断絶と断腸
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「……そっか。」
視界がどんどん地面に近くなっていって、心の中で何かが弾けたような気がした。あの一撃が背中に届いた時、私はもう振り返ることのないはずの感情が蘇った気がした。
「西のことはもう過去なのに、勝てなかった。」
心の中でそう呟く。あの頃の西と、今の西は別人だ。確かに、彼の姿には未練が残っていた。私に向けられた感情に対して、私はどうしても無視できなかった。でも、今は違う。私はもう、その感情に縛られたくない。
「それでも…」
ふと、彼の姿が思い浮かぶ。過去の彼を、あの温かかった時間を、全部切り捨てたわけじゃない。だけど、それが今の私にどう影響する? 何も変わらない。私は私で、先に進むしかない。
「前に進まなきゃ。」
過去と決別したからこそ、今を生きる。未練があるはずなら弾けないはずの、私のトドメをさっき弾いた西のように、過去を切り捨てることで新しい自分を作り上げる。今、私はただその一歩を踏み出している。西と同じように。
「でも、戦えないや…」
自分の体が動かないのがわかる。地面とベッタリになって、感じる痛みも大きくなってきた。
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「この一瞬で決着がついた。」
全てが一気に動き出す。桜梨への未練を乗り越え、菅田が矢矧の奇襲を防いだその瞬間、空気が一変した。心の中で、過去の俺が切り捨てられていくのを感じる。そして、その先に見えるのは、菅田との協力、そして、確信。
桜梨を倒した。だがまだ全てが終わったわけじゃない。ここからだ。矢矧の動きは予想していた通り、俺に気を取られて動いた。そして、その隙をついて挟み込む体制に入った菅田が、俺の背後で力強く動き始めた。
「今、俺は…」
確信した。ここからが本番だ。俺たちの連携が、今までのどんな試合よりも強力だと。菅田と俺、二人が一つの目標に向かって動き出せば、誰も阻止することはできない。
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「これで決める。」
西と連携し、敵の動きを完全に封じ込んだ。矢矧が少しでも気を取られている隙に、俺は次の一手を考えながら進んでいく。目の前の敵に隙を見せず、全力で攻撃を仕掛ける準備ができた。
西が桜梨を倒し、さらに矢矧の動きを誘う。俺があの瞬間を見逃さずに挟み込んだことで、矢矧は確実に次の行動に移れなくなったはずだ。
「ここまで来たんだ、西。」
今は、全てを決める時だ。俺と西、二人の力がぶつかれば、矢矧の動きをその場で封じ込むことができる。今度こそ、この戦いの勝者は…俺達だ。
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「…くっ。」
菅田君と西君の連携が、まるで予測していたかのように完璧だった。気づいた時にはもう遅く、二人に挟まれた形になっていた。確かに、この局面では私がどう動いても隙だらけ。
「まだ終わってはないけどね。」
諦めるわけにはいかない。どんなに状況が悪化しても、私の戦いは終わっていない。だが、菅田君と西君のペースに乗ってしまったら、私の選択肢はもう残っていない。
「……まだ……。」
どんなに抗っても2対1で挟撃されては、防げそうにもないな、なんて考えが巡ってしまった。
そしてこんな絶望を味わうと、いつも思い出してしまうことがある。
「人生で始めた愛した人に裏切られた絶望に比べたら…。」
心の中で誰に言うでもなく呟く。その瞬間、過去の情景が脳裏に浮かぶ。
-回想-
放課後の校庭。夕焼けが広がる中、笑顔を見せる私と、隣に立つ彼。
「矢矧は強いな、いつも何にでも立ち向かっていくから、今日も助けられたよ。そういう勇敢さに惚れて、今こうして一緒にもいるしな。」
彼の言葉に、少し気恥ずかしそうに笑ったあの日の自分。だが、その関係は長くは続かなかった。
いつしか、少しずつすれ違いが生まれ、喧嘩が増えていった。彼は彼で自分の夢に向かい、必死だったのだろう。けれど、当時の私には、その「強さ」に応えるだけの心の余裕がなかった。
「……別れよう。」
彼の口から告げられた言葉。思い返せば、自分があまりに未熟だったことが原因だと気づいている。けれど、当時はただ痛みと悔しさを飲み込むことしかできなかった。
-回想終了-
私は苦い思い出に唇を噛む。現在の戦闘に意識を戻しながら、私は西君の表情に、自分と同じ「迷い」を見つけていた。
「だからわかるのよ、桜梨さんへの想いが。でもそれを振り切っちゃったみたいね。」
独り言のように呟く。菅田君にはわからない西君賀の戦闘スタイルやその力強さの裏に隠れた「人間としての弱さ」に。
「人の心には、弱さがある。でも、それが悪いことじゃない。大事なのは、その弱さを抱えても、どうやって立ち上がるか……。」
その言葉を噛みしめるように、私の視線は再び西君へ向けられる。彼のように私も乗り越えられたら、と。
そんな考え事をしていたら、挟んでくる2人との距離がもう僅かになってしまった。
「最後の悪あがきをしようか」
─── 一矢報いれず、か。
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〜試合結果、西 菅田の勝利〜
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「すごいな…。」
西が、ついに私を越えた。あの瞬間、やっと見えた気がした。彼が勝つべきだと。
「西なら…優勝もできるね…、」
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桜梨が、勝利の余韻を信じられない俺に、そう言った。返す言葉は、今までのすべてを含めてこれしかないだろう。
「ありがとな。」
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準決勝 終




