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美良乃のモンスター交流日記 ~墓石の下には人外が集まるバーがありました~  作者: 柏井猫好
本編

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34.  十月三十一日 ハロウィン【4】

ルイ視点が続きます。

「毎年ハロウィンは、アメリカ全土をスリーピーホロウ伝説の首なし騎士が行脚するのだよ」


「……そんなの、聞いたことがないんだけど?」


「とはいっても、本人が全国を巡るわけではない。スリーピーホロウは元々ニューヨーク近郊に伝わる伝説で、首なし騎士が出没しては人間を怖がらせていたのだが、月日が経つごとに全国的に有名になってね。映画の題材にもなっている。

 モンスターたちも便乗して、ハロウィンの時だけ妖精族の一種であるデュラハンが騎士の扮装をして練り歩くようになったのさ。この墓地にも毎年十月三十一日の二十四時頃になると現れてキャンディを投げてくれる。それを知っている人間はほとんどいないけれどね」


「ハロウィンのパレードみたいなものなのね」


「あっ! ニッカ―の首なし騎士がスリーピーホロウ伝説に出てくる騎士とは別人であるということは、子供達には内緒だよ? 夢を壊すといけないからね」


「……そう聞くと、年に一度子供たちにプレゼントを配りに行くあの人みたい」


 外へ出ると、紺色の夜空には大きな月がぽっかりと出ていた。

 ネブラスカ州は十月も半ばを過ぎると寒くなってくる。十月の末日ともなれば夜はかなり冷え込むので、ルイは美良乃(みらの)に自分の上着を着せた。


 墓地は6フィートアンダーの客や周辺住民でごった返している。皆首なし騎士の登場を待ちきれないようで、そわそわしている。

 しばらく辺りを見渡していると、墓地の周りの林から馬の蹄のような音と地響きがしてきた。


「あっ、来たみたいよ!」


 アリアが興奮気味に林を指差す。

 ガサガサと下生を掻き分ける音がし、黒い馬に跨った騎士が飛び出してきた。黒い甲冑に黒いマントと黒づくめで、首から上がない。馬の瞳はランタンでも灯したように輝いている。


「は~っははははは! 我はスリーピーホロウの首なし騎士!!」


 首なし騎士の登場に、墓地から「うおお、待ってました!」と大歓声が上がった。


「夜更かししているのは何処のどいつだ!?」


 言うなり、首なし騎士は持っていた黒いジャックオランタン型のバケツからキャンディを鷲掴みにし、人々に向かって投げだした。多くの人たちが馬の進行を妨げない程度に近づいて我先にとキャンディを拾い集めていく。


「なまはげと節分とハロウィンをごちゃ混ぜにしたみたい……」


 ルイの隣で美良乃がポツリと呟いた。ナマハゲとは、日本北部に現われるとされる神の使いだっただろうか。

 アリアとダニエルは嬉々としながら首なし騎士に近づいていくが、美良乃は戸惑ったようにその場で立ち尽くしている。あまりこういうイベントに積極的になるタイプではないらしい。


「ほら美良乃、僕らももらいに行こう」

「え? う、うん……」


 ルイは美良乃の手を引いた。


「は~っははははは! ハッピーハロウィン!!」


 首なし騎士が近づいてきたルイたちに気付いてキャンディを投げる。

 彼は結構力任せにぶん投げるタイプのようだ。ルイはキャンディが美良乃に当たる直前で全てを受け止め、彼女に渡してあげた。


「あ、ありがとう」


「キャッチする楽しみを取ってしまって申し訳ないが、君に当たるとその美しい肌に痣ができるかもしれないからね。おや、君の足元にも何個か落ちているよ」


「あ、本当だ」


 美良乃は素直に足元のキャンディを何個か拾い上げる。


 首なし騎士は数分間その場でキャンディを配っていたが、「また来年相まみえようぞ!」と声高らかに宣い、風のように去って行った。今年はかなり熱の入った演技をしてくれたので、後でチップをはずんでおこう。


 墓地に集まっていた人の多くは帰宅していったが、6フィートアンダーへ戻って行く者もいる。アリアとダニエルは帰宅するようだ。


「初めての首なし騎士はどうだったかな?」


「色々と興味深かった。それにしてもこのキャンディ、その辺のスーパーで売っているものなんだね。モンスター用の特別なものってわけじゃないんだ?」


 美良乃はスマホの照明を頼りに、キャンディのパッケージを矯めつ眇めつしている。


「誰が何を拾うか分からないからね。人間が口にしても問題ないものを配っているのさ。――さて美良乃。もしよければこのまま少し月でも見ないかい?」


「うん。いいよ」


 ルイは彼女を横抱きにすると、地面を蹴って跳躍した。


「ぎゃあああ!? ちょっと、何処へ行くの!?」


 美良乃は怯えたようにルイの首に両腕を回してしがみついてくる。


「もう少し高い位置から月を見よう」


 墓地の管理小屋の屋根に降り立つと、ルイは屋根にハンカチを敷き、その上に美良乃を座らせた。


「あ~、びっくりした。まだ心臓がドキドキいってる」

「驚かせたようだね。申し訳ない」

「いいけど、次やる時は事前に教えてね」

「ああ、約束しよう」


 墓地にはまだ人が残っており、中には酔っ払って大声を上げる者などもいるため、ロマンチックな雰囲気とまではいかないが、美良乃はあまり気にした様子もなく月を見上げている。


