ポーカーフェイスを演じるの
天才
幼少期の私はそう呼ばれていた。少しでも知ることができれば、簡単に物事をこなすことができた。その才能のおかげでできることは多かったが、自分のことを天才だと思ったことはない。人よりもできることが多くて、習得速度が速いだけだ。
しかし、大人たちは私のことを天才だと祭り上げた。数々の大会やコンクールに出場した結果、部屋にはトロフィーや賞状が所狭しと並んでいる。
賞をいただく度に大人は賛辞を贈ってくれた。無垢な私は褒められたことが嬉しくて、大人に喜んでほしいからとさらに頑張った。
しかし、あるとき、絵のコンクールで入賞しなかった。
『一番ではないの?』
その一言と失望したと訴える目がとても恐ろしかった。
一番でないといけない
大人の目が怖いと感じてからはがむしゃらで、何も覚えていない。気がついたらベッドで横になっていて、幼馴染が泣いていた。どうやら、私は倒れてしまい、入院していたそうだ。
医師や看護師によくしてもらえたおかげですぐに退院できた。病院から家までの帰路で私は思ったことがある。
誰かの見栄のために利用されずに生きたい
誰かのためと思っていたことは結局利用されていただけだと気がついたのだ。あなたのためだと言われるがままで、自分の意志などなかった。
そう気がついてから私は手を抜くようになった。大人たちはできていたことができなくなった(ように見えた)私に構うことが減った。彼らの態度にやっぱり利用されていただけだと確信した。
「私、利用されないために手を抜いて生きていくよ」
幼馴染は私の言葉に驚くも、すぐに悲しそうな顔をする。
「私らしくあるために決めたんだ」
『天才じゃなくてもいいんだよ』
無機質な病院の部屋に幼馴染の声が反響していた。細くなった私の腕を掴み、言葉にならない声で彼女は訴えていた。
あの日のことが昨日のことのように何度も思い起こされる。大人たちの態度は変わったものの、彼女は変わらず接してくれる。信頼できる数少ない人だから彼女に伝えようと決めた。
そのためにも抱いた夢に蓋をする。私の体調を気遣ってくれた白が似合う人たちには悪いと思いながらも恩人の顔を塗りつぶす。
感情を表に出さず、ひっそりと目立つことなく過ごす。私が持っている手札を悟られないように、利用されないように封じる。
「だからポーカーフェイスを演じるの」
幼馴染は何も答えない。代わりに彼女の制服のリボンが風に煽られて大きく揺れた。
何も答えなかった幼馴染が伝えたかったこと→『天才と呼ばれた君へ』https://ncode.syosetu.com/n0919hz/
塗りつぶされた恩人の話→『ひまわりの花束に願いをこめて』https://ncode.syosetu.com/n5707hz