とあるスライムと出会った話
n番煎じなスライム話ですが、まずは本編をお読みください。
『?!!』
「……」
変なスライムと出会ってしまった。
スライムといえば、魔物の中でも最弱と名高い雑魚中の雑魚モンスター。駆け出しの冒険者どころか、下手をすれば子供でもナイフ1本で狩れる程に弱い魔物である。
オレの目の前に現れたこのスライムも、例に漏れず非常に弱い。
ただ、他のスライムと決定的に違う点がある。
『……(ぷるぷる)』
こいつ、身体をべちゃあと水溜まりのように薄く地面に広がり、そして身体をぶるぶると震わせていた。
敵意のようなものは感じない…どころか、よぅく観察してみると命乞いをしているように見えてきた。
魔物が命乞いをしている事がそもそもおかしいとは思うのだが、そう感じてしまった以上、オレはもうこのスライムを斬り捨てる気はすっかり無くなってしまった。
さて、どうするか……。
『……(ぷるぷる)』
「…………はぁ」
決めた。
「契約、してみるか」
オレは剣士として冒険者登録をしているが、従魔契約術も一応身につけている。ただ適性が低いようで、あまり強力な個体とは契約出来ない。
ただ、スライム程度なら何とかなるか……。
スライムに向けて手をかざし、呪文を詠唱。
「契約」
『―――!!!』
オレの魔力がスライムへと流れ込み、スライムの身体に青い魔力紋が刻み込まれ、すうっと消えた。
これで契約は無事完了である。
「何とか出来た……」
『―――!』
契約によってスライムと魔力で繋がったせいだろうか、スライムの感情が伝わってきた。
恐怖と怯え、それから困惑と好奇心が少々。
まぁ、そりゃそうか。いきなり人間に従魔契約されたら困惑するのも無理はな……、ん? 好奇心?
何でスライムが好奇心を持っているのだろうか……?
魔物は本能で動き、本能のままに生きる生物。理性や自我を獲得した魔物は存在しないし、過去に現れたという記録も無い……、はずだ。
だったら、こいつは何なのだろうか?
「ん〜……?」
『―――! ―――!』
スライムがオレの目の前でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
伝わってくる感情から察するに、オレについていきたいようだ。
従魔契約をした以上は連れていくつもりだったし、さして問題は無いのだが。
「それじゃ、いくか」
『♪』
スライムが頭に飛び乗ってきた。ひんやりぷるんとした感触がちょっと気持ちいい。
スライムを頭に乗せたまま、オレは街へと戻った。
◆◆◆
「…という訳で、従魔契約をお願いします」
「はい、かしこまりました。従魔はスライムですね、ご登録いたします」
街に戻ったオレは、従魔登録の為にテイマーギルドへとやって来た。
自身の従魔を街の中で連れ歩く為には、テイマー登録は必須事項。今までは特に必要無かったのだが、仕方ない。これも必要経費だと思う事にする。
無事に登録を終え、テイマーギルドを後にした。
日暮れまではまだ時間があるので、続いて冒険者ギルドへと向かった。今日の分の依頼報告を済ませる為である。
冒険者ギルドへとやってくると、早速好奇の視線を浴びる事となった。
そりゃそうだ。スライムなんて最弱の魔物を頭に乗せている冒険者など聞いた事も無い。
「お疲れ様です、スウェンさん」
「お疲れ様です、カティアさん。依頼達成の報告に来ました」
「かしこまりました。…あら、そちらのスライムは……」
「さっき、テイマーギルドで従魔登録をしてきたんです」
そう言って、テイマーギルドのプレートを見せた。"F"の文字が刻まれた錆色のプレート、最底辺ランクのプレートである。
「そういう事ですか、かしこまりました」
すぐに理解してくれた受付嬢のカティアさんは、そのまま流れるように依頼達成の処理へと移行した。
この街の冒険者ギルドとテイマーギルドは、ギルドマスター同士が旧友の間柄というのもあって、互いに業務提携を行っている。その為、従魔を連れている冒険者自体はそう珍しくは無い。
"スライムを連れている冒険者"が、珍しいのである。
「お待たせしました、こちらが報酬でございます」
「ありがとうございます」
報酬金を受け取り、オレはすぐさまギルドを後にした。
『……(ぷるぷる)』
ギルド内の空気にあてられたか、それとも冒険者たちのスライムに対する殺気を感じ取ったのか。
スライムはぷるぷると震え、恐怖に怯えていた。
(慣れるまではしばらくかかりそうだな……)
宿を取り、食事を済ませて部屋へと入った。
ベッドの上に座り、スライムを抱き寄せる。
まだ名前をつけていなかったので、今から考えるのだ。
「うーむ、名前はどうしようか……」
