ついにストパー
6時間目が終了しホームルームもいつも通り特に話も無く僕らは帰る準備をしていた
『おい、帰るぞ』
櫻井が肩に鞄を掛けながら俯いて座っている佐伯に言う
『面白かったからいいじゃん』
凛が後ろの席で鞄に教科書を入れながら佐伯を励ます
『最近の俺の立場ってなんなんだよ…』
めんどくさいほど落ち込んでいる佐伯
『え?そりゃぁ』
櫻井と凛が目を合わせ声を揃えて言った
『ボケ要員でしょ?』
『ボケ要員だろ?』
それを聞いた瞬間、佐伯の目からはブワっと決壊したダムのように涙が流れだした
『サクちゃん、クリボーヒドいよ〜』
凛は心の中で叫んだ
めんどくさっ!
櫻井も心の中で思った
なんでこいつと親友なんだろ?
『帰りにアイス買ってやるから取りあえず帰ろうぜ。凛のアレもあるし』
『うん、わかった』
こいつはどんだけ子供なんだ…
凛は不意に佐伯の今後がとても心配になった
『取りあえずドラッグストア行こうぜ』
櫻井がそう言ったところで僕たちはドラックストアに向かうことにした
『おい、どれにする?』
『そりゃ激継続!って書いてるこれでしょう』
『僕あんまり傷むのは嫌だな』
三人はある棚の前で必死にあるものを吟味していた
それは……
ストレートパーマ液!!
そう、凛の髪は入学式から1ヶ月が経過しついにストパーをかけれる長さに到達していた!
『これで明日学校は騒然とするだろうな』
『あぁ、間違いない。』
櫻井と佐伯はニヤニヤと気味の悪い笑みで凛を見る
なぜ二人はニヤニヤしているかというとそれは2週間前にさかのぼる
『さぁ、クリボー俺にお前の素顔を見せてくれ!』
『お前気持ち悪いな…』
『僕もそう思う』
三人は放課後の教室で黒板の前で何やら話している
『だってその前髪の下にどんな顔が隠れてるのか気になるんだよー』
佐伯は子供のように地団駄を踏みながら訴えてくる
『そんなに期待したってきっとブサイクだぞ』
『ひどっ』
この時はまだ櫻井と凛は知り合ったばかりで仲があまり良くなかった
『俺もそうだと思うけどよ〜』
こいつにいわれると癇に障る
『どうしても見せなきゃダメなの?』
『ああ、俺らがお前がストパーをかけるべきか否かを答えてやる。』
このナイスガイは一体何様なのか
そんな事を思っている最中凛は背後からいきなり捕まえられ体の自由を奪われる
『サクちゃん!今のうちだ!』
『佐伯コノヤローはなせー』
明らかに佐伯より体の小さい凛の抵抗は小学生が大人に抵抗しているようなものだ
『俺は、あまりこういうのは好かんがいたしかたない。ご免!』
そういうと櫻井は凛の前髪をガバっと上に上げた!
…
……
………
教室に沈黙が流れる
『……サクちゃん?』
居たたまれなくなった佐伯が思わず口を開いた
『お…』
『お?』
佐伯と凛はその言葉に復唱する
『俺は…』
『俺は?』
……
『信じないぞー!!!』
櫻井のいきなりの咆哮
ナイスガイが叫んだーーーーー!!!
凛と佐伯は初めて心がシンクロした
『どうしたんだよ!サクちゃん!いつものクールさが微塵も感じられないじゃないか!よし!クリボー俺にも見せろ!』
佐伯が凛を自分の方に向けて前髪を上げる
自ずと背の小さい凛は上目遣いで佐伯を見る事になる
佐伯は言葉を発さないまま口をぱくぱくさせている
かたやナイスガイは床にうな垂れている
凛は思った…なんかめんどくさい事になってるな、と
まぁ、この二人の反応を見れば分かるように凛の顔は想像を絶していたのだ
それはブサイクで?
いや違う
じゃあカッコイイ?
