栄光を掴みたい
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試合開始の合図が鳴り響く中、俺、菅田は冷静に周囲を観察していた。広がる緑、桜梨の能力によって変わる地形、そして西の防御の構え。が、菅田にとって戦いとは、秩序を崩壊させ、新たに再構築する場であり、勝利はその過程で得られる結果に過ぎない。
「矢矧か。」
目の前に立つ彼女を見据えた。カリスマ性と統率力を兼ね備えた矢矧は、感情の揺らぎが少ないタイプだと分析している。だが、それが逆に厄介だった。どんな攻撃を仕掛けても、人間の弱みである感情に訴えることは難しい。
「なら、仕方ない。力で黙らせるだけだ。」
菅田の異能力「秩序再構築」は、あらゆる規則性を壊し、再定義する力だ。地面に向けて手をかざすと、矢矧の足元に走っていた桜梨の蔦が突然消え、別の形状に変わって動きを封じる。
「なかなかやるわね。」
矢矧は短くつぶやくと、周囲に精神的な圧をかけ始めた。彼女の能力は「仁の司祭」。相手の精神状態を読み取り、揺さぶる力を持っている。
「心の弱さが見えるわ。」
煽ってくるような矢矧の声が頭に響く。
「孤独を選び続けてきたのね、菅田君。でも、強く見せるために自分を偽っている。」
菅田は眉一つ動かさずに答える。
「それがどうした? 弱さを偽るのは、生きるための手段だ。」
心の中では、確かにわずかな動揺があった。しかし、そんなものを表に出す余裕はなかった。菅田はこれまでずっと一人で戦い、誰にも頼らず生きてきた。それが彼の信念であり、弱点でもあった。
だが、西だけは違った。
「……俺の弱さか。」
西との共闘の日々は、菅田の中に少しずつ変化を生み始めていた。周りの有象無象とは違い、自身に興味を示してくれただけでなく、理解もしてくれた。そんな友情を矢矧の能力は見逃さなかった。
「あなた、西君の存在に救われているのね。」
その言葉に反応しそうになる自分を、菅田は必死で抑えた。
「——救われる? 馬鹿らしい。」
そう吐き捨てながらも、心の奥底で小さな火が揺らめいているのを感じていた。西は、どんな時でも菅田を信じ、共に戦ってきた存在だ。その姿を見ているうちに、菅田の中で人に頼ることへの恐れが少しずつ薄れていったのは事実だった。
「そんなことを考える暇はない。」
再び冷静さを取り戻し、菅田は一気に攻勢に出る。矢矧の精神的な圧力に屈するわけにはいかない。
菅田の攻撃はさらに規則性を乱し、戦場の流れを自分のペースに引き込んでいく。
攻撃が加速する一瞬、矢矧の動きが止まる。菅田はその隙を逃さず、さらに強力な一撃を放つ準備に入る。
「秩序は崩れるものだ。そして、俺がそれを組み直す。」
そう言い聞かせながら、頭の片隅では西の姿がちらついていた。
「あいつはどうしている……?」
なぜか気にかかる。試合前の西のどこか不安が漏れ出ていた顔が珍しかった。
それでもその揺らぎを振り払うように、菅田は戦いに集中する。




