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魔術学院のセレスティア  作者: タピオカです。
一学年、一学期
14/15

不穏な変化

 冬の名残りの様に付きまとってきた肌寒さもすっかり消え、日が出れば随分暖かい。時は五月中旬。二人が王都から帰ってきてから、二週間が経っていた。


「はぁ……」


「どうしたんですか、セレーネさま」


「いや、何をやってもステラには敵わないなぁ……って」


 セレーネは、手元に創った少量の水をくるくると弄りながらぼやいた。

 あの夜を境に、セレーネとステラの関係性は大きく変わってしまった……という事は特にない。

 王都の宿で迎えた朝、ステラは気まずそうに「昨日言った事は気にしないで欲しいな」と言った。


「……あんたがそれでいいなら、そうするわ」


「うん。ありがとう、セレーネちゃん」


 と、そんなやりとりがあったからだ。

 もし考えが変わっても、ステラならきっと私に泣きついてくるだろうから、その時に助けてあげればいいだろう。そう思ったセレーネは、ステラとは今まで通りの──自分から話しかける事はないけれど、絡まれたら相手をするし、何か誘われたら付き合ってもあげる。そんな関係を続けてきた。

 セレーネ自身、引っ付くな、めんどくさい、と棘のある言葉を放ちながらも、いつしかステラとの交流を楽しむ様になっていた。……だが、それとこれとは話が違う。


「らしくないですね、セレーネさまが卑屈になるなんて」


「卑屈にもなるわよ、同じ相手に二か月も勝てないなんて初めてだし。

 それに、貴族学校の子たち、先生、お父様、お母様、それから姉様。みんなのおかげで私は今ここにいるんだから、その期待を裏切る訳には絶対にいかない」


 私は恵まれた人間だ。血筋に、人に、才能に恵まれてきた。だからこそ、周囲の人々の期待には応えなければならないのだ。

 背負った物の重みを再確認し、セレーネは自然と語気が強まるのを感じた。


「……そんなに気負わなくてもいいと思いますけどね〜」


「そういう訳にはいかないで……しょっ!!」


「いたッ!?」


 先程から手遊びしていた水を小さな球にまとめて左肩越しに放つと、背後でステラが声を上げた。


「なんでわかったの!? 魔力も足音も消してたのに!」


「水の屈折で見えてるのよ。次は《纏う虚空(クラーエル)》でも覚えてくるのね」


 ステラは額を抑えながら、ぬぐぐと唸った。そもそも脅かそうとしてくるな。とは、今更すぎてもはや言う気にもなれなかった。



 劣等や焦燥を募らせる事はあれど、セレーネは何だかんだで平和な学院生活を謳歌していた。その平穏に影が差したのは、六月に入ってからのことだった。ステラの付き合いが、急に悪くなったのだ。

 もちろん、授業には普通に来るし、その時は特段様子がおかしいといった感じもない。しかし、クエストやら買い物やら、事あるごとにセレーネやマーレを誘って行動していたのが、何の前触れもなく、一切なくなったのだ。

 噂では、放課後のステラは寮の自室に籠りっきりで、風呂、トイレ、夕飯の時以外は呼んでも出てこないらしい。実際にセレーネが訪ねた時もそうだったので、噂は本当なのだろう。


「あんた、最近放課後に何やってるの?」


 と正面から聞いたこともあったが、「な、何にもやってないよ〜、勉強してるだけ。ほら、月末は定期テストでしょ?」とあからさまに誤魔化されたので、それ以上聞く気にもなれなかった。

 王都での一件もあるし、何か言いたくない秘密があるのだろう。セレーネはそれ以降、ステラの放課後の行動について追求することはしなかった。その選択が、ステラの身を危険に晒すとも知らずに。

《セレーネの索敵》

セレーネはステラに対抗する為に様々な作戦を考えていた。展開した水球に微調整を加えて上手く光を屈折させ、背後の情報を得る技術も、その試行錯誤の一つだった。




六 カ 月 ぶ り の 更 新。

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