26. 十月十七日 吸血鬼とデート【3】
二時間のドライブ、お疲れ様でした。オマハのレストランに到着です。
そこはオマハに数件ある日本食レストランのうち、アメリカ人向けに改良したものではなく、日本人にとっても違和感のない寿司や家庭料理を提供する店だった。内装も木材や漆喰、和紙を使った和モダンな雰囲気で、美良乃でも違和感なく受け入れられるものだ。
レストランに入った途端、店内の視線が一斉に二人に注がれたので、美良乃は居心地が悪くなって背中を丸めた。ルイは視線に慣れているのか、堂々とした態度で案内された座敷へと歩いていく。
ちらりと客を見渡してみると、老いも若きもほぼ全員の女性客の瞳がハートになっていた。中には男性と思わしき客もいる。
美良乃はちらりとルイを見やった。白い襟つきのシャツに紺色のジレを着て、細身のパンツを穿いている。ポケットチーフもかなり洒落たもので、ジレより薄い色の生地に紺色で刺繍を施したものだ。全体的に身体の線が出る服装なので、スリムに見えて実は適度に筋肉がついているのが分かる。
(まあ、今日のルイは普段よりもお洒落な恰好してるし、モデルみたいだからね。食事そっちのけで見惚れるのも分かる気がする)
席につくと前菜にカキフライと餃子を頼んだ。メインにはそれぞれ寿司のセットを注文する。オマハ周辺の日本食レストランでは餃子はとても人気のある前菜で、大抵どこの店のメニューにも載っている。
「そういえば、ルイはに……わたしたちと同じように、毎日三回食事するの?」
座敷とはいえ壁が薄いので、会話の内容には多少気を遣った方がいいだろう。
ルイは軽く肩を竦めた。
「その時の気分によるけれど、きっちり三度食事を摂らなくても支障はないよ。朝は大抵コーヒーか紅茶で済ませる。ところで、君はいつも何時くらいに起きているんだい?」
「九時ごろまでには起きてるかな。わたしは介護付き老人ホームでバイトしてるんだけど、基本夕方から夜のシフトだし」
「ほう、ニッカ―の老人ホームというと、エレナが働いているところかな?」
「うん、そう。エレナを知ってるの?」
「ニッカ―に腰を落ち着けてから随分経つからね。それに、僕は自警団で副団長を務めているから、お仲間は大体全員顔見知りさ」
ニッカ―の人口は人間を含めてもそう多くない。日本であれば町というより、村と言った方がしっくりくる規模だ。その中のモンスターの人口は更に少ないだろうから、お互いを知っていても不思議ではない。
「そうなんだ? フェルナンドといい、エレナといい、その、同じ一族だよね? ニッカ―周辺には多いって聞いたけど、他にもいるのかな?」
「ああ、フェルナンドは昔からニッカ―周辺で暮らしているからね。彼の血筋の者が多いのだよ、エレナも彼の子孫にあたるね」
「えっ、本当に!?」
驚愕に目を剝いた美良乃に、ルイは口の端を緩めた。
「フェルナンドはああ見えて、とても長生きしているんだよ。彼は現在は独身だけれど、過去に三人の妻がいて、それぞれと子供をもうけている。その子供の子孫のひとりがエレナなのだよ」
「二十代後半か三十代前半くらいに見えるから、子供がいたなんて知らなかった……」
妖精族も吸血鬼も、長命種だ。見た目と実年齢の乖離が凄い。フェルナンドの実年齢がいくつかは知らないが、彼に子孫がいるのなら、二百六十年生きているルイにいてもおかしくないのではないだろうか。
「ルイにも、その、子供とかいるの?」
恐る恐る訊いてみれば、彼は眉尻を下げた。
「僕たちは寿命が長い故に子供ができにくい体質でね。過去には子供を授かろうとした相手もいたけれど、結局できないまま彼女とは離別したのだよ」
「そうだったんだ……。それは……、残念だったね」
ルイの表情がやたらと切なく見えて、胸がズキンと痛んだ。彼には家族になりたいと考えるほど愛した女性がいたのだという事実に、打ちのめされたような気分になるのは何故だろう。
恋愛に関して、女は上書き保存、男は名前を付けて保存という例えがあるくらいだ。相手の女性が存命なのかは分からないが、彼の心の片隅には未だ彼女がいる可能性もあるのではないだろうか。
そんなことを悶々と考えている自分に気付いて、美良乃はハッとした。これは世にいう嫉妬ではないだろうか。
――もしかしたら、自分で思っている以上にルイ惹かれているのかもしれない。
1エピソードに詰め込み過ぎる癖があるので、今回は短めで区切りました。次回に続きます。
誤字脱字は見つけ次第修正していきます。




