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魔術学院のセレスティア  作者: タピオカです。
一学年、一学期
3/13

邂逅

「…………夢、か」


 セレーネは夢を見ていた。

 今よりもずっと小さかった頃、姉に魔法を褒めてもらったことがあった。

 何の変哲も無い、されどセレーネの心に強く焼き付いて離れない日常のワンシーン。その時の夢だった。


 姉との夢を見るのは久し振りで、ホームシックにでもなったかしら。とひとりごちる。

 暖かいベッドの中は心地良くて、先程までの夢にももう少し浸っていたかったが、そういう訳にもいかない。今日は七限目まである講義の内、授業開始から四限目まで、まるまる魔法戦の実技授業なのだ。


 セレーネは意を決してベッドを出ると、眠たい目を擦りつつ朝食を済ませ、髪を梳かして新月色のローブと帽子を身に纏い、校舎内の決闘場へと向かった。

 長い廊下に等間隔で付けられたドアは時折ぎいっと音を立てて開き、中から制服を纏った生徒が出てくる。手元の魔時計が指す文字盤は六時四十五分。一限目が始まる七時までに寮から決闘場まで行くには、丁度良い出発時間だった。


 実技授業が行われる決闘場は二階建ての大きなドーム状の建物で、中央部のコートを防護結界で隔てた観戦席が囲む形になっている。

 コート内にはもう一つ、結界内の人間全員が同意すると効力を発揮し、内部で使用された魔法を大幅に弱体化するという結界が張ってある。これによって、実際のものと変わらない戦闘をしても安全が保たれるのだ。


「やあセレーネ嬢、今日は機嫌が良さそうだね」


 背後から声をかけられ振り向くと、映ったのは後ろで三叉に分けられた長い銀髪に、色白で滑らかな肌。声をかけてきた男は、魔法戦士のレーダスだった。


「どーせ実戦やりたくてウキウキしてるだけでしょ、この戦闘狂は」


 レーダスの背後からひょこっと出てきた男は、同じく魔法戦士のイエロだった。東方民族の特徴である褐色の肌と短い黒髪は、北方の住民が多いこの学院では目立つ。


「おいイエロ、煽ってもいいことなどないだろうに……」


「ふふふ……イエロ、そんなに私と戦いたいなら正直に言えばいいのよ?」


 セレーネが少々魔力を出すと、イエロは両手を上げて、舌をぺろりと出してみせた。


「わざわざ負けにいくなんてごめんだね。今日も君にボコされる人がいると思うと、俺は不憫でならないよ」


「まったく、毎日憎まれ口ばっかり叩いて飽きないのかしら」


 イエロの軽口をあしらうのも、随分と慣れたものだ。

 魔法の前に毒舌を撃ち合いながら決闘場へ到着すると、適当な観戦席へと腰を下ろした。

 それから暫く待つと、魔法戦の担任であるデルケー先生が杖をかつかつと鳴らしながら現れた。


 小柄で老齢だが豪快な性格をした先生は、現役の対竜魔導士でもあり、戦闘の改善点や次に覚えるべき魔法などを的確に教えてくれる。何よりも優しいので、生徒からの人望も厚い人物だった。


「今日は魔法戦の実戦じゃな。いつも通り、適当にペアを組んでくれい」


 先生がそう言うとともに、観戦席に座っていた生徒達が一斉に移動を始めた。

入学から二週間も経てば、ペアを組む友人も固定されてくるだろう。無論、セレーネもその一人だった。


「セレーネさま、一緒に組みましょうよ〜」


 声の方を向くと、青いポニーテールをふわりと下げた少女がにこにこと笑っていた。セレーネの親友であるマーレ・ヴァンテーゼだ。

 マーレとは幼馴染であると同時に、同じ貴族学校を出身とする親友で、三年間一緒に魔法を学んだ仲である。

 彼女が得意とする水魔法を教えてあげたのはセレーネであり、弟子に取った覚えがないにも関わらず、マーレはセレーネのことを師として勝手に仰いでいた。


「そうね、でも……」


 普段ならすぐに首肯する質問に言葉を濁した理由は、セレーネの視線の先にあった。腰まで白髪を伸ばした少女が、不安そうにきょろきょろと辺りを見回していたからだ。

 

 黒いローブに対してああも目立つ髪色をした生徒を見れば頭のどこかで記憶しているはずだが、セレーネには覚えがなかった。誰も彼女を誘っていないところからしても、少なくとも実技授業には、この二週間出席していないだろう。


「ねえマーレ、あの子知ってる?」


「いえ、見たこと無いですね。組んであげるんですか?」


「そうね……あの髪留め、この国の品じゃなさそうだし、はるばる他国から来たのに一人ぼっちじゃ少しかわいそうよね」


 セレーネには年の離れた姉しか姉弟がいない。そのため、マーレといると自分が姉になった気分になって、ついついかっこつけてしまうのが昔からの悪い癖だった。


「ごめん、マーレは他の子と組んでくれる?」


「わかりました! ……二戦目は私とお相手してくださいね?」


「ええ、もちろんそのつもりよ」


 セレーネがそう言うと、マーレは目を輝かせて元気よく返事をした。


 まったく、かわいいやつね。


 そう思いながら笑顔を返して、白髪の少女に向かって歩みを進めた。


「そこの白髪の方。あなた、私と組まない?」


 セレーネの呼びかけに向き直った少女は、とても可愛らしい顔立ちをしていた。目はぱっちりと開かれ、右頬に掛かった三つ編みと、腰まで流れる白髪に真紅の瞳が良く映えている。


「私と? めっちゃ助かる! 引っ越しが遅れちゃって、まだ友達いなくてさ〜」


 少女は困り眉をみるみるうちに柔らかい曲線へと変え、満面の笑みで喜んだ。

 遠方からの旅にはトラブルはつきものだ。セレーネも、一週間ほど遅れて到着した生徒を既に数人目にしていた。この少女も彼らと同じなのだろう。


「私はステラ・シュトラール! あなたは?」


「セレーネ。セレーネ・オウレアールよ」


「セレーネちゃんかぁ、よろしくね!」


「えぇ、よろしく」


 互いに名乗ると、すぐそこの空いていた椅子に腰かけた。

 ステラはというと、緊張しているのかわくわくしているのか、しきりに辺りを見回している。目の輝き具合から判断するに、どうやら緊張しているわけではないようだった。


「ね、セレーネちゃんもやっぱり貴族なの?」


「そうだけど……あなたは庶民の出なの?」


「珍しいでしょ〜? この学院は貴族の人が多くてどきどきしちゃうなぁ」


「ま、貴族って言ったってこの学院じゃあそんなに偉いものじゃないわ」


 身分差別などといったつまらないことをするつもりはなかったが、長く貴族として生活していたセレーネは、庶民に対する接し方というものがよくわからない。特にステラの様に、最初から距離の近い人間はことさらだ。それゆえセレーネは、既に少し先行きが不安になってきていた。

《魔時計》

所有者の魔力を吸収して動く時計。

高価な物は所持しているだけでステータスにもなる。



残念ながら投稿頻度が高いのはここらまでです。

私の作品を読んでくださっている物好きな方々は、忘れた頃に様子を見に来てくださると幸いです。

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