31. 十月三十一日 ハロウィン【1】
※11/13 本エピソードを書いた際に見ていた資料が間違っていたようで、ルイよりアントワネットの方が少し年上だったので、そのあたりの記述を修正しました。
その日の夕方、美良乃のバイト先である介護付き老人ホームは、様々な仮装をした子供たちで賑わっていた。毎年ハロウィンになると、保護者に連れられた子供たちがホーム内の各居室を回ってお菓子をもらうのだそうだ。
ホームの住人たちにとっては、日頃あまり接点のない地元の子供たちと触れ合う絶好の機会である。部屋を蜘蛛の巣や髑髏などで飾り付けたり、中には自身もミツバチの触角を模したカチューシャを着けたりして軽く仮装している住人もいるのが微笑ましい。
嬉しそうに子供たちにお菓子を渡す住人と、拙いながらもきちんとお礼を言う子供たちの交流は、見ているだけでもホッコリする。
美良乃の同僚であるエレナもこの日は休みを取って、三歳の娘のマリアを連れてトリックオアトリ-ティングに来ていた。マリアはエレナと同じライトブラウンの肌に黒髪で、ふっくらした頬と、眼窩から零れ落ちるのではないかと心配になるくらい大きな黒い目をした可愛らしい子だ。普段は翅をエレナの魔法で隠しているようだが、この日ばかりは「妖精のお姫様」というテーマの仮装の一部としてちゃっかり顕現させている。フェルナンドのものよりは丸みがあり、薄いグリーンとピンクのグラデーションがとても美しい。
(エレナがフェルナンドの子孫ということは、この子もそうなんだよね?)
じっくりと観察してみるが、フェルナンドの面影はない。
美良乃が幼い子供が食べても問題なさそうなクッキーやクラッカーを小袋に詰めておいたものを渡すと、マリアはエレナにしがみつきながらも、小さい声で「ありがとう」と呟いた。恥ずかしがり屋なところも悶絶するくらい可愛い。
「ありがとうね、美良乃! 今日は仕事終わったら6フィートアンダーへ行くの?」
「どういたしまして。うん、その予定だよ。アリアたちとバーで合流する予定」
「そっか、楽しんできてね!」
美良乃はエレナとマリアに手を振ってキッチンへ戻った。
その夜、6フィートアンダーでバウンサーをしていたのはフェルナンドだった。モンスターもハロウィンの仮装として他の種族に扮することがあるようで、彼もフランケインシュタインの仮装をしている。もっとも、フランケンシュタインが実在するモンスターなのかは知らないが。
「ハーイ、フェルナンド。ハッピーハロウィン」
「よお、美良乃。ハッピーハロウィン」
フェルナンドは美良乃を頭のてっぺんから足の先まで見渡して首を傾げた。
「……そりゃ、何の仮装だ?」
美良乃は白いワンピースを着て、背中に黄色い長方形のクッション背負い、それを幅広の黒いベルトで胴に固定してある。
「お寿司。玉子のやつね」
フェルナンドは無言でひとつ頷いた。どうやらコメントに困るような完成度らしい。
「そういえば、エレナってフェルナンドの子孫なんだってね? さっきバイト先でエレナの娘ちゃんのマリアにも会ったよ。すごくかわいいね」
「ああ、エレナは俺の二番目の妻との間にできた娘の子孫だな。……って言っても、それから数百年経ってるから、正直俺にも娘から何代後の子孫かは分からねえが。エレナは半妖精だが、微かに魔力に俺の気配を感じる」
吸血鬼と違い、妖精族は人間との間に子供ができると、妖精としての力を半分持った半妖精、所謂「ハーフ」が生まれるらしい。それからずっと人間界にいればそのまま半妖精として育つが、幼少期にフェアリーリングを通って妖精界に移住すれば、周囲の魔力を吸収して完全な妖精に育つのだとか。エレナは人間界に留まって育ったので半妖精のままらしい。
妖精族の中には人間の子と自分たちの子を取り替えていたずらをするという、困った習性のある種類もいるらしいのだが、取り替えられた人間の赤ん坊が妖精界へ渡り、そこで成長すると半妖精になってしまうんだとか。
「へえ、モンスターも種族によって色々あるんだね」
「妖精族は元々、妖精界っていう現世とは別の次元に棲む種族だから、モンスターの中でもかなり特殊だな」
「そっか。……あの、年齢を訊くのは失礼かもしれないんだけど、フェルナンドは何歳なの?」
彼は蛍光黄色の瞳で天井を見上げて少しの間逡巡したが、その間も思い出せないのか、右に左に首を捻っていた。
「もう正確には覚えてねえが……。多分、六百年は生きていると思うぜ」
「六百!?」
美良乃は驚いて目を剥いた。
コロンブスがアメリカ大陸を発見するより前ではないだろうか。しかも覚えていないということは、もっと年齢が上である可能性もあるということだ。ルイとマリーアントワネットの年が近いというのも驚いたが、フェルナンドはその比ではない。
「そうなんだ。物凄い大先輩だったんだね。失礼しました……」
「何だそりゃ」
フェルナンドは苦笑し、思い出したように顎でバーの方をしゃくった。
「それより、アリアたちが待ってるんじゃねえか?」
「ああ、そうだ、待たせちゃってる! じゃあ、またねフェルナンド、素敵な夜を!」
フェルナンドと手を振り合うと、美良乃は急いでバーカウンターへ向かった。
誤字脱字は見つけ次第修正していきます。




