【1】
空にとばりをおろした夜の中。
音さえすいこむような大雪の日。
ただひとつ響かせるような生命の声をあげて赤ん坊は生まれました。
――おんなのこかぁ。
まずがっかりされてしまいました。仕方ありません。彼女が生まれたのは貴族の家。
初めて彼女の母親が宿したいのちで、跡継ぎを期待されていました。
それでも生まれた。よかったよかった。
家に生まれれば利用価値があります。よかったよかった!
しかし生まれてすぐに周りの人たちは、おかしいな? と思うようになりました。
深紅の目が美しい。お母さんに似たのね。あら、けれど、どうしてかしら。
メイドさんが手を振っても赤ん坊は興味深そうに目で追ってきません。
これはどうかしら? おもちゃを取り出してもやはり赤ん坊はぼ~っとどこかを見ています。
おかしいな。おかしいぞ。
メイドさんは慌てて赤ん坊のパパに伝えました。
パパもママも慌てて彼女の様子を見ました。
――あかちゃん、あかちゃん
声を聴かせると反応します。
――あかちゃん、あかちゃん?
けれどおもちゃを見せても反応しません。
――目が見えていないんだ!
慌ててパパはお医者様を呼びました。
するとやはり赤ん坊の目が見えていないとわかりました。
ここは魔法が息づく世界。
貴族の家にふさわしいとびっきりの医者を用意しました。
周りにバレないようにひっそりと。けれどしっかりと治すように。
しかし夏が来て秋が去り再び冬が訪れても赤ん坊の目は見えません。
良い医者は様々試しましたがついにはパパが業を煮やしました。
パパもママも赤ん坊を愛しませんでした。いらない、と言いました。
子供は内緒に内緒に育てられてきたので、存在を知っているのはほんの少しの人達です。
赤ん坊の事を一番知っているのはお医者様です。だからパパはお医者様を殺しました。冬の中、事故に見せるのは簡単です。
赤ん坊もそうやって消してしまうのが一番です。
たくさんのお金を渡して、パパは木こりに言いました。
――すててこい。遠い森の中、誰にも見つからないように。
木こりには愛する妻がいて子供がいます。凍えない暮らしとおいしいご飯が食べれるのは赤ん坊のパパが仕事をくれるからです。
しかたない、しかたない。
いらないと言われたのだからしかたない。
春がまだ芽吹かない日。彼女が生まれた時よりも騒々しい雪の日。
こうして赤ん坊は、短い人生を終えてしまいました、とさ。
――現実には物語の締めのような最期にはならず、赤ん坊は生き延びた。
木こりは領主の命令には背けられない。だが子供を殺すのも恐ろしかった。
そこで木こりは領主の治める地から離れ、関係ない街まで足を延ばした。雪降る深夜、窓からのぞく明かりも消えた頃を見計らい、赤ん坊が入った藤編みの籠を娼館の前に置いた。
高貴な生まれとばれないように質素な籠。皮袋に湯を入れ布を巻いて湯たんぽにした。運が良ければ生き延びる。
この子の為だと心の中で呟いて、罪悪感を消すように暗闇に消えていった。
もちろん当時の事を赤ん坊は覚えていない。
その後、不幸にも木こりに選ばれた娼館は赤ん坊を引き取った。別にそうしたかった訳ではないが『娼館が赤ん坊を捨てた』なんて街に噂がたてば、これまでの信用は一気に落ちるし、何より赤ん坊は可愛らしかった。目が見えないとわかった時はまた面倒だと溜め息が漏れたが、育てれば商品になるだろうとの思惑もあった。
年端も行かぬ頃から捨て子に言葉を投げつける。絵本を読んで聞かせるように何度も。
――ここお前に親はいない。
――育ててもらった恩を金に換えていけ。
――お前にはそれしかない。
――面倒ごとは引き受けていけ。
――そうでなければ、育てた恩を返して出て行け。
目を開けても閉じても暗闇。それと同じように、赤子は、幼子は、少女は、そういうものなのかと受け止めた。
連載小説の仕組みを勉強したくてこのかたちで投稿してみました。
毎日更新予定です。
よければ最後までお付き合いください。