それも違う
残るは…そうあれしかない
メチャクチャ可愛いいいいいいいいいいいいいいいのだ!!
それはもう男の顔ではなかった
女の子の中にいても上位に食い込むであろうその顔は
いつも鼻から下しか見えていなかったがよく見ると鼻はある程度高くすっと筋が入っていて唇にいたっては女性的な薄いアヒル口で可愛らしく
隠れていた目は奥二重でパッチリそして右目の下には泣きぼくろというオプションが付いている
そして、ずっと影に潜んでいたからこその白い肌!
学ランさえ来ていなければ男とは分からないだろう
『こんな、こんな事があるのか…』
少し冷静になった櫻井がもう一度マジマジと凛の顔を見る
『な、なんだよ』
『お前、モロッコ行って下のいらないもん取ってこい』
真顔で意味の分からない事を言うこの変態に凛は一応ビンタをした
『……俺が今まで見た美女の仲にお前が入ってもベスト3には入る顔なのにもったいないじゃないか!』
まだ言うかと2度目のビンタをお見舞いする
『?』
凛は気づいた。美女?
『もしかして、僕の顔って不細工じゃないの?』
『バカやろうが!風呂とかで自分の顔見ないのかよ!』
『僕ん家お風呂に鏡付いてないんだよね…』
『洗面台の鏡は!?』
『家に洗面台ない……いつも外にある井戸の水で顔洗うし』
『井戸っていつの時代の人だよ!ここ都内ですけど!』
このやり取りの中ぴくりとも動かない人が一人隅っこでまだ口をぱくぱくさせている。
『俺の親友をあんな風にしやがってどうしてくれんだよ!いつものバカな佐伯を返してくれよ!』
『し、知らないよ!僕のせいじゃないでしょ!』
『頭もじゃもじゃのくせに可愛く生まれてくるんじゃねーよ!』
『もじゃもじゃなんだからせめて顔くらい良くていいだろう!』
二人の一歩も引かない討論は30分は続いた
その日から、櫻井とは打ち解けたので良かったのだが、佐伯に関しては次の日会ったときには女を相手にするかのような態度に変わってしまい、気持ち悪い事この上ない状態になっていた。
そして現在…
『お会計1200円になります』
1200円か、と財布からお金を出そうとすると佐伯が人差し指を揺らしながらチッチッチっと言っている
凛は殴っていいのか迷った
『クリボーよ。ここは俺とサクちゃんが払うから出さなくていいぜ☆』
『まじ!?やったありがとう!』
その言葉に頬を染めながら
『良いって事よ。な、サクちゃん?』
と隣で携帯を弄っている櫻井に言う
『俺財布持って来てねーぞ』
沈黙が2秒ほど流れる
『え?……え、あ、わっかりましたー…120円でしたっけ?』
『1200円です』
店員が冷たく言葉を返す
『本当によかったの?』
なぜか申し訳なくなった凛が佐伯に言う
『ぜ、全然無問題だよ!』
そう言って財布の中身をちら身する
『ていうかアイス買ってくれるんじゃなかったのかよ!!』
思い出したかのように視線を財布から携帯を弄っている櫻井に移す
『あ、あれ?言ってなかったっけ?あれ嘘だよ』
携帯を見たまま佐伯を見ようともしない櫻井
返す言葉も無く落ち込む佐伯
『あ、アイスくらいなら僕が買ってあげるよ!』
そう言いながら凛は、思った
こんな事になるなら自分で買えば良かった、と
そして、疑問に思った
なんでこの二人親友でやっていけてるんだろう?と
途中のコンビニでアイスを買って佐伯のテンションを上げてから
一番近い櫻井の家でストパーをかけることになった
前に佐伯にお金持ちと言う事は教えてもらっていたが想像を絶していた
高級マンション
まさにゴージャスだった
オートロックは当たり前でエントランスはホテルのような造り、道の左右は光り輝き大人な雰囲気を演出する
床は当然大理石だ
『ま、入ってくれよ』
地上12階の櫻井の家
