【おまけ】
本編後のちょっとしたおまけです。
スヴァットに抱きかかえられ部屋に戻ると、お世話係がベッドを整えてくれていた。こちらに気付くと一旦手を止め頭を下げた。
「スヴァット様」
「あっ」
声を聞いてすぐに分かった。彼女がいつも付き添ってくれている人だと。
「えぇと…私のお世話をしてくださっている方、ですよね？ いつもありがとうございます。私、少しだけ目が見えるようになって…」
「えっ?!」
すると今まで聞いた事がないような大きな声がした。聞き間違いでなく、お世話係の声だ。おそらく彼女はこちらを見ている。じっとノルを見た後、スヴァットへと視線が移動した。
「…という事は？」
「……獣人だと話した」
「………」
こつこつこつと靴音を立てて歩いてくる。今までの彼女とはまるで違う様子にノルはどう反応すればいいかわからない。
お世話係が近付いてくる。今まではわからなかったが、かなり背が高い。スヴァットに抱えられている分を差し引いてもだ。
「…じゃあ…もう…いいんですか？」
彼女はいつも冷静だった。ノルのしたい事を拾い上げてかなえてくれた。不便を感じないほど些細な事も気付いてくれた。
だがその声にどこか興奮のような緊張のようなものが混じっている。
スヴァットが大きく息を吐く。どうしてか呆れたようなものを感じた。
「ああ…いい。が、」
「やっっった―――――!!」
ぴょんと目の前で跳ねた。間違いなく、冷静沈着な彼女の声なのに。
「ああ～ノル様～～～！ 目が見えるようになってよかった！ いえスヴァット様が治療しているんだから大丈夫だとはわかってたんですけど、ほら、バレないように気をつけろって言うからすごく静かだったでしょ？ スヴァット様もずっと緊張してるし！ 怯えさせたりしたらどうしようって思ってたんです。でもノル様はずっと私にも優しいし声をかけてくれるし…いつもすっごく我慢してたんですよ！」
「……ええ、と…」
「ノル様がここに住むと聞いた時にはメイド…と言っても数人しかいないんですけどね！ で誰がお世話をするかってなって、私が勝ち取ったんですよ！ スヴァット様は今までピリピリしてヒトを…ああ人間の事です。…を、寄せ付けなかったのに。仕事は別ですけど、でも気になるでしょ？ だから楽しみに待ってたんです。そしたら！ こんなに！ かわいらしい方が！」
お世話係のおしゃべりが止まらない。今までとのギャップにノルは驚いたまま戻ってこれない。
「…飛ばしすぎるなと言おうとしたんだがな…」
こうなると予想していたのか、スヴァットが呆れて呟いた。
「…セーケル！」
大きめの声を出すとようやく我に返ったらしく、セーケルのおしゃべりも止まった。
「いやぁすみません…もうめちゃくちゃ嬉しくて…とまらなかったです…」
頭をかいてえへへと笑う。セーケルはまたノルに向き合い、そして恭しく頭を下げた。
「改めまして、お世話係のセーケルです。私も獣人になりますが…どうでしょう？ 大丈夫ですか？」
やや褐色の肌にブルーシルバーの髪色。瞳はスヴァットより濃い目の黄金色。
「もちろんです。えへへ…セーケルがこんなにおしゃべりだって知れて嬉しいわ。これからもたくさんお話ししてほしいです」
今まで随分堪えてくれていたのだろう。セーケルの手を握ると、感極まったように頬を染めた。
「ああ～～～…感激…幸せ…！ こちらこそたくさんおしゃべりしてたくさんお世話させてくださいね～」
どうしてこんなによくしてくれるかわからないが、ノルにはカニーンという前例がいるのであまり気にしない事にした。
優しくしてもらえるのは嬉しい。
優しさも、幸せも。与えられた以上のものを渡していきたいと改めて思った。
頬が痛くなるくらい、ノルは生まれて初めて笑っていた。
