第一話 黒ぶち猫とめし屋の娘①
"次は世紀の大発見のニュースです。昨日カスピ海の南西部の洞窟で、古代ヘブライ文字で書かれた石板が見つかりました。
石の状態から、少なくとも2500〜3000年以上も前のものであると思われ、旧約聖書と関連のある記載もみられるとのことです。
なぜこのような場所で、このようなものが、発見されたのか、、、"
TVからアナウンサーが高いテンションで世紀の大発見のニュースを伝えるが、願光寺家の家族は誰一人聞いていない
というのも、朝6:30のこの時間は願光寺家の最も忙しい時間だからなのである
"ズダァァアンッ!"と勢いよく襖が開く
「ごめん!鶴子!母ちゃん寝坊したぁ!」
寝癖爆発頭で起きてきた母ちゃんは、娘に謝ると洗面所でバタバタと準備をはじめる
「もー!3回起こしたんだからね!朝ごはん、食べなきゃ
ダメだよ!パンだけでも食べて行って!
こらー!お前らも起きろー!いい加減にしないとまた
水かけるぞー!!」
鶴子は朝ごはんの支度を終え、お弁当の準備をしながら、大声ですぐ横の寝室に向けて叫ぶ
するとしばらく後にふらふらと小さな兄妹が起きてきて食卓に座る
兄は小学校高学年、妹は小学校低学年といったところだろうか、兄は机でまたコクリコクリと眠りはじめ、妹は「いただきまーす」と言って、ご飯を貪り食う
「こらあ!コータ!シャキッと起きる!
リンネもがっつかない!お行儀悪いでしょ!」
鶴子は叱りながら二人の背中をパシパシッ!と叩くと、その後ろから猛烈な勢いで母ちゃんが出てくる
「よーっし!間に合う間に合う!ここから自転車全力
マッスルパワーでいけば3分のおまけ付きくらい
だぁー!」
そういうと母ちゃんは机に用意されたパンにサラダとハムとスクランブルエッグをのせてほおばりながら家を出ていく
「母ちゃん!気をつけてよ!母ちゃんが気をつけるのは当然だけど、絶対人を跳ね飛ばさないでよ!」
鶴子の訴えが届いているかもわからない母ちゃんは脱兎の如く走り去っていった
「もー、なんで毎日のことなのにみんなちゃんとできんかな、、、」
鶴子がエプロンを脱ぎながら、眉間にしわをよせてため息をついていると長男のコータが鶴子に返す
「毎日できないと言うことは、できないってことなんだよ。だから、それができる姉ちゃんがすげえんだ、うんうん」
コータは頷きながら姉を褒め称える。そこに便乗して次女のリンネが続ける
「そうそう、ゴイスー!ゴイゴイスー!
ねーやん、玉子とソーセージおかわりー!パンもおかわりー!」
鶴子はなんでこの家族にわたしが生まれたんだろう?と思う
父さんの血?いやいや、父さんは真面目だけど、酒飲むとネジが10本くらい外れる感じだったな、、、
げー、まさかわたしも変な酒癖あるんじゃないだろうな、、、鶴子はしかめ面で目をつむりながら少し想像してしまった
「リンネ、朝ごはんはそこにあるだけ!コータ、姉ちゃん
はもう出るから、お弁当と鍵かけ、忘れないでね!」
「はーい!」「はーい、、、↓」
鶴子はコータとリンネに伝えると、カバンを持って家を出た
家を出ると右に寺に続く山道、左にさびれた商店街、そして前の小道を少し先に行くと、駅に続く長い下り坂につながる
鶴子は駅に続く長い下り坂を、ト、ト、ト、と駆け降りる。
行きは良い良い帰りはなんとやらの坂道だ
すると、坂道の途中で脇道から女の子が走りながら話しかけてくる
「ガッツン!おっはよー!今日も遭遇成功ー!」
「まっちー!おっはよー!今日も奇跡の出会いー!」
二人は"パチンッ!"とハイタッチで合流すると、一緒に駅まで走っていく
"ガッツン"とは願光寺 鶴子の苗字と名前からとってものである
“まっちー”こと九条 真智音とは幼稚園からの超幼馴染
鶴子のことを“ガッツン”と呼ぶのはまっちーだけだが、その他のあだ名も"ガンちゃん"か"つるちゃん"なので、なかなか、、、どうも、、、な感じである
本人は"どれもかわいいよねー"と言っているので、まあ、そうならよいのだが、、、
坂道から見下ろす街はよく晴れた朝の空の光を浴びてキラキラと輝いているように見える
ガッツンはこの景色が大好きだ
キラキラを吸い込むように、大きく深呼吸する
「まっちー、いくよ!」
「おうっ!今日は負けんよ!」
二人は少し走る速度を落とし、横一線になると掛け声をかける
「「よーい、、、どんっ!」」
二人は全力で坂を駆け降りていった
いつもと同じ光景。何気ない朝の日常の風景のその隅で、二人をじっとみる影があった。
日の当たらない暗い物陰から、二人が駅に消えていくのを見ると、ガサガサ、、、とそれは行動を始めた
ー続くー