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魔術学院のセレスティア  作者: タピオカです。
一学年、一学期
12/13

到着、北方の大都市

 夕日の下、馬車はがらがらと馬に引かれ、小麦畑の中の小高い丘を越える。


「あ、見えてきたよ!」


 不意に聞こえたステラの声で顔を上げると、鮮やかな青色の尖塔が天を衝いている。王都イリスネージュの中心に聳えるこの国の中央国政機関、イリスネージュ城だ。

 更に数分程馬を歩かせ、商隊は王都を囲む城壁門に到着した。


「いや〜遠かったね〜。とは言っても、まだ結構かかりそうだけど」


 雪の結晶と山々、雄々しい竜の彫刻が荘厳さを演出する巨大な城門の下、商隊一行は守衛の騎士から検査を受けていた。居住者などの許可証を持った人間以外、特に大量の物資を運ぶ商人は、王都に入る際に厳しく検査されるのだ。


「……そうねー」


 疲れが見えつつも未だ上機嫌なステラと対照的に、棘のある声で答えたセレーネは、先程の一件を引きずってむくれたままだ。


「まだ怒ってるの? ごめんってば〜、そんなに私と仲良くするのが嫌だった?」


「……わかってて言ってるでしょ。ほら、降りるわよ」

 

 既に荷物を纏めていたセレーネは、荷台の縁に手を掛けて飛び降りる。


「うぇっ、まだかかるんじゃないの?」


 馬の歩みはすこぶる遅く、このままでは王都に入るまでに一時間はかかりそうなところだ。ステラが驚くのも無理はない。


「やあ君たち。今日はお疲れさま」


 背後から降ってきた声に振り向くと、朝に会った商隊のリーダーが立っていた。


「少ないが報酬だ。軽食でも食べるといい」


 男は麻袋から数枚銅貨を取り出し、セレーネの手のひらの上にじゃらりと置いた。


「ありがとうございます。では、私達はこれで」


「あぁ、君達はキオンの生徒だったね……まったく羨ましい限りだよ」


 男は肩を竦めると、他の冒険者に報酬を払うため、後ろに続く馬車へと歩いて行った。


「ついてきて」


 セレーネは荷物を纏めたステラの手を引き、城門へとずんずん歩いて行く。

 城門の両脇には二人づつ、計四人の騎士が佇んでおり、全身を甲冑で包み、斧槍を携えたその姿は、強烈な威圧感(プレッシャー)を放っている。

 王都を護る騎士は精鋭揃いで、普段は暇を持て余しているが、有事の際には鍛え抜かれたその斧槍術を以て対手を叩き斬るだろう。


「セレーネちゃーん……殺されちゃうよぉ……何するの?」


「シャキっとしなさい、逆に危ないわよ」


 並んだ騎士にひらりと手を振ると、彼らは一斉に斧槍の石突を地面に打ち付け、敬礼した。


「えぇ……? どういうこと?」


「キオンの生徒はギルドの上級許可証を持ってるのと同じ扱いになるのよ。制服さえ着てれば、国内なら荷物検査無しで街に入れるわ」


「はへ〜、そんな特権が……」


 ステラは並んだ騎士を珍しそうに眺めながら、間の抜けた声を溢した。

 期待していた通りの反応を得て満足したセレーネは、先ほど私に恥をかかせたのはこの間抜け声でチャラにしてやろう。と内心で呟いた。


「さ、やっと着いたわよ」


 城門を潜り、一気に視界が開ける。美しい青い屋根の家々が軒を連ね、広場には沢山の露店が並び、行き交う人々は楽しそうに談笑している。

 キオン出発から十時間後、二人は北方の大国が誇る大都市、王都イリスネージュに到着したのだった。


「わ〜……!! キオンより賑わってるし、雰囲気もちょっと違うかも?」


「キオンの表通りは魔法使い向けの店がほとんどだからね。ここは貴族向けの高級店が多いから、雰囲気もだいぶ違うわ。

 ……まあそんなことはいいのよ、とりあえず宿を取りましょう。もう夕方だし、冒険者が増えてきたら部屋が取れなくなるわ」


「おっけー、行こ行こ!」


 駆け出したステラは数歩走ったところでこちらを振り返り、早く早くとこちらを急かす。そこまで急ぐ程切迫しているわけではないので、そんなに急がなくても大丈夫だと窘める。


「だって早く見て回りたいんだもん!」


 そう言ったステラの瞳は、まるでプレゼントを前にした子供の様に輝いていた。

 セレーネは自身の出自故に忘れていたが、王都に来る機会がある人間などごくごく僅かに限られる。元は平民の出だったというステラが舞い上がるのは、確かに当前の事かもしれない。


「ふふ、そうね。行きましょうか」


 その純真さについ笑みが溢れたセレーネは、ステラの後を追って少し歩みを速めた。





「セレーネちゃーん……ほんとにここ泊まるの〜……?」


 宿屋を探し始めてから十分程後、荘厳な石造りの壁が目を引く高級宿の前には、先程とは打って変わって怯えきった様子でセレーネの腕にしがみついているステラの姿があった。


「もうちょっと高いとこの方がいいかしら?」


「そそそそういうことじゃなくてぇ……実は私、お金全然持って無くてぇ……」


「……? 奢って貰うために私を呼んだんじゃないの?」

 

 冒険者ギルドの宿舎は例外として、王都の宿屋は殆どが貴族や腕利きの冒険者向けであり、一般市民や並の冒険者にはかなり高額だ。

 ステラはそれを分かって自分を連れてきたのだとばかりセレーネは思っていた。


「はぇぇ!? そんなわけないでしょ! 私はただセレーネちゃんと王都に来てみたかっただけで……とにかくお金出して貰うのは流石にダメだって!」


「はあ……!? そんなこと言ったってお金持ってないんでしょ?」


「うぐ……」


「気にするなら卒業した後返してくれればいいわよ、あんたの腕ならいくらでも稼ぎ口は見つかるでしょ。ほら入るわよ!」


「うぐぐ……絶対返してやる〜……」


 新手の捨て台詞を吐いたステラを引きずって、セレーネは宿へと入っていったのだった。

 宿に入った後も、見慣れない豪華な内装やサービスにステラが怯えきっていたのは、また別の話だ。

《雪華の館》

イリスネージュ中心部にある高級宿。

他の高級宿より若干安い値段と、武器や防具、馬の管理を徹底していることから、貴族というよりは上級冒険者がよく利用する。


テスト期間でちょっと遅れましたが更新します。

そろそろ夏休みですし、もう少し書く時間を増やしたいところですね。

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