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五振り目、街に着く



 朝食の用意が出来たという呼び出しがあり、私がダイニングキッチンに行くとある程度死体の片づけを終えた村長が既に座っていた。


「おはようテンコさん、今朝はありがとう。お陰で村が救われた」

「……それは良かった」


 私が――もっと言うと神様が原因です、とは言えないなぁ。


「そういうわけで、村を代表してお礼にこれを貰ってほしい」


 テーブルに置かれていた革袋が私の前に置かれた。

 その時、重いお金の音が聞こえたので口の紐を解いて中を確認すると、大量の銅貨と銀貨が入っていた。


「いいのですか?」

「あの数を退治する依頼料を考えれば、全然足りません。ですが、今すぐ渡せるのはそれくらいしかありませんから」

「なら遠慮なく貰っておきます」


 今の私には路銀が必要なので、素直に貰うことにした。ただし、今ここでアイテムボックスに収納するのは恥ずかしいので革袋はテーブルの隅に置いた。


「ところでテンコさん、ゴブリンの素材や魔石はどうされますか?」

「ん? 素材や魔石?」

「いえ、ゴブリンから魔石を取り出したり、使えそうな武器や防具を回収しなかったので」

「あー……」


 格好をつけて颯爽と家に戻っていました、とか言えない。恥ずかしい。


「畑や柵の修繕費にでも充ててください」

「おおっ、なんとお優しい……わかりました。そうさせてもらいます」


 よしっ、誤魔化せた。

 それにしても魔石か。キッチンとかトイレとか、照明に使われている石のことかな?

 街に着いたら調べねば……。



 話しが終わり、食事となった。

 朝食は焼き立てのパンと、豆と肉とジャガイモと野菜のトマトスープだ。

 美味しく頂き終わったところで、アリスが例の話を切り出した。


「お爺ちゃん、旅に出る話なんだけど……いいかな?」

「……ああ。テンコさん、結論はどうなりました?」

「私は連れて行かない」


 それを聞いても村長は私を見つめたままだ。

 どうやら孫娘の考えはお見通しだったらしい。


「だが、アリスさんは勝手に私に付いて行くと言っている」

「……そうですか」


 やれやれ、と息を吐いた村長はアリスに向いた。


「アリス、旅に満足したら、一度くらいはこの村に戻って来なさい。それと、たまに手紙を送ってくれるとお爺ちゃんは嬉しいぞ」

「うん、分かった」

「アリスをよろしくお願いします」


 深々と頭を下げられ、私は何も言えなかった。



 食器が片付けられ、アリスは出発の準備に入った。

 その間に私はお金が入った革袋をアイテムボックスに仕舞い、外へ出て待機した。

 ふと、移動手段が欲しいと思って村長に聞いてみた。


「村長、最後にちょっと聞きたいんですけど、いらない馬車とかありますか?」

「いらない馬車ですか……それなら裏庭に一台ありますが、どうするおつもりで?」

「私はこれでも魔法が使える。修理して乗って行こうと思う」

「なるほど、そういうことですか。馬車はもう使っていない私の物を譲りましょう。しかし、馬はどうするおつもりで?」

「考えがありますので」

「わかりました。では、アリスが来たらご案内しましょう」


 話が終わったところで、アリスが家から出て来た。


「お待たせしました」


 うん、まるで冒険者だ。


 アリスの服装は、動きやすいパンツスタイルの服の上から皮鎧を着込んでおり、皮手袋に肘当て、皮のブーツに膝当ても装備されている。腰にはポーチ付きの多機能ベルトが巻かれ、左腰には鞘に入れた剣を携えている。背中にはリュックを背負い、上からマントを羽織っている。