家の中はもっと凄かった
一目でわかるような高級品がづらーーーーっと並んでいてリビングにはなぜか甲冑が置いてある
『こういうの父さんが好きでさ。1000万以上するんだぜ』
丁寧に説明してくれるのは嬉しいがそんな事を言われては落ち着かない
『てか、二人とも一言も発さないけどそろそろ喋れよ』
『だって喋って唾でも飛んだら…』
言ったのは佐伯
『僕は普通に緊張して喋れない…』
『今日は誰も帰ってこないから大丈夫だって俺だって疲れちまうから楽にしてくれ』
鼻で笑いながらクールなナイスガイは飲み物を取りに行った
『だって楽にしようぜ。よいしょ』
佐伯は高そうな独りがけの椅子に堂々と座った
『順応早っ!!』
こいつのバカさ加減にはいつも驚かされる…
少ししてから櫻井が戻って来た
その櫻井の持って来た飲み物を飲み一息ついてからついに行動に移す事にした
『よし、取りあえず凛は上の服脱げ』
『はーい』
そう言われ普通に脱ごうとすると佐伯が声を上げた
『ちょっと待った!ちゃんと上を隠そう!』
『は?』
凛は佐伯の考えが理解できない
『お前完全に凛を女だと勘違いしてるな……だが、そう言うと思ってもってきてるぜ』
『さすが親友〜!』
こいつら絶対変態だ……
凛は心からこいつらに失望した
『サクちゃん』
『ああ』
『エロいな』
『エロいね』
凛のバスタオル姿にエロスを感じている二人
完全に女として凛を見るその目はギンギラギンだった
『もう、早くやってよ』
『そ、そうだな。よし始めよう。』
正気に戻った櫻井は早速混ぜた溶剤を凛の髪に塗って行く
佐伯も2秒ほど遅れてから塗り始める
二人に塗ってもらったので案外早く終わり、ラップで頭を保温して後は待つだけとなった
10分後……
『ねえ、バスタオルもういらないでしょ?』
『いや、今取られても俺らは鼻血を出す気がする』
『気持ちわる!』
『佐伯に関してはもう一回出てるしな…』
そう、先ほど塗ってもらっているときにバスタオルが落ちそうになり少しはだけただけで
佐伯は綺麗な赤い噴水をあげた
『あれはしかたないふぁろ』
今も鼻に詰め物をして押さえている
『ま、そろそろ洗って落としてこいよ。首とかにも付いてるからシャワー使って落としてこい』
『いってらっふぁい』
『わかった。んじゃお風呂お借りします』
待つ事20分
『おい、クリボー遅くない?』
鼻血が止まった佐伯は第2波に備えて詰め物を量産していた
『多分普通にシャワー浴びてるな』
櫻井が本を読みながらジュースを飲もうとした瞬間その時がやって来た
『ふーさっぱりしたー』
『おおおおおおおおお』
風呂上がりの凛のその髪を見た二人は驚愕した
『髪がストレートになるだけでここまで変わるのか…』
『髪の長さとかも良い』
そう、凛の髪は見事にストレートになっているのだ!そして、髪はセンターで分けられストレートになった事により伸びた髪は肩まで達し見た目はまんま女の子だ
言うなれば安田○○子の様な可憐さ
京都弁を教え込みたいものだ
そして、少しまだ濡れている髪に頬がうっすら赤くなっている凛
佐伯にとって刺激が強すぎたようだ
第二波が予測通り吹き荒れる
そんな佐伯をよそに櫻井と凛は普通に会話する
『問題は髪型をどうするかだな。ストパーの効力が切れる事を想定して髪は長さを生かしたものにした方が良いと思うんだが』
『別に僕はこのままでも良いけど。髪が目にかからないから楽で良いし』
『いや、それじゃ明日からお前が大変だ。学校には佐伯みたいな変態がまだ潜んでいる』
そういうと二人して鼻血を出している佐伯を見る
『?』
鼻血に気をとられていた佐伯は全く聞いていなかったようで先ほど量産した詰め物を詰めながら首を傾げている
凛と櫻井はその変態を見て大きくため息をついたのだった