Prologue of Stella
澄んだ空が広がるニ月の朝、魔法使いのステラ・シュトラールは、生まれ育ったクメルの村を後にした。隣国イルバードを挟んだ雪の国、イリスネージュの魔法学校に入学が決まったのだ。
集合場所として指定された地方都市、エストラへ向かうには馬車が必要だが、小さな村に乗合馬車は通っていない。乗合馬車の出ている街までは、そこへ仕入れに行く商人の馬車に乗せてもらうことになった。
決して綺麗とは言えない荷台に一人、広い草原に引かれた一本道を揺られていく。旅の終着は、歴史に名を残す魔法使いを数多く輩出してきた、大陸で三本の指に入るという魔法学校、キオン王立魔術学院である。しかし、そんな華々しい門出にも、ステラの心境は変わることは無かった。
こんなことで希望を抱いちゃいけない。
結局はすぐに戻って来ることになる。
それならば、自分を殺して今まで通りに生きていた方がいい。
あんな条件、どう足掻いたって達成出来るはずもないのだから。
ごとごとと煩く鳴る馬車の車輪。そんな些細なものさえ、ステラの不安を掻き立てるには十分だった。溜め息を一つ吐き、遥か遠くの雪国に想いを馳せる。
名門魔法学校への入学である。普通ならば、入学が叶ったことの嬉しさや、新しい日々への期待。ネガティブな感情があるとしても、未知へ飛び込むことへの不安や心配が関の山だろう。
無論、ステラにも学院生活への期待はある。しかし、それを押し潰すには十分過ぎるほどの不安に彼女は駆られていたのだった。
最初の試験までの四カ月が終わったら、どうせあそこへ戻ることになる。
そうしたら、お母さんはきっとこう言うのだ。
「あなたは親の言う事も聞けないのか、そんな子に育てた覚えは無い」と。
何度聞いたかわからないその台詞は、脳内で淀みなく再生されて、植え付けられた恐怖をフラッシュバックさせる。低回する思考をなんとか止めようと、透き通った冬の空を見上げると、数日前に殴られた右腕がふいにずきりと痛んだ。
前に投稿していた同名作品を書き直したやつです。
前作と違ってこれはちゃんと完結させます……たぶん。