儚さを纏った抵抗
俺は自分の弱さを知っている。桜梨への未練、それを断ち切ることがどれほど難しいか。切り捨てたくても、記憶が、思い出が俺を縛る。
「やれたらどんなに楽か……!」
目の前の桜梨は強い。強くて当たり前だ。異能力も、そして精神的にも、俺を圧倒しているのが分かる。それでも、俺がまだこうして立ち続けているのは──いや、何のためだ?勝利のためか?それとも……桜梨に認められたいという未練か?
「俺は何をしている……」
防御を転用すれば一時的に桜梨を鈍らせることもできる。それが最善手なのは分かっている。だが、俺の手は止まる。傷つけたくない──その気持ちがどうしても邪魔をする。
「菅田………」
俺は菅田の姿を追った。何かをする気だ。あいつは、俺よりずっと割り切って動ける男だ。だけど、それが何か嫌な予感を呼び起こす。
「頼むから、無茶はするな……!」
──────
「もう仕方がないな。」
西の様子は完全におかしい。目の前の相手に集中していない。防御の動きも鈍くなってきている。こんな状況で、多賀を頼るのは無理だ。
「なら、俺がやるしかない。」
俺は心の中の暗い記憶を呼び起こす。あの“全国指導者閣下”から教わった黒魔術。精神攻撃には精神攻撃で返す──そう決めた。閣下に間違いはない。新秩序がくれた成長。心を固めなければならないのだ。
「悪いな、西。お前も巻き込むことになるかもしれないが……ここで終わるわけにはいかないだろ。」
俺は自分の意識を集中させ、闇を引き寄せる。この力は、俺自身をも蝕む危険がある。それでも、この状況を打開するにはこれしかない。
「覚悟しろよ、矢矧」
彼女の冷静さが少しずつ揺らぐのを感じる。その隙を突く。それが俺の狙いだ。
──────
「へぇ……面白いわね。」
西君も菅田君も、いざという時にはとんでもない決断をしてくる。だからこそ、この戦いには緊張感がある。
「でも、甘いのよ。」
西君は迷い続けている。その優しさが彼を縛っている。菅田君も、黒魔術に頼るとは思わなかったけれど、そんな力は私には通用しない。
「ここで決めるわ。」
私は一気に攻撃を強める。菅田君の意識を追い詰め、西君の動きを封じるために。彼らの決断力が想像を超えることは分かっているけれど、私はそれ以上の力を持っている。
「さあ、どうするの?」
──────
西の動き、あれは昔と変わらない。迷ってばかりで、自分の弱さに縛られている。
「変わらないんだね……」
私は心の中でつぶやく。西がまだ私に未練があるのは分かっていた。でも、それはもう私にとって重要なことじゃない。
「結果的に見れば、あれから私もいろいろ考えた。でも、西とは離れるしかなかった。それだけ。」
自分の中ではもう答えは出ている。西への感謝はある。けれど、戻るつもりはない。
「だから、私は前に進むだけ。」
彼がどう思おうと、どう動こうと、私が取るべき行動は変わらない。この戦いの先、私も次のステップに進むための決意を固めていた。