『……♪』
スライムから楽しげな感情が伝わってくる。新しい名前が貰える事にワクワクしているようだ。
これは、期待に添えられるような良い名前をつけてやらねばならないな……。
スライム、スライム……。
そうだな……。
「ふぅむ……」
『……♪』
「……ふっ」
オレの腕に巻き付くスライムを見ていると、昔飼っていた犬を思い出した。
「…そんじゃ、"フェイル"にするか」
『!』
よし、どうやら気に入ってくれたようだ。
既に亡くなってしまった飼い犬の名前だが、気に入ってくれたなら何よりだ。
「これからよろしくな、フェイル」
『―――♪』
「え……っっ!」
名前をつけた瞬間、オレの魔力がごっそりと抜け、スライムへと流れ込んでいった。これはマズイ。
最弱の魔物であるスライムに、大量の魔力を受け止められるとは思えない。
魔力切断を試みるが、中々思うように止まらない。
オレから魔力を吸い取っていったフェイルは、青い魔力光を放ちながらその身体形状を徐々に変化させていく。
魔力光が少しづつ弱まっていく……。
「うぁー! やっと喋れるようになったー!」
「は……???」
スライムだったはずのフェイルは人型に…、しかも少女の姿へと変化した。
しかも、その顔は……。
「…ミユ……?」
「ん?」
数年前に生き別れた妹のミユに、瓜二つだった。
この見た目、もしかして主であるオレの記憶にある人間の姿を模したのか……?!
しかもそれが、よりにもよって妹の姿だなんて……。
「悪夢だ……」
「? どうしたんだスウェン? 何で頭を抱えてるんだよ?」
「お前のその姿に頭を抱えてるんだよ……」
「姿?」
「今のお前の姿も声も、オレの妹そっくりなんだよ……」
「そーなのか?!」
何故かびっくりしているフェイル。
「何でその姿を選んだんだ?」
「知らない」
「は?」
「勝手にこの姿になったんだよ。他の人間の姿にもなれないし……」
「…そもそも、どうしてスライムが喋れるんだ? それに、スライムが自我を持つなんて今まで聞いたこともないんだが?」
「あー、それはだな……、その……」
「……」
どうやら心当たりがあるようだ。それに、隠し事が苦手な性格らしい。
それなら、こちらにも考えがある。
「命令だ、知っていることを洗いざらい話して貰おうか」
『あっ! ずりぃぞお前ぇぇぇ!』
従魔契約の強制力を利用し、オレはフェイルを問い詰めた。
「なるほどな……」
「……ぶすっ」
小一時間かけて、オレはフェイルから事の詳細を聞いた。その結果、あまりにも衝撃的な事実を知る事となった。
フェイルの正体は、スライムに転生した古い時代の元人間だった。
遙か先の未来でスライムとして生まれ、どうればいいのか途方に暮れ、雑草やら薬草やらを取り込みながら数日さまよっていたところにオレと遭遇した…、という事らしい。
契約の強制力があるから嘘はつけないはずなので、概ね事実なのだろうが……。
それにしたって、あまりにも現実味が無い話だ。
けど、これでフェイルがスライムなのに自我を持っている理由が分かった。何の事は無い。
元人間だったのなら、人間の姿になった事で話せるようになったのも分かる話だし、思えば初めて契約した時に感じた僅かな好奇心にも説明がつく。
「そうか、元人間か……」
「そーだよ。悪いか?」
「そうむくれるなよ……」
「無理やり理由を吐かされて、気分が良い訳無いだろうが」
「悪かったよ……」
確かに、自白まがいの事を強制されて気分が良い訳は無いな。
「となると、今後は少し慎重にいかなきゃいけないな。スライムが人間になって、しかも喋れるとなったら大事になりそうだ」
「そうか……、それもそうだな」
「元人間だったなら分かるだろう? 普段はスライムの姿で過ごす事。それから人前では喋らない事。後は勝手に行動しない事……」
これから共に街で過ごすにあたり、注意事項などを話していく。
と、そこへフェイルが申し訳なさそうに手を挙げた。
「あー、その事なんだが……」
「?」
フェイルは少し言い淀み、しかし意を決したように言った。
「俺、スライムの姿に戻れないっぽい……」
「はぁ……、は?」
平穏無事に過ごそうと考えていた矢先の、予想外のイレギュラー。
この先に、波乱の展開が待っている事を告げられた気がした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
昔物書き仲間とスライムの話をして盛り上がった際、そこで思いついたものを書いてみたかったので書き下ろしました。ただ、スライムの方の古代人設定はあまり活かせてないですね。反省しています。
もう少し上手くまとめられれば良かったのですが・・・。




