第九話 激闘、第二ステージ
崩れ落ちた石扉の向こうに広がっていたのは、円筒形の大きな空間だった。
一〇〇メートル以上はある天井には、ダンジョン内部であるはずなのにどういうわけか青空が広がっており、外でもないはずなのに周囲は階段状に折り重なった崖で覆われている。
崖の上からは滝が流れ落ち、その下に澄んだ水の流れる川が形成され、生い茂る草木が鮮烈に目を焼いた。
一際高い樹木から、極彩色の羽根を持つ野鳥が飛び立ち、青空を掠め取る。
まるで異国のジャングルだ。
「こ、これは……!」
「第二ステージ。さっきまでのチンケな洞窟とは違って、こっからは一気にステージの規模が大きくなるんだ」
「ここ、一応ダンジョンの中だよね? 外から見た感じ、ここまで広いはずないと思うんだけど……。一体どうなってるの?」
珍しい物でも見るように目を丸くしながら、エリーは問うてくる。
「それもダンジョンの不思議の一つだけど。聞いた話だと、どうやら空間をねじ曲げる特殊な力が働いてるらしいんだ。だから、外から見た大きさに比べて明らかに広い空間が、ダンジョン内部には広がってるんだよ」
知る限りの情報をとりあえず伝える。
なんで建物の中なのに空があるの? とか聞かれたらお手上げだ。
「ふーん」
納得したのかそうでないのか、わからない表情で頷いた後、エリーは空を見上げた。
室内のはずなのに流れる風。
屋内のはずなのに照りつける太陽。
一見地球のどこかにありそうな景色なのに、日常からかけ離れた非日常を肌で感じる。
「このステージの攻略は、崖上にあるアーチを潜ることだ」
俺は、幾重にも折り重なるように立ちふさがっている崖の頂上を指さす。
五〇メートル以上登った先の頂には、石で出来たアーチがぽつんと立っているのが見えた。
「なーる! じゃあ、全力で崖をよじ登ってゴールインすればいいわけだ!」
エリーは納得したように、ぽんと手を叩く。
「そうだけど、それだけじゃ五〇点だな」
「どーゆーこと?」
きょとんと首を傾げるエリーに、「ただよじ登るだけの簡単なミッションじゃないよ」と伝える。
自慢でもなんでもないが、腐っても元《紅の陣》のメンバーだ。
全部で二〇個あると言われるステージの内、半分の第十ステージまでならおおよそのステージギミックを覚えている。
「ここのステージのギミックは、崖を登ること。+(プラス)で、こっちが本命なんだけど……」
第二ステージのギミックを解説しようとした、そのときだった。
「ゴワァアアアアアアアアアアアアアアッ!」
突如として、世界全体を揺らすような爆音が響き渡った。
同時に、青、赤、黄、橙。色とりどりの羽根を騒々しく羽ばたかせながら、そこら中の鳥が一斉に飛び立った。
「あ、やべ。お出ましだ」
「え? なに? 何が来るの?」
エリーの台詞が合図であったかのように、不意に空が陰った。
反射的に天を仰ぐ。
「ぇっ……」
すぐ真横で、エリーが息を飲む音が聞こえる。
青天を覆い尽くすほどの巨大な翼を持った、一羽のバケモノ鳥が飛んでいた。
「って、えぇええええええ!? なにあの大きさ! 生存競争に躍起になって細胞分裂の回数がバグっちゃったの!?」
「な、なんだよその独特な表現は……」
何を言っているのかは皆目わからないが、とりあえず「バカデカイ」という意味だろう事は伝わった。
「ねぇイレイスくん! あの生物の進化過程を全力で無視しちゃってる鳥はなに!?」
「え? 想像通り、生物の進化過程ガン無視しちゃったモンスターだよ」
「やっぱり!?」
エリーの甲高い声が響き渡るのと同時。
その巨大な鳥は翼を翻し、俺達めがけて急降下してきた。






