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魔術学院のセレスティア  作者: タピオカです。
一学年、一学期
16/16

ステラの秘密

 こんこん。くぐもった木の音が響く。


「ステラ、話したいことがあるんだけど」


 少し待ったが、返事はない。部屋の中には確かにステラの魔力を感じるため、外出しているわけではないのがわかる。寝ているのだろうか。

 もう一度控えめにドアをノックしたが、やはり返事はなかった。寝ているとすれば起こすのは忍びないし、また出直した方がいいだろう。

 そう思い、踵を返したその時。部屋の中の魔力が僅かに揺らいだ。


「ステラ? 起きてるの?」


 やはり返事はない。セレーネはなぜだか、年季を感じさせるダークブラウンの扉が、自分に立ちはだかっている様な感覚を覚えた。

 ドアノブに手をかける。捻ってみると、何の抵抗もなく回る。どうやら鍵をかけていない様だ。不用心だな。と思いつつ、中を覗こうと控えめにドアを開くと、悪臭がかすかに鼻を突いた。


「……?」


 何が起きているかは分からないが、何らかのイレギュラーが起きている事だけは確かだろう。ドアノブを固く握り、意を決してドアを開け放つ。


「な、なにこれ……」


 セレーネは絶句した。

 本、瓶、その他様々な物体が、ゴミなのかまだ使えるのかもわからぬまま散乱している……というか、部屋を占拠している。

 足の踏み場も無いが、かろうじて残っている床に足を挿し込んで、転ばぬよう慎重に歩を進めると、部屋の奥にある勉強机に、ステラがゴミと本に包まれて突っ伏しているのを見つけた。


「ちょっ、ステラ、これどういうことなのっ!」


 肩を掴んで揺すると、ステラは顔をもそりとこちらに向け、重そうな瞼をわずかに開いた。


「セレーネちゃん……きてくれたんだねぇ……」


それだけ言うと、ステラはまた瞼を閉じた。


「え、ちょっと……」


「ちょっと寝るだけだから……これはふたりのないしょにしてね……? まだ、わたしは、この学院に……いたい、か、ら……」


 ステラは言い終わると、また机に突っ伏した。何度肩を揺すっても反応を寄こさず、弱い寝息だけが彼女は死んでいる訳ではなく寝ているだけなのだと証明している。


「起きない……魔法の効果かしら……?」


 セレーネが逡巡していると、ふと、ステラの顔の脇に置いてあるポーションらしき小瓶が目に入った。スライムの様に潰れたステラ越しにそれを手に取り、ラベルを読む。


「これ……“疲労無視”と“睡眠欲遮断”……?」


 事態が飲み込めずに、言葉が口から溢れた。ラベルには確かに疲労無視と睡眠欲遮断の文字が刻まれている。


「まさか──」


 焦りが口を突くと、冷や汗が背中を伝った。

 噂に聞いたことがある。最近安全性を無視した粗悪なポーションが市場に流れていると。

 この瓶も、あの瓶も、その瓶も……!

 セレーネが拾った、部屋に落ちている瓶は全て同じ、疲労無視と睡眠欲遮断のポーションだった。


「このポーションを使って、毎日徹夜で勉強していたってこと……?」


 そうだ、それなら辻褄が合う。もともとステラは覚えがいいタイプだ。何日も、何週間も、何ヶ月もの間、体力的な縛りを無視して勉強し続けたなら、階級差など超越して、学園の秀才達を出し抜く事ぐらい可能かもしれない。

 だがそれには、当然大きな代償が付随する。

 セレーネの予想が正しければ、ステラはポーションの副作用か過剰投薬(オーバードーズ)か何かで昏睡した可能性が高い。


「それって相当マズい──なんなら死ぬ一歩手前みたいなものじゃないの……?」


 セレーネはステラを椅子から引きずり降ろし、首と膝の裏に腕を回して、一つ深呼吸をしてから持ち上げた。ステラの身体はセレーネより少し低い背丈の割には軽く、やはり健康状態は芳しくないのだろうと思う。

 本当ならすぐさま教会に運び込みたいところだが、今さっきステラの言った事が引っかかる。“私はまだ学院にいたい”──王都でステラが話した事とも関連があるとすれば、ステラには他人には言えない事情があるに違いない。無視するのも正解とは言えない気がした。


「……死んだら絶対許さないから」


 結局セレーネは、自分の部屋でステラを寝かせることにした。衛生状態はステラの部屋よりずっとマシだし、ステラの様態が変わった時、術者にそれを知らせる術式を組めば、ある程度の安全性は担保出来ると思ったからだ。

 セレーネは窓を開け、ステラを抱きかかえたまま飛び降りた。人目につかぬようにするなら、廊下を歩くよりこうした方が早い。空中で飛行魔法を展開し、セレーネは夕焼け空に舞った。





「これでよし……と」


 自室の窓は開けていたので、外から入るのには苦労しなかった。術式の方も、そう大変な事ではない。

 準備を済ませたセレーネは、ステラを寝かせた自分のベッドにもそもそと入り込んだ。

 少々狭いが、入れない狭さではない。それに、ステラはどうやら子供体温のようで、真夏でも涼しさを覚えるキオンの夜には、くっついているだけで安心感を覚えた。


「星々よ、どうかこの無垢なる落とし子に、その輝ける祝福を御与え下さい」


 意識が星月夜へと落ちる前、セレーネは布団の中で両手を重ね、強く祈る。

 脳裏に浮かぶのは、些細なことで鈴を転がしたように笑うステラの姿。自身が傷つけてしまった少女が、また幸せそうに笑えるように、たしかに祈った。

二次創作にハマってました、許してください。

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