序章
紀元前538年 中東
砂嵐が夕陽を霞ませる砂漠を、長蛇の列で歩く集団がいた
"ドサッ"
一人の女性が頭を抱えながら膝をつくと、前を歩く男性が両手で支えながら話しかける
「エルヴァ!大丈夫か?みんなで帰るんだ
こんなところで倒れちゃいけない」
「・・・ううう、、、うぁぁあああ!?」
エルヴァと呼ばれる女性は更に頭を抱え、振り回して、男の支えを振り切ると、その場で横に倒れてしまった
「エルヴァ!エルヴァ!しっかりしろ!」
男がまた抱き抱えると、エルヴァは"カッ!"と目を見開くと、目は黒目をなくして鈍く緑色に光り、身体は痙攣をしていた
男はその姿に背筋が凍るような衝撃を受けたが、それでもなお、頬に手を寄せながら呼びかけ続けた
「エルヴァ!ダメだ、そんな、、、戻ってこい!」
エルヴァは頭をガクンガクンッと前後に大きく3回振ると "スッ" と左手を天に向けてあげ、人差し指で虚空を指差し口を開いた
「・・・7つの星、、、封印、、、使徒の奏で、、、
同じ音が響き、、、黒い悪魔、、、世の終わり、、、
いくつもの終わり、、、
、、、違う、、、
陽が昇る島、、、海は祝福する
、、、赤は青を連れ、、、続きをゆるされる、、、
、、、とても先、、、それはミライ、、、」
エルヴァはそう言うと、目から光が消え、正気にかえる
「モシェ、、、わたし、、、見たの、、、
行かなくちゃいけない、、、
それは陽がいずる方角、、、はるか彼方の地、、、
私たちがまだ見ぬ世界、、、」
「何を言っているんだ?私たちは戻らなくてはいけない
それはまったく反対の方角じゃないか
それにその方角は、、、」
その方角は、まさに彼らが長き試練の時を過ごしてきた場所を指す方角であり、誰しもが戻りたくなどない方角であった
「うん、、、だけどわたしは行かなくちゃいけない
まだ見ぬ人達の、、、私達の子達、、、はるか先の
子孫のために、、、モシェもいくよ!」
エルヴァはそう言うと"バサァッ"と布を頭から被り、砂嵐の吹く風上に向かい、来た道をよろよろと歩き出した
モシェと呼ばれる男はエルヴァの行動にあっけに取られるが、やれやれ、といった仕草の後、エルヴァを追って、列の流れと反対の方向に歩き出した
あてのない旅になるだろう
人生をかけても辿り着けるかわからない
目指す世界が存在するのかもわからない
しかし再び手にした自由の心に聞こえた声が、エルヴァの使命感と好奇心を強く呼び起こし、踏み出す足はだんだんと揺るぎない強さを見せてくる
砂嵐が止み、天にはまだ若い夜が広がり、星々は宝石のように光り輝き出す
エルヴァは空を見上げる
こんなに星が美しく見えたのは生まれてはじめてだった
それは強く光る命の灯火のよう、、、
東の空に小さく、しかしとても強く輝く星が見えた
エルヴァはその星に手を伸ばし、手で撫でる仕草をしながら言った
「モシェ、あそこ。あの青く光る星、、、
あの下にかの場所はあるわ」
それは世界を終わらせる悪魔が目覚める前の、、、終わりの始まりの出来事だった