記念日だらけのカレンダー
「わたしの部屋に入ってもいいけど、中のモノを勝手に見たりしないでね。約束だよ、大貴くん」
「わかったよ愛佳」
愛佳は小ぶりのバッグを抱えながら、ドアを開けて職場へ向かっていった。
「いよいよ、俺たち二人の同棲生活が始まったんだな。俺は仕事まで時間があるから、掃除でもしよう」
同棲のために3LDKの部屋を借りたばかりとはいえ、この広さはなかなか面倒だ。愛佳の部屋に入ってみると、机の上には開いたままのダンボールがあり、その周りに細々としたアクセサリーが散らばっている。
机の上は触らず、床を軽く掃除をしようと掃除機を持ち出した時、机の下に何かが落ちているのを見つけた。
「卓上カレンダーか、机から落ちたのかな」
よく見てみると、カレンダーの数か所に『記念日』と書かれたステッカーが貼られている。
「記念日……何も書いてないから、何の記念日かわかんないぞ」
次の月にもステッカーが貼られていた。その次の月も、そのまた次の月もだ。
「こ、こんなにたくさん……忘れてるのはまずいよな」
俺はカレンダーをスマホで撮影し、後で調査をすることにした。
記念日の調査は、意外と簡単だった。愛佳と一緒に過ごした思い出はスマホに残されているのだから、撮影された写真などを日付で検索すればすぐにわかってしまうのだ。
こうして俺は月に数度訪れる記念日を難なく攻略していき、愛佳と蜜月の日々を過ごしていった。
しかし一つだけ、何の記念日かわからない日があった。この日は大きな行事や出来事があったわけでもなく、写真も残っていない。そうこうしているうちに、その日がやってきてしまった。
「まいったなぁ。プレゼントは用意したんだけど」
不安を抱えながら帰宅すると、部屋の様子がおかしかった。愛佳の靴はあるのに、明かりが無い。
「愛佳、いるのか? どうしたんだ、電気もつけずに」
暗いリビングの真ん中に愛佳が立っていた。
「大貴くん、これってプレゼント?」
「あっ、そ、そうだよ。今日は記念日だからさ」
「記念日じゃないよ」
「えっ」
愛佳はプレゼントを投げてよこした。ズタズタになった外箱の中に、千切られたネックレスが見える。
「これから記念日になる、が正しいかな。本当は記念日になんかしたくなかったんだけど」
「な、何を言って……」
「部屋の中のもの、見ないでって言ったよね」
愛佳が目の前まで来て、ようやく刃物を握っていることに気づいた。
「今日は、大貴くんに初めて裏切られた記念日」
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