いざ魔法を放とうとした瞬間、聞き覚えのある声が静寂を切り裂く。声のした左斜め前方へ咄嗟に視界を向けると、木々を縫うように高速で飛翔するステラの姿があった。


 あいつ、無茶な飛び方して……。


 内心ひやひやしつつも、戦意の戻ったステラならあの程度やってのけるだろうと納得もし、ただ端的に、この状況を打開するための一手を伝える。


「後脚!!」


 ステラが杖を構えたのを確認し、セレーネもまた杖を対象へ向ける。 


「《紅蓮の火球(イグニール)》!!」


「《水の斬撃(ラープラッシュ)》!!」


 セレーネが斬撃を放ったのは、グリズリーに向けてでは無く、右手側に聳える針葉樹だった。大きな切り込みの入った木が、メキメキと音を立てながら傾いていく。


 同時に放たれた火球はグリズリーの左脚に直撃し、想定外の攻撃を受けたグリズリーは片膝を折る。


 開けた空間では、他の木々に引っ掛かることも無い。大木は見事にグリズリーの頭上へと倒れた。


「グオオオオオオオッ!!」


 グリズリーは両手を交差させて大木を受け止め、呻き声とも取れる咆哮をあげた。圧死こそ免れたものの、傷付いた状態で大質量を受け止めた左膝は、もう使い物にならないだろう。



「宵、白昼、円環、廻転する星の輪、果ての絶界、遥かな輝き……」



 一言一言、ゆっくりと。

 空をなぞる様に。天に触れる様に。語りかける様に。

 髪が靡く。外套がはためく。魔力が練り上げられ、その純度が急速に高まっていく。



「《水の斬撃(ラープラッシュ)》」



 詠唱によって出力を最大限高めた《水の斬撃》は、掲げた両腕ごとグリズリーの首を斬り飛ばした。

《詠唱》

元々の魔力消費が少ない魔法は、その分注ぎ込める魔力量の上限が少ない。

星々に語り掛け、魔力を練り上げることで、その上限を取り払うことが出来る。



GW中にもう一話あげたいですねェ……

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