今
試合会場であるスタジアム。四方に広がる観客席からのざわめきが、心の奥に微かな緊張を引き起こしていた。俺、西は試合前の準備運動をしながら、向こう側で同じく肩慣らしをしている桜梨の姿を見つけた。かつての恋人であり、今は対戦相手として向かい合う彼女は、静かに矢矧と会話をしている。その表情は穏やかで、どこか楽しそうに見えた。
「……全然、変わってないな。」
胸の奥が少しだけ痛んだ。彼女と過ごした日々は、西にとって人生の中で最も温かい時間だった。しかし、破局後に西の中に芽生えた不信感は深い闇を作り、桜梨への想いすら押し込めていた。
「おい、集中しろよ。」
隣で菅田が声をかけてきた。短く鋭い一言が、冷静さを取り戻させる。
「……わかってるよ。」
菅田は相変わらずの無表情だったが、その裏には信頼がある。お互いを補い合いながら戦ってきた日々を、俺は強く感じていた。
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試合開始の合図が鳴る。
まず動いたのは桜梨だった。彼女の能力「緑に愛されし者」による蔦が地面から生まれ、あっという間に会場の地形を変えていく。視界が遮られる中、俺は冷静に防御の構えを取る。
「俺に何ができるか、見てろよ桜梨。」
俺の異能力「要塞構築」は、破壊と防御を同時に成り立たせる力だ。だが、あの日から以前ほどその制御が効かないのが現状。桜梨の攻撃を防ぎながらも、心は揺れる。
桜梨の言葉がふと響いてくる。
「西、変わってないね。でも、そのままでいいんだよ。」
その声に振り向く余裕はなかった。けれど、俺の心の奥で何かが動いた。
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一方、菅田は矢矧と真っ向勝負をしていた。菅田。規則的に攻撃を繰り返し、冷静に相手の隙を突くスタイルだ。西は菅田の戦いぶりを横目で見ながら、自分の足元に絡みつく蔦を一気に破壊する。
「くそっ……相変わらず強いな。」
桜梨の優しさは戦場でも変わらない。しかし、その穏やかさがかえって俺にとっては重荷だった。過去に縛られる自分と、前に進む彼女――その対比が、俺の内心を揺さぶる。
戦いの結末がどうなるかはわからない。だが、俺の中で一つの思いが湧き上がっていた。
「俺は、この試合で何を掴むべきなんだ…?」
その答えを探しながら、俺は再び、桜梨へと向き合う。