「……似合っているなアリス。息子たちを思い出すよ」

「そりゃあ、お父さんとお母さんの娘だからね」


 涙目になった村長は気を取り直して言った。


「テンコさん、使わなくなった馬車はこちらです」


 案内されていると、アリスが隣に立った。


「テンコさん、馬車を使うんですか?」

「ああその方が速いだろう?」

「ですけど、馬は?」

「作る」

「……はぁ」


 半信半疑のアリスはそれ以上は追求してこなかった。

 付いて行った先は家の裏手で、村長が納屋を開けると真ん中に小型の馬車が一台あった。

 見た感じ車輪や荷台に損傷は無く、劣化もあまりない。


「いい馬車ですね」

「村長になる前、大事に使っていたんですよ」


 懐かしむように村長は馬車を触ると、すぐに損傷が無いかと見て回った。


「ふむ、特に傷んでいる箇所は無さそうです。これならすぐに乗れますよ」

「ありがとう。使わせてもらうよ。それより、ちょっと離れてもらえます?」


 村長が離れたのを確認すると、私は馬車を覆えるほどの黒い布を出して被せた。


 ワン、ツー、スリー……。


 心の中で数えながら三回軽く叩いて布を勢いよく剥がすと、そこには時間を巻き戻して新品になった馬車が姿を見せた。

 続けて、黒い布を馬車のすぐ前に敷いて手を三回叩けば、布の内側がむくむくと大きくなって動き出し、やがて馬のシルエットが浮かび上がった。

 布を捲ると、そこには精巧に作られた木製の馬があった。


「木の馬、ですか」

「テンコさん、これは?」

「魔力を動力にして動くウッドホースってところかな。因みに可愛らしい顔が私の力作だ」


 特にくりっと丸い黒目がチャームポイントだ。

 魔力を注入すると、首のたてがみが胴体から顔に向かって黄色く変色を始めた。こだわりポイントの魔力残量のメーターである。

 魔力が入ると、木馬は鳴き声こそ出さないが本物の馬と同じリアクションで動き始めた。木製の尻尾がフリフリと揺れ、アリスと村長はゆっくりと近づくと首を撫で始めた。


「何だかよく分かりませんが、いい馬ですな」

「だね。可愛い」


 存分に撫で終わった二人はテキパキと木馬に馬具を装着し、馬車と連結した。アリスが御者台に座って動かせば、木馬はしっかりと指示に従って前進し、納屋から出たところで止まった。


「うん、これなら大丈夫そう」

「アリス、気を付けてな」

「うん、行ってくるね」

「では村長、またいつか会いましょう」

「はい、またのご来訪、楽しみに待っています」


 私が荷台に乗り込むと、アリスは馬車を動かした。

 これでは私が勝手に付いて行っているみたいだが、馬を用意したのは私であり、アリスが勝手に操縦しているとすれば問題無いのだろう。




 馬車に揺られること何時間か、暇で暇で仕方なくしていると唐突にウィンドウが現れた。



 愛しの神様より、暇そうにしているテンコちゃんにイベントをプレゼントしちゃいます(ハート)

 以下の選択をサイコロで決めてね♪


1.ウルフの群れ

2.ストレートボアの群れ

3.天候急変

4.馬車破損

5.テンコ馬車酔い

6.アリスに欲情


 あっ、そうそう。

 メリットしかない選択肢にしたり、イカサマで都合のいい結果を出したら、その分の代償はしっかりと払ってもらうから、やり過ぎないようにね。



 そりゃそうだよね。

 イカサマ魔法で結果を操作したら、まさにチートそのものだもんね。これからは自重します。

 だから六の目は出るな!


 既に手の中にあるサイコロを振れば、揺れる馬車の中をカラコロ転がり、不規則に跳ねながらも止まった。


 結果は――“五の目”だった。


 サイコロと体が光ると同時、私は突発的な吐き気に見舞われた。

 しかもその吐き気は、吐く手前の一番苦しくて気持ち悪い状態だ。


 うっ、きぼぢばるいっ!!


 私は頑張って耐えた。

 頑張って頑張って耐えた。

 でもアリスに馬車を止めるようには言い出せなかった。

 喋れば今にも吐き出しそうだったからだ。

 何分経ったか分からないが、私は耐え続けた。

 だが健闘虚しく、限界に達した私は馬車から身を乗り出して盛大に嘔吐した。


 こうして私は、ゲロインとなった。


「っ! テンコさん!?」


 アリスが嘔吐した後に気付いて馬車を止めてくれたが、時既に手遅れである。

 しかも、馬車酔いによる吐き気は治まる気配が無い。

 だから私は言った。


「大丈夫だ、問題無い」

「問題大有りですよ! 休憩しましょう!」


 馬車が道の脇に停められた。

 私はイカサマ魔法でステッキの持ち手側の先端から出した水で口をすすぎ、横になっているとアリスに膝枕をされた。


「大丈夫ですか?」

「……大丈夫。ちょっと馬車酔いしただけだ」

「吐くほどはちょっとでは無いですよ」

「……死にはしない」

「そうですけど……」


 会話は途切れ、私は膝枕の気持ち良さにそのまま寝てしまった。




 どれくらい経ったか分からないが、次に目を覚ました時には体調も戻っていた。


「おはようございます。気分はどうですか?」

「……うん、万全だ」

「それは良かった。もうお昼ですけど、食事は食べられそうですか?」

「少しだけなら」

「では、少し重いかもしれませんが、これをどうぞ」


 差し出されたのは干し肉だった。

 せっかくなので手に取って食べてみた。


 ……うん、ただの肉だ。

 味付けは塩のみ。臭みもあってそんなに美味しくない。

 仕方ないのでハットを裏返して手を突っ込み、ペッパーミルを新たに生成して出した。


「胡椒、まだあったんですね」

「それだけ私の芸が気に入られていたということさ」

「テンコさん、あなたは本当に何者なんですか?」

「秘密だ。ミステリアスな女性は魅力的だと思わないか?」

「あっ、それは思います」


 私は胡椒を干し肉に振り掛けて再び食べた。


 うむ、やはり肉には胡椒だ。臭みも中和されて味もパンチが効いていい。

 アリスにもペッパーミルを渡して二人で質素な昼食を終え、馬車は再び動き出した。

 私が馬車酔いしたせいなのか、さっきよりもアリスの運転はゆっくりで穏やかなものになっていた。

 気遣わせてしまったことに少し負い目を感じつつ、自分から言い出してまた馬車酔いしたら余計に心配されそうだったので黙っていた。


 そのお陰で馬車酔いせずに済んだが、街に到着したのは太陽が傾いた頃であった。




ゲロインとなった主人公。まさに道化。


因みにテンコは相手や場の雰囲気で口調を変えるタイプです。

ただ、演技のスイッチが入るとキザったらしくなる。ちょっとした中二病。

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