第七話 刺客
「あれは!」
暗闇の向こうから姿を現したのは、人の子どもくらいの大きさのモンスター達だった。
緑色の肌に、三対の足。三つの赤い目を持った怪物だ。
ダンジョン生物《緑蜘蛛》。序盤のダンジョンで頻繁に現れる、下級モンスターだ。
常に群れを成して、ダンジョン愛を徘徊している。
気を抜けばやられかねない、危険なモンスターだ。
「下がって! 俺がやる!」
叫んでみたい台詞ランキングぶっちぎり1位の台詞を口走りつつ、《緑蜘蛛》達めがけて駆け出す。
彼我の距離は瞬く間に詰まり――接敵。
「「「「ギシャアアアアッ!」」」」
奇声を上げ、順番に飛びかかってくる《緑蜘蛛》達。
目前に迫る二匹の《緑蜘蛛》が、その鋭い足を俺の方へ伸ばす。
が、それに構わず大きく踏み込み、すれ違い様、一閃。
ナイフの銀刃が鋭く弧を描き、二匹の《緑蜘蛛》を真っ二つに切り裂く。
彼等が伸ばした足先は、俺の身体を確かに裂いたが、俺の身体に傷は付いていない。
ダメージはナイフが吸収した。
けれど、彼等の攻撃が止まることは無き。
細い足からは考えつかない強靱な脚力で、地面を蹴って次々と襲いかかってくる。
「はぁあああああっ!」
雄叫びを上げ、片っ端から斬りつける。
《緑蜘蛛》の鋭い足先に左腕を切らせ、カウンターを合わせるようにナイフで頭を切り飛ばす。
と同時に、後方へ跳躍。
死角となる後ろから飛び込んできた《緑蜘蛛》を、肘打ちで吹き飛ばし、体勢が崩れたところを斬りつける。
絶叫と共に飛び散る紫色の体液を尻目に、間隙無く飛び込んでくる敵を捌く、捌く、ひたすらに捌いてゆく。
そんな猛進に、敵も生存本能を刺激されたらしい。
突如、《緑蜘蛛》達の身体が激しく帯電し始めた。
ビリビリと身体の周囲をを囲う紫電は膨張し、俺めがけて一斉に放たれる。
が。
「そんな攻撃、痛くも痒くもないよ!」
全身に降り注ぐ電撃の雨を受けても、まるで痛みを感じない。
意趣返しとばかりに、俺は叫んだ。
「第二形態―長剣!」
ナイフの輪郭が蜃気楼のように揺らぎ、一本の剣になる。
刃渡りが三倍近くにまで上昇した剣を斜に構え、《緑蜘蛛》の群れめがけて突撃する。
群れる敵の間を縫うように走り抜け、すれ違い様に切り捨てる。
上がる絶叫、飛び散る血しぶき。
それらを後方に置き去りにして、群れの間を走り抜けた。
「これで……ラスト」
最後尾の敵を真っ二つに切り捨て、剣を一回空振りする。
刃に付着した紫色の体液が、ぱっと花弁のように飛び散った。
数秒遅れて、どさどさと《緑蜘蛛》達の倒れ伏す音が、後方で響き渡る。
「よっし! いっちょあがり!」
左手でズボンの汚れを払い、後ろを振り返る。
そして――愕然とした。
「なっ!」
折り重なるように倒れている《緑蜘蛛》達。
その中に、一匹だけまだかろうじて立っている個体があったのだ。
そして、その視線の矛先は――あろうことか、後ろで待機させているエリーに向いている。
「しまっ――」
後悔したときにはもう遅い。
「ギシャアアアッ!」
鼓膜を揺らす大声を上げ、エリーへ飛びかかる。
「逃げろエリー!」
悲痛な叫びを上げるが、その声が届くより遙かに早く、《緑蜘蛛》はエリーに肉薄して――
次の瞬間、盛大に血の華が咲いた。