 ルイが美良乃の肩を抱き寄せると、彼女は若干身体を強張らせた。そっと顔を窺うと、恥ずかしそうにしているだけで、嫌がられてはいないようだ。


「数日前が満月だったから少し欠けてしまっているが、とても美しい月夜だね」

「本当だね。綺麗」

「日本ではどのようにハロウィンを過ごすんだい?」


「う~ん、トリックオアトリーティングはあまり浸透していなかな。ショッピングモールとかで、小さい子たちが仮装して各店舗を回ってお菓子をもらいましょう、っていうイベントはあるけど。わたしたちくらいの年齢になると、友達の家に集まったり、テーマパークに行ってパレード観たりとか。あとは渋谷に仮装した人が大勢集まって毎年大騒ぎになるけど、わたしは人混みが苦手だから参加したことない」


「ああ、それは僕もSNSで見たことがある」


 ルイが東京に住んでいた頃は、在日外国人や英会話教室などでハロウィンパーティーを催したが、一般的にはそこまで有名なイベントではなかった記憶がある。ルイもよく外国人仲間のパーティーに燕尾服にマントといった、典型的な吸血鬼の仮装をして参加していた。


 その頃の思い出を美良乃に話して聞かせていると、彼女のスマホからメッセージの受信音がした。


「アリアかな? ちょっとごめん」


 美良乃はスマホの画面を確認する。目線がメッセージを読むように動いたかと思うと、すぐにその形のいい眉が顰められた。


「どうかしたのかい?」


 美良乃はスマホをハンドバッグに突っ込むと、重い息を吐いた。


「十一月の下旬――サンクスギビングの時期に、母と姉が来るって」


 その声音と表情から、彼女がそれを歓迎していないことは明らかだった。

 ルイは以前、ナタリーの毒を吸い出した時に美良乃が家族について語ってくれた内容を思い出す。


(――確か、母君と姉上は彼女の自己肯定感を低めている元凶でもあるのだったか)


 あくまで美良乃の話だけを聞いて受けた印象なのだが、美良乃は機能不全の家庭で育ったようだ。


 本来、子供が間違ったことをしたら理性的に諭すのは保護者の役目だ。感情的になって子供を責め立てたり、その子の人格を否定したりするのではなく、何がいけなかったのかを説明し、どうしたら良かったのかを考えさせる。少なくとも、ルイが知る愛情あふれる家庭では、親はそのようにして子供に教えていた。


 にもかかわらず、美良乃の母はあろうことか姉と一緒になって美良乃の至らない点を執拗に攻撃し、人格を否定した挙句、彼女の個性的な言動を嘲笑して尊厳を貶め続けた。それは一種の虐待なのではないだろうか。


 幼い頃からそんな環境に身を置いていたせいか、美良乃は自分は「普通」とは違っていて、非常に恥ずべき存在であり、愛される価値がないと思い込んでしまっている。他人から見た自分がどうであるのかを異常なほど意識しているのも家庭環境の影響だろう。


 殻に閉じこもることで自分を守ることを覚えてしまった美良乃は、コミュニケーション能力が未熟なまま大人になってしまった。嫌なことや苦手な相手からから逃げ続けていたが、これではいけないと一念発起して親元を離れ、ニッカ―にやって来た。


 家族と物理的に距離を置いたことで少しずつだが世界と向き合うことができるようになってきたのに、不愉快極まりない母と姉がやって来るのだ。不安にもなるだろう。


 美良乃の硬く引き結ばれた口が妙に痛々しくて堪らず、ルイは彼女を自分の腿の上に横向きに抱き上げた。


「えっ! ちょ、ちょっと」

「まあまあ」


 美良乃は焦ったようにルイの胸板に手をついたが、今は多少強引にでも抱きしめて安心させてやりたかった。サラサラとした黒髪を指で梳いていると、美良乃は観念したように力を抜いた。


「僕は君の人間らしいところが、とても好ましいと思っている」


 突然の告白に、美良乃はピクリと肩を揺らした。


「人間らしいところ……?」


 困惑した様子の美良乃の頭に頬を擦りつける。


「君はひとりではない。君には僕がいるのだと、覚えておいてほしい」

「ルイが……?」


「僕だけではない。アリア嬢だっているし、ダニエルやフェルナンド、エレナだっているだろう? それに君のおじい様やおばあ様も」


 美良乃は今、変わろうと必死にもがいている。

 先へ進むためには、自分自身と自分が抱えている問題を客観的かつ冷静に見てみる機会が必要なのではないだろうか。


 その上で彼女がどのような発見をし、何を決断するのかはルイにも分からない。けれど、どんな結末になったとしても、いつもと変わらない態度で受け止めてやりたい。


 アリアからそうアドバイスされたからではなく、ルイ自身がそうしたいと思うのだ。


 ルイと美良乃はデートするようになってまだ日が浅いが、想いが育つのに日数は関係がないと思っている。喜びを分かち合うのはもちろん、どんな不安も取り除いてやりたいし、辛い時こそそばにいてやりたい。


 愛を囁くのは簡単なことだ。しかし、それは行動を伴って初めて相手に届く。


 そしてルイは、自分の想いを行動で示すどんな機会も逃すつもりはない。それが弱っている彼女の心に付け入るようなことになったとしても、だ。 


(君への想いがどれほどの熱くこの胸の内に滾っているのか、しっかりと分からせてあげようね、美良乃……) 


 ルイは人知れず口の端を獰猛に吊り上げ、捕食者の笑みを浮かべた。

誤字脱字は見つけ次第修正していきます